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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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ただのヒマ潰し……

 修学旅行の始まりは新幹線からだ。

 朝早くから大人数で駅に集まり、こだまは遅いだの、ひかりやのぞみが良かっただのとのたまう生徒や、新幹線の違いは分からないが説明されると面倒だからと適当に合わせる生徒、早すぎて駅弁が買えないことを嘆く生徒など、皆が思い思いに騒いでいる。

 ただ、二年生のみとはいえ、学校一つ分の人数を一度に移動させるわけにはいかない。

 普通科、魔導科で集合の時間はずらされており、悠太達特別班は魔導科と同じ時間での行動となった。


「なんで麻雀をするスペースがないのかしら?」


 座席を回し、四人が対面する形にすると、香織はそうのたまった。


「四人集まったときの定番だな。俺はいつもカモにされる、強いのか?」


「下手の横好き。牌をジャラジャラするのは好きなんだけど、ちまちま切ってくのが性に合わなくて気付いたら負けてるのよ。でも、時間を潰すにはアレが一番でしょう。各駅+待ち時間だからどうしてもヒマでね」


「ヒマということは、いつもは新幹線じゃないのか?」


「長距離移動の基本は飛行機よ。空港から車移動になるけど、新幹線も変わらないし。それに同じヒマなら短い方がいいじゃない」


「言われてみればその通りだが、俺には縁のない話だな」


 悠太は個人的な旅行はしないが、剣聖として遠方に派遣されることがある。

 その際の移動方法は、相手側の金銭事情に左右される。悠太が強く出れば、新幹線や飛行機の選択だけでなく、グリーン車やファーストクラスの指定もできるのだが、無頓着のため相手側に任せている。


「……あのさ、ツッコミする部分が違うわよ。わざわざ座席回してまで麻雀をしようとする非常識にツッコミなさいよ。香織も、こんな公共の場でジャラジャラうるさい遊びをしようとしない。トランプか、せめて将棋くらいにしなさい。どっちも持ってきてるから」


