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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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原理もさっぱり

 剣人会は外交に力を入れている。

 これは事実であり間違ってはいないが、本質ではない。

 どれほど外面を良くしようと、体面を取り繕うとも、剣人会が剣豪集団であることは変えられない。剣豪と謳われるほどの達人が集まったとき、何を第一にするかと言われれば、当然のように剣の腕である。

 具体的な数値を出すなら、近畿支部の総面積の半分は道場として運用されている。


「閣下。ホンマに、ええんですか?」


「約束を後回しにするのは気分が悪い。これまでは機会に恵まれなかっただけで、気にはしていたんです。……それとも鏑木さんは、俺がなあなあな気持ちで三剣について語ると思っていたんですか?」


「いやいやいや、そないなことは決して。正直、嬉しい限りですが……今は修学旅行中でしょ? 一時間とはいえ時間を取ってもらっていいのかな、と。あと、人払いをしないともっと人が集まりますけど……」


「三剣は別に門外不出でもなければ、見ることを許されない類いの祕剣でもありません。――そもそも、個人的には知られれば効果が減衰する祕剣の類いは好みではありません。合理の極み、肉体の芸術と言うべき術理には美しさはありますが、まず一挙手一投足の全てを三剣とすることを目指す武仙流とは相反する――」


「あ、閣下、ストップです。多方面にケンカ通り越して宣戦布告するのはやめてもろうていいですか? いいですね? 納得してくれてよかったです」


 近畿支部の道場は、ワンフロアをぶち抜いて作られている。

 つまり、一階層につき一つ。それが複数階分作られており、剣人会の会員であれば利用と見学をすることを許されている。奥伝同士が稽古をするとなれば、中伝はもちろん奥伝も見学に来るのが常。

 ある意味で開けた道場で、剣聖と奥伝が稽古するとなればどうなるだろうか?

 入りきらないほど見学希望が殺到し、定点カメラで稽古の様子がビル中で配信されることとなる。


「約束の確認ですが、断流剣について一時間レクチャーをする、で間違いないですね? 今ならまだ、別のものに変えることも可能ですよ」


「断流剣でお願いします。……けど、ホントにここでええんですか? 中の様子が見れない道場もありますけど」


「見せたくないものなら、魔導戦技で使いませんよ。それに、個人的には増えてもらった方がいいので。俺の負担軽減のためにも」


 剣人会から距離を置いていても、剣聖には仕事が入る。

 剣聖でなければ斬れない存在への対処という無理難題を押しつけられるが、悠太に回ってくる仕事は大半が三剣でなければ斬れない仕事だ。

 しかし、三剣は武仙流の奥義。武仙本人も、姉弟子も、悠太も、拡散すること自体は問題と思っているが、名目もなしにバラまくと後が大変だと理解している。名目があり、剣豪が集まる場で稽古できる状況というのは、悠太にとって好都合なのだ。


「レクチャーの方法については、鏑木さんは奥伝ですからね。武仙流の弟子でないことも加味して。これからの一時間、断流剣しか使わないので、勝手に――盗み取ってください」


「もちろん、ええですけど……何を斬るんです?」


「何をって、あるでしょう、ちょうどいい奥伝が。退魔技巧の増えるヤツが」


「……あのー、一時間も衆人観衆の中、奥伝を晒し続けろって言うんですか? 一応、鏑木家の秘伝なんですけど……」


「対策を取られたならその対策を取れば良い。それができないなら、ただの欠陥品に過ぎません。意味のない欠陥品を一時間さらし続けるだけで、剣聖の断流剣を観測できるチャンスの逃すんですか?」


