起こした理由
「ふむむ、なるほどなるほど。確かに、剣聖さんには困りものです。動かそうと接触したら、いらんとこまで見抜かれましてー。いやー、個人的に痛いとこを突かれたのは、人の心がないのかなーって、ついつい思っちゃいましたね」
「あ、うん、そうね。兄貴は割とズバズバ言うから。特に魔導師とか武人とかには、厳しいこと言うのが自分の仕事、みたいに思ってて」
「一筋縄じゃ行かない人ってことですけどー、そんな人が-、星詠みさんの思惑通りに動くとは思えませんよねー」
「何が言いたいのかしら……?」
悠太は我が強く、クセが強い。
利があったり、納得できることならば指示に従うので、基本的には問題ない。
ただ、基本的からズレたら別だ。特に剣に関すること、空を斬ることに繋がると思えば、暴走に近い挙動をする。
「つ~ま~り~、星詠みさんと剣聖さんとは関係ない~、ってこと。そりゃぁ、星詠みさんは怖いよ? 戦略で負けちゃうってことだし。でも、なんでもかんでも-、星詠みさんに繋げるのは違うんじゃないかな」
「……そうよね。香織がいるから意識しちゃってたけど、気にしすぎな面はあるわね。……でも、ここでそれを言うってことは、このカース・パンデミックを起こした理由に、天乃宮の星詠みは関係ない。今回のことがなくても、ボタンの掛け違いがあれば、似たようなことをやったって言いたいの?」
「うんうん、それそれ。やっぱりさ、人の所為にしちゃダメだよね。戦略で負けたとしても、泣き寝入りすることも選べるんだから」
意図が伝わって良かったと、満面の笑みを浮かべる。
無機質な瞳も、少しだけであるが、感情が灯っているように揺れている。
「星詠みが関わってるかもって部分、気にするのね? 罪が軽くなることはないけど、押しつけといた方が精神的に楽になるわよね。なんでしないの?」
フレデリカだけでなく、ライカや沙織も疑問を浮かべている。
その様子に、満面の笑みは消え、瞳と同じくらい無機質になった。
「知ってるかな? 責任を外に押しつけると、魂が軽くなるんだよー。具体的には、呪詛や洗脳への抵抗が弱くなる。例としては、こいつらだね」
指差す先は、剣人会の剣士。
呪詛によって自我を奪われているが、フレデリカよりも実力は上だ。
「こいつらって、一応は仲間でしょう。無価値みたいな言い方しなくても」
「無価値だよ? こんな呪詛に呑まれて、新興宗教の手駒にされるなんて、無価値以外になんて言えばいいのか分かんないなぁ」
「……呪詛の専門家も抵抗できないから、パンデミックになってるんでしょうが。剣が本分の連中に何言ってるのよ」
「そこは強度の問題だね-。草薙家の人達には最強クラスの使ったけど、こいつらは一般人レベルのだよ。それに、最強クラスでも効かない人居るし-。鬼面さんとか-、ねぇ」
鬼面の名前が出たことで、彼女の基準を少し理解した。
再現でなく、純粋な技として破城剣を振るう奥伝。響也という奥伝の手を借り、断流剣の再現という鬼札を切ってなお、有効打を与えられなかった化け物。
神造兵器を破壊しうる剣士と比べれば、ほとんどが有象無象だろう。
「なら、おたくのボスなの? うちのクソ兄貴にボロックソ言われて村八分にされて、挙げ句の果てにテロ活動。呪詛に頭やられてるっぽいだけど、そっちも無価値じゃないの?」
「詰んでるって意味ならね。でも、信念だけはあるよ。直前まではお家再興のために頑張ってたし、才能もないのに。呪詛の拡散だって頑張ってたし、亀より遅いけど。血反吐吐くんじゃないかなってくらい頑張って、一度も折れなかった。綿霧の呪詛は多分、相性が良すぎたんじゃないかな? 理解できないけど」
悠太よりはマシだが、ボロクソな評価だ。
この場に居ない首謀者に対し、哀れむ気持ちが沸いてくるのだった。
「泥船じゃない。兄貴にトドメ刺されなくても沈みそうじゃないの。シラフのくせによく付き合ってられるわね。弱みでも握られてたりする?」
「えー、そんな薄情に見える-? 散々、ボロぞうきんみたいに絞り尽くしたあげく、焦げ付いたら生贄にしようとする連中と、同じに見えるのー?」