 フレデリカは慣れた手つきで並べていく。

 トランプや将棋だけでなく、マグネットで固定する囲碁やチェスも出している。

 声音こそ渋々感を出しているが、それ以外の部分から楽しみで楽しみでガマンできない感が溢れていた。


「……ライカは希望ある? 私は麻雀一択だからどれでもいいし」


「え、え? じゃ、じゃあ……トランプかな。ポーカーとかなら、広いスペースはいらないし、皆でやれるしでちょうどいいと思う」


「ポーカーですね! オーケーですオーケーです! ――あ、香織と先輩はポーカーの役って分かります?」


「大丈夫だよ。トランプの遊び方は、一通り出来るから」


 フレデリカは慣れた様子でシャッフルし、カードを一枚ずつ配っていった。


「私は詳しくないけど、交換って一回まで出来るのよね?」


「捨て札と同じ数よ。勝負の仕方にもルールがあるけど、普通に出して勝ち負け決めるだけでいいわね。一位が三点で、一つずつ減ってく方式の一〇回勝負でいい?」


「随分手慣れてるわね。まさかとは思うけど、何か賭けるとか言い出さないわよね?」


「……え?」


 フレデリカの視線が、手札と香織を行ったり来たり。

 香織に変化がないと分かると、ライカとの間も行ったり来たり。

 あんぐりと開いた口よりも、雄弁な目である。


「香織ったらもう、何変なこと言ってんのよ。賭け事なんてそんな……言うわけないじゃないの。……だって、ほら、ただのヒマ潰し……お遊びよ?」


「賭けなしトランプをするなんて、珍しいな。アイリにさえ手加減なしでむしり取りにかかるというのに」


「シャラップ! バカ兄貴は黙ってなさい!!」


 必死に誤魔化そうとする姿が居たたまれないのか、ライカはそっと視線を外す。

 フレデリカが、実妹であるアイリーンを溺愛しているのを知っているライカには、想像も付かなかった。賭け事が絡むといえど、アイリーン相手に本気で勝ちに行く姿など。


「南雲くん、カードはあなたが切り直して、改めて配り直しなさい」


「構わないが、俺で良いのか? 慣れてないから時間がかかるが」


「イカサマしそうなヤツにディーラーさせるよりマシよ」


 そういう理由ならと、全員からカードを回収する。

 よほど良い手札だったのか、フレデリカのみが抵抗をし、イカサマ疑惑がより深まる結果となった。


「ぬぐぐ……さっきの手札なら……」


「魔導師なら少しは隠しなさい。ほら、一〇回勝負なんでしょ。テキパキやってくわよ」


 疑惑を深めるだけの一回戦以降は、淡々と進行していった。

 順位についても、早々に二極化した。

 やる気がないのかと思うほどに戦績が振るわず、最下位争いを始めた悠太と香織。

 運が良いのか強い役を連発するライカと、確率論まで使って貪欲に勝とうとするフレデリカの優勝争い。

 勝負を制したのは、ライカと香織であった。


「二点……二点差で、負け……」


 悔しがるのは当然のことだが、フレデリカのそれは度を超していた。

 例えるなら、公営ギャンブルで財布をすっからかんにした大人のような、絶望を身体全体で表現していた。


「あのさ、南雲くん。フーカのってここまで勝ち負けに拘ってたっけ? 大会で負けたときよりもアレな気がするけど」


「ギャンブルになる勝負だとのめり込むから、いつものことだ。正直、成人して賭けられるようになったら、堕ちるところまで堕ちるんじゃないかと戦々恐々している」


 ライカと香織は、もう一度フレデリカを見下ろす。

 悠太が心配する未来が実現したら、同じポーズを取るだろう事が容易に想像がついた。


「……ないと、思うけど……フーカちゃんってオンラインカジノとか手を出してないよね? 未成年だけど、抜け道って色々あるらしいし……」


「そっちは安心してください。実体……と、ギャンブルに使うのはアレですが、公営のヤツとか、手にできるカードとか牌じゃないと燃えないようなので」


 それなら安心……しそうになって待ったをかけた。

 ギャンブル自体は良いのだが、問題なのは熱中しすぎていること。

 違法な上に破産しやすいオンラインカジノよりはマシではあるが、公営ギャンブルでも破産のリスクはあり、熱中度が高ければ高いほど破産のリスクも上がるのだ。


「この子って、あなたのしごきを受けて、魔導資格の勉強も続けてるんでしょ? 学校でも部活の掛け持ちまでしてるのに、よくギャンブルにハマれるわね」


「実家が田舎で娯楽が少ないのと、フーの母親が動物、特に馬好きなのが原因だな。学生時代に乗馬もやるほどで、ガマンできなくなったら競馬場でかぶりついていたそうだ」


 遺伝だったか、と呆れる二人に気付いた悠太が、さらに付け加える。


「馬券に関しては、ほぼ買っていないな。買うときは、推しの血統への応援馬券として単勝一口のみ。複勝だとかワイドだとかも、よく分からないと言っていたから、ギャンブル中毒の気はフレデリカ個人のものだ」


 悠太は口にしないが、アイリーンにもギャンブル好きの気はあると思っている。

 フレデリカのようにカードや公営ギャンブルには一切手を付けので分かりづらいが、彼女の場合は会社経営という形で発揮されている。

 口にしたら機嫌を損ねるので絶対に言わないが。


「……誰がギャン中よ。お馬さんとか自転車とか船とか追いかけて何が悪いってのよ。国が保証してるし、予想するだけなら未成年でも合法だし、アイドルみたいに追っかけしているのまでいるのよ」


「じゃあ、聞くが。お前が上げたその中に推しとかはいるのか? 俺が見てる限り、誰が勝つかどんな展開になるかを予想して、それが当たったかどうかしか興味ないように思えるんだが、それは俺の気のせいか?」


 六つの目がフレデリカに突き刺さる。

 どんな形であれ、質問に答えれば解放されると分かっているのに、何も言わずにトランプを回収した。


「……トランプも充分やったし、次は将棋にしない? ちょうど二セットあるから、効率的に総当たりが出来るわよ」


 三人の中で、灰色だった疑惑が、真っ黒に変わったのは言う必要もないだろう。

お読みいただきありがとうございます。


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