「閣下の正論は反論しづらくて困るわぁ……」


 響也が真剣を抜くと、同じ剣が一一本、宙に出現した。

 一本の剣を一二の乗倍に増やし、自在に操る奥伝。かつて二度不覚を取った剣を前に、悠太は不満そうに眉をひそめる。


「シンプルですね、今日は。魔導戦技の時よりも気が抜けていませんか?」


「今日やるのは稽古ですよ? 本気ではやりますが、殺し技を使う気なんてさらさらありませんからね!」


 仕方ないかと、剣を構える。

 呼吸を一つ整えるだけで、悠太の準備は終わる。

 無意識下でも扱える祓魔剣ほどではないが、断流剣を使うと思えば使える域にまで練度は高まっている。気功法による身体強化がなければ使えない破城剣や、全身全霊の集中が必要な絶刀と比べれば、極めたと言っても過言ではない。

 つまり、断流剣には型がない。

 使うと意識し続ける限り、一挙手一投足の全てが断流剣となる。

 この状態を一時間続け、一二本の剣を捌き続けるだけ。

 つまり悠太にとって、稽古とは名ばかりの作業であった。


「さて、きっちり一時間。これで終わりですが、どうでした?」


 呼吸一つで、意識が切り替わる。

 動き続けたことで身体に熱はこもっているが、やっていたことは剣舞。疲労は準備運動程度であり、身体が温まって絶好調である。

 それに対し、一時間も奥伝の魔導術式を維持し続け、作業とばかりに最適解を選び続ける悠太を斬ろうと奮闘した響也は、息も絶え絶えであった。


「閣下って、アレですね……三剣がなくても強いタイプなんですね……」


「断流剣の感想を求めたんですが、なぜそう思ったんです?」


「だって当たらないんですもん! 死にゲーのレベル一縛りでもしてるんじゃないかってくらい適確に、容赦なく捌き続けるんですもん! 弾幕ゲーの最高難易度ボスでも出せって言いたんですかぁ!?」


 理不尽にキレられているが、仕方あるまい。

 剣聖に求められるのは、理不尽なまでの強さである。魔導術式が使えないために、身体能力が他よりも低い悠太が剣聖たり得るのは、対応力が理不尽なまでに高いからでもある。


「夏休みでも魔導戦技でも、今以上のを捌いていただろうに。で、感想は? 一瞬たりとも斬らさなかった断流剣はどうだった?」


「…………すんません。原理もさっぱりですわ。……いや、剣になんか纏ってるなぁ、ってのは分かるんですけど、何を纏ってるんかがさっぱりで……解析にどんだけかかるか」


 悠太が断流剣を使い続けている様子は、ライブ配信はもちろん、録画もされている。

 録画データの解析については許可を取っており、対価として近畿支部から一〇億円が悠太に対して支払われている。


「ふむ、折れてないようでなにより。――そこで提案があるのですが、ちょっと待っててください」


 制服姿のまま、フレデリカに預けて手荷物を取りに戻る。

 奥にしまっていたであろうソレを、ごそごそと漁り取り出す。手荷物をフレデリカに預け直すと、肩で息をする響也に取り出したソレを見せ付ける。


「こちらには、断流剣を再現した魔導術式が記録されています」


 近畿支部全体が殺気立った。

 一口に三剣と言っても、習得の難易度には明確な差がある。破城剣、断流剣、祓魔剣の順に難易度は上がり、祓魔剣に至っては奥伝技・再現も習得難易度が高く挫折する者が多い始末。

 断流剣は祓魔剣ほど難しくはないが、それでも習得できる者がごく一部。

 剣豪ならば誰もが欲するであろう至宝を、よりもよって武仙流の剣聖が出したのだ。


「……武仙流の、いえ……最弱の剣聖としての発言やと思ってええんですね?」


「もちろん。俺の断流剣を元に作られた術式ですし、効果や汎用性についても俺自身の目と剣で確かめています」


 剣聖がそう口にする意味は大きい。

 仮に、まるっきりの嘘だったと判明した場合、いかなる犠牲を出してでも討伐されるほどに、奥伝技・再現の認定は重いのだ。


「それを踏まえて提案します。剣人会「退魔技巧」奥伝、鏑木響也さん。この再現術式の使用権を、一億円で購入しませんか?」


お読みいただきありがとうございます。


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