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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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不器用な魔導剣士

 剣を振り、蘇生する。

 初めから数えていないが、一〇〇は確実に繰り返した。


(あーもう、ふざけんな!)


 優勢なはずのフレデリカは、なぜか苛立っていた。


(一〇〇回以上殺してるのに立ち上がるのは、まだいい。死に覚えしてわたしの動きを学習するのも、まあいい。でも、この成長速度は納得いかない!)


 身体強化以外の魔導は使用していない。

 被弾もまだ一度もない。

 だが、ひやりとする回数は加速度的に増える。

 蘇生してから再び殺すまでの時間は、少しずつ伸びている。


(本当に、納得いかない! なんで、なんで……わたしにはないのよ。この子の一〇〇分の一ほどでもいいのに。なんで、ないのよ……)


 平均的な魔導一種保有者の一〇倍もの呪力を持つフレデリカは、魔導師としての将来を期待されていた。

 辺り一面が畑で、車がなければ生活できない田舎だが、小学校入学前から魔導を習い事にしていた。だが残念なことに、呪力量が多いフレデリカには、才能がなかった。呪力を扱うという、魔導師として基本的かつ必須の才能が。


「ちょっとフーカ先輩、なんで避けられるんですか!? 三〇発の包囲射撃を、どうやして避けられるんですか!?」


「穴が空いてたら包囲じゃない」


 一〇〇近い塾を渡り歩いた二年間。

 自分では教えることが出来ないと匙を投げられ、たどり着いたのが従兄であり師である悠太の元。

 まともな魔導を覚えたのは、悠太に師事をしてからのことなのだ。


(成長速度は納得いかないけど、それ以上に厄介なのは仕様ね。なによ、死んで蘇生したら呪力全回復って。これじゃ、あの先輩を不用意に落とせないじゃない)


 フレデリカは、三回目で気付いた。

 成美は一〇回目でこの仕様に気付き、そこからは制限無しに光弾を撃ち続けている。

 成長速度が速まった要因の一つだ。


(おまけに、死ぬと同時に儀式用の術式まで仕込んでる。先輩のダウンに嘘はない。死の衝撃から立ち直れないだけだろうけど、――同時に、儀式用術式の発動準備をしている)


 殺さないという選択肢はない。

 蘇生までのわずかな時間という休息がなければ、フレデリカはとうに落ちている。


「死ぬの、辛くない? 痛みはないけど、何も出来ずに首を斬られるのは、怖いでしょ?」


「そりゃーもー…………………………怖いです」


 良かったと安堵して、首を落とした。

 わずかな時間を逃さずに息を整え、心が折れない後輩に辟易とする。


「怖いなら諦めればいいじゃない。一応言っとくけど、術式を仕込んでるのは気付いてるから」


「ですよねー」


 フレデリカは思った。

 軽っ! と。


「……もうちょっと、反応してくれない?」


「ぶっちゃけますと、どっちでもいいんです。気付こうが気付くまいが、フーカ先輩が取れるのはあたしを殺すことだけです」


「別に、封印とかしてもいいのよ」


「あたしが負けましたって言うまで、根比べしたいんですか?」


 想定した中で、最悪に近い答えだった。

 成美は与えられたハンデを正しく理解している。理解した上で、フレデリカがやってほしくない、不死者の戦いを強いている。


(わたしが自分の利点を知って、相手が嫌がる戦法を考えられるようになるのに、何年かかったっけ?)


 少なくとも、中学に上がってから。

 悠太に初伝を渡された時に、ようやく出来るようになったか、と付け加えられたのを覚えている。


(やっぱ、苦手……というか、得意な事なんてない、か)


 対人戦において最も有効なことは、心を攻めること。

 フレデリカもしているが、言葉責めは上手くいかず、力押しにしかなっていない。

 むしろ、成美の一言に動揺をしている。


(……どうしよ、枯渇覚悟で火界咒を使う? それとも、効率優先でバレット? でもなー、どっちもメジャーな術式だしなー、バレットに関しちゃあっちのが上手いしなー)