ホテルを張り巡らされた呪詛が圧を増した。
無機質な瞳が、呪詛で染まる。
「悪かったわ、ごめんなさい。そこまでヒドいとは思わなかったの」
「なら、いいよー。会話だけで内情を見抜くようなのは、剣聖さんくらいだろうしねー。ところで、お弟子さんなんだよねー?」
「武仙流は名乗ってないけど――っ!」
突如として身を翻し、大きく倒れ込む。
床に叩き付けた反動を利用して体勢を立て直し、左手で首を押さえる。
「あれれ、避けられちゃったー? 決まったと思ったんだけど、もしかして見えた。中伝でも見破れる人、少ないんだけど」」
「……一足一刀、じゃないわね。意識しないで斬るってとこ?」
「当ったり~。無念無想、の五歩手前くらい。観の目と組み合わせれば、あんまり避けられない……はずなんだけど、薄皮一枚しか斬れなかったね。――それで充分・だ・け・ど」
妖刀《綿霧》の感染条件は満たされた。
傷を通して呪詛が侵入し――体内の火界咒によって焼き尽くされた。
「……っ、ぅぅ……なにが、充分なのかしら?」
「えー…………なに、それ……自分で自分を焼いてるの……」
火界咒――倶利伽羅・浄焔。
呪詛への対抗策であるが、体内を焼き続けるという常軌を逸した使い方をしていた。
「いつ、斬られるか分からないんだから、焼き続けるしかないでしょう?」
「道理だけど、狂ってるね~。身体を焼くなんて、熱がスゴいことになってるんじゃない? 四〇度超えてるって言われても、納得しちゃうよー」
「浄焔は呪詛特化だから、三八・七度くらいよ。ちょっとボーッとするけど、身体強化でゴリ押せば問題ないわ」
火界咒と身体強化を同時使用し、維持し続けることは、生半可なことではない。
どれだけ効率よく術式を制御しても、呪力がすぐに枯渇する。魔導一種の一〇倍もの呪力量を誇る、フレデリカだからこその力業だ。
「それよりも、格下相手に不意打ちなんてやってくれたわね。わたしじゃなかったらお陀仏よ」
「あの剣聖さんの弟子だよ~? 油断なんてしないし、草薙家の当主さんが行っちゃったから、ちょうど良いな~って思ったんだ」
「なんだ、気付いてたんだ。幻術で誤魔化してたって」
感染者の一人が、ライカに向けて武器を振るうが、何も出来ずに通過した。
沙織や伊織に対しても同じく、空振りに終わる。
「気付くよ-、これでも観の目持ちで、天眼って呼ばれることもあるんだから。まあ、気付くのに遅れちゃったから、邪魔できなかったんだけどね。見慣れない術式だったけど、あれなんなの?」
「教えるわけないでしょう」
混血の妖精種としての特性を活用した、ライカの幻術だ。
フレデリカが悠長におしゃべりしていたのは、幻術を使った脱出を手助けするため。危機感がなかったわけではない。
「だよねー。教えられても困るからいいんだけど。と・こ・ろ・でー、当主さん達を逃がせたって思ってる? だとしたら、間違い、だよー」
「屋上に伏兵でも置いてるんでしょ、どうせ」
「なんだ、分かってるんだ。中伝でも、そこそこ腕の良いのを置いてるんだ。だから、当主さん達が危ないかもね。早く駆けつけないと間に合わないかもしれないよ?」
「いや、もう間に合わないでしょ。あんたに背を向けるとかありえないし、すぐに倒せるほど実力差があるわけでもないし」
フレデリカに焦りはない。
呪詛を焼ききった傷から手を離し、剣型のデバイスを構える。
「わたしの仕事は、あんたを屋上にあげないこと。向こうは向こうでどうにかするわよ」
「薄情だね-。魔導一種の当主さんがいるから大丈夫だって思ってるの?」
「信じてるだけよ。ここまで来たら、信じる以外に出来ないからね」
誰を信じているのかを口にせず、デバイスに呪力を流した。
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次回は、3月21日(土)1:00 を予定しております。
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