 魔導三種を取得しても、フレデリカは不器用なまま。

 使える術式のほとんどは事前準備が必要で、使えても雀の式神のように不格好で歪になる。

 また、戦闘用の術式は身体強化や防御系がほとんどで、攻撃に関しては剣術に極振り状態。アレコレと悩んだとしても、剣を振った方が早い、という結論に達する。


「――ちっ」


「ははは、やっと、かすりましたよ」


 光弾は右の太股をかすった。

 ダメージと呼ぶほどの影響はないが、かすりさえしなかったことを考えれば、大きな一歩である。


「どうです、どうです! こっからは加速度的に当てていけますよ! 魔導を使わなくていいんですか!」


「そうね……うん、認識を改めるべきね」


 傷口を強く押すが、痛みはない。

 動くのに支障は一切ないが、要である足に一撃を受けたことに違いはない。


「認めるわ。ここからは、格上として相手するから」


「……え? 魔導、使わないんですか? ここままじゃ、負けるかも……」


「対応力、継戦能力、その他諸々を考えて、これが一番勝率高いの。格上相手ならなおさらに」


 意識はすでに切り替わっている。

 斬るに付随する以外の選択肢を、極力切り詰めるように。


「え、えー……素直に使ってくださいよ!」


「オン・イダテイタ・モコテイタ・ソワカ」


 真言により、韋駄天の加護を受けてたフレデリカは、疾風と化した。

 バランス良く強化するこれまでと違う速度に特化した強化は、光弾の檻を易々と突破し成美の首に刃を届けた。


「魔導使わないって言ったじゃないですかぁぁぁ!!」


「言ってないわよ」


 叫ぶ隙を逃さずに、容赦なく刃を通す。


「……確かに。でも、かんけーないです! 速くなった分を考慮すれば」


「緩急自在は基本中の基本」


 ――首を落とす。

 ――首を落とす。

 ――首を落とす。


「……あの、首ばっか狙う理由は?」


「効率良いじゃない」


「確かに即死ですけどぉ-! 分かりみですけどぉー! ちょっとは加減してください!!」


「格上相手に加減したら、死ぬのはこっち」


 フレデリカに油断はない。

 淡々と攻め、罠を見抜き、光弾を躱し、首を取る。

 精神的な高揚や動揺を抑えることは、武人としての基本。ただ、フレデリカは自力では出来ない。そのため魔導を使い再現しているのだが、精神的な負荷が大きい。疲労はもちろんのこと、長時間使用すると、解除しても感情が抑制された状態が続く。

 そのため、格上相手にしか使用しないのだ。


「ぜい、ぜい、ぜい……」


「辛いならやめていいのよ? これ以上続けると精神が死ぬわ」


「そう、ですね…………やっと、完成しましたから――自殺術式起動」


 成美が自身の頭を撃ち抜くと、センター全域に仕掛けられた術式が発動する。

 フレデリカは回避を試みて、無駄だと力を抜く。


「檻、ね。術式構築の阻害まで入れるなんて、気合い入れすぎじゃない?」


「格上相手に加減したら死ぬのはこっち、ですからね。……まあ、二〇二回死んでますけど」


「数えてたんだ」


 一〇〇回も数えていないフレデリカは呆れながら、天井を見上げる。

 結界の外には、一〇〇〇近い巨大な光弾が浮かんでいる。


「ふふふふふ、ふははははははは! どうですか、フーカ先輩! 死んでもただじゃ死なない作戦は! 外からは簡単に壊せる代わりに、内からは壊しにくく、阻害効果を付与する結界を、壊せない限りあたし達の勝ちですからね!」


「そうよね。兄貴なら結界斬って抜け出すだろうけど、わたしには無理ね」


 戦いが始まってから一度も仕舞わなかった剣を、鞘に収めた。


「だから、魔導師として対処するわ」


 精神抑制を含めた、全ての身体強化を解除。

 剣を収めて空いた手は、印契を結ぶ。日本の魔導師であれば一度は見たことがある、有名は印契。不動明王の不動根本印を。


「ライカ先輩、今すぐに――」


「ノウマク・サンマンダ・バザラダン・カン」


 火界咒。

 魔を払い退散させる、不動明王の火を借り受ける真言。

 魔導災害の対処としてよく使用されるそれは、ライカや成美も見たことがある。

 だが現代の魔導師であれば「もっと効率のいい術式があるよね?」と見向きもしなくなる。


「……なん、ですか……それ」


 フレデリカの火界咒は、まるで別物であった。

 最低限の効果を発揮する小咒でありながら、すべてを焼き尽くした。

 フレデリカを閉じ込めるための結界も、仕留めるための光弾も、何一つ残さずに。


「わたしは不器用だから、何となくじゃ使えないのよ。だから、一歩一歩理解を深めたの。不動明王の逸話はもちろん、それを取り巻く密教の世界観。変化する前の伝承に加えて、魔導学の基礎から全部。火界咒に関するものも関しないものも、可能な限り。――おかげで、この低度なら出来るようにはなったわ。一〇年かかったけど」


 不器用なフレデリカがなぜ、魔導三種と取得したのか?

 疑問に対する答えが、コレだ。


「効率、悪すぎません……?」


「魔導は基本、効率が悪いのよ。科学のが簡単で便利だし。だから極めようと思うなら、効率なんて無視しなさい。常軌を逸するほどに理解を深めてようやく、魔導の深淵に一歩踏み込むの」


 フレデリカは剣士ではなく、魔導師だ。

 未だに初伝であるのも、魔導に時間を割いているため。


「………………はあ、やっぱり何か飼ってるのね、あの先輩」


 魔導師であるからこそ、フレデリカはライカを警戒していた。

 多すぎる呪力を保有する者は、条理から外れている。突然変異といえるフレデリカの、一〇倍もの呪力量をみて、常に警戒をしていた。存在は知らずとも、何かがいると想定し動いた。


「でも、おかげて終わりが見えたわ」


 ライカから立ち上る炎を前に、印契を結ぶ。

お読みいただきありがとうございます。


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