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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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修学旅行の班決め

 科学万能、魔導全盛と呼ばれる現代。

 魔導は溶け込んだ当たり前の存在で、魔導が使えるだけでは誰も驚かない。だが、魔導が特別な不思議な技術であることに変わりはない。ごく一部の例外を除いて誰もが一度は魔導師になることを夢見て、才能という壁に当たって夢を諦める。

 魔導科に入れる生徒は、例外なくエリートなのだ。

 エリート達が目指すものこそが、プロの証明である魔導資格。

 最も優しい魔導三種でさえ、受験者の大半が合格できないという狭き門。合格するかしないかで文字通り人生が変わる国家資格に挑むのだ。魔導科の生徒達は一流大学を目指す受験生のごとく猛勉強に励んでいる。

 だからこそ、だろうか。

 天魔付属の生徒達は、合法的に騒ぐことができるイベント事を逃さない。


「さて諸君、今日は待ちに待った――修学旅行の班決めだあああぁぁぁ――っ!!」


 魔導科も、普通科も、関係ない。

 天魔付属の二年生達は、各々の教室で似たような雄叫びを上げた。


「南雲、お前どこ行きたいとかあるか? 俺はやっぱり伏見稲荷かな。千本鳥居とか生でいちどはみてみたいしさ」


「その近くに縁結び系のスポットがあったっけ? 卒業までには彼女欲しいし……」


「彼女欲しいなら縁結びよりナンパでもしろよ。一〇〇とか二〇〇とかアタックすれば一人くらい当たるって言うぞ。あ、僕は神社でもいいよ。その代わり、甘味処は付き合ってもらう。美味しい京菓子に抹茶とか最高じゃね」


「まてまて、甘味処に行くくらいなら喫茶店だろう。京都にはオシャレで美味しい喫茶店が山ほどあるんだぞ。それに上手くいけば、女子の班と合流してごご、ゴ、合コンとかも……」


「ゴゴゴ、合コン……! その手があったか、天才か! よし、喫茶店だ。縁結びよりも合コンが良いに決まってる!!」


 わいわい、ガヤガヤ。

 ワイワイ、がやがや。

 きゃっきゃ、きゃぱぱ。

 スッゾコラー、ヤッカコラー。

 あわわ、はわわ。


 控えめに声を出したところで、かき消されるほど賑やかで。

 悠太が意見を出すまでもなく、話は進む。

 議論がヒートアップして口ゲンカとなっている場所は数知れず、誰かが口ではなく手を出しそうなほど熱狂が教室を支配する。


(普通科でこれなら、魔導科はどうなんだか……)


 口を挟む余地がなく、手持ち無沙汰になった悠太はフレデリカの様子を想像する。

 意見がぶつかった相手と互いに胸ぐらを掴み上げ、喧々囂々と乱闘一歩手前の議論をしている姿が目に浮かんだ。

 あまりにも面白味に欠けたので、男子生徒に誘われた場面も想像する。

 プライドが高くこじらせたバカに声をかけられ、手袋を握ったまま顔面に叩き付ける場面で笑みがこぼれる。ノドを震わせかけたが、想像力が豊かすぎたかと瞬きをする。


「くそ、埒があかねえな。――南雲、お前はどっちがいんだ!」


「そうだぞ、俺には関係ありませんなんて許さないからな! ゲーセン荒らしと金髪ねーちゃん、どっちがいいんだ!」


「……聞いてたけど、なにがどうしてそうなったんだ? 俺としては神社仏閣を巡ってデカ盛り喫茶の店に行けば良いと思うぞ。ゲーセンの類いは論外だな、もめ事を起こすな。観光客相手にナンパしたいなら、神社なんかでキャッキャしてるのを狙えばいいんじゃないか?」


 議論が白熱した結果、明後日方向に進むのは珍しくない。

 悠太が議論に参加しない理由の一つは、行く先を見失った議論の軌道修正をするためでもある。意見が出尽くした後であれば、妥協案にも賛成しやすいからだ。


「京菓子は!? 京菓子は譲りたくないんだけど!」


「拘ってるのがお前だけだからな。無理に甘味処を探すよりも、和菓子屋でいくつか見繕った上で部屋で食べるってことで手を打たないか? 詳しいなら、土産にオススメのを教えてもらえたら嬉しい」


「むぐぐぅ……まあ、それなら。……――その代わり、和菓子屋は絶対だからな!」


 方向性が決まれば、どこに行くか、どの順番にするかなど、建設的な話し合いになる。

 しばらくは見守っても大丈夫だと思考に耽ろうとしたが、許されなかった。


「あなた達、南雲くんの班の人?」


 天文魔導大学付属高校、生徒会長、天乃宮香織である。


「横紙破りは好きじゃないんだけど、これ、うちの班にもらっていくから。いいわね?」


 彼女に決定に逆らえる生徒などいるはずがない。

 生徒会長という役職に権力はないが、天乃宮香織という個人は別だ。

 天文宗家と謳われる天乃宮本家の人間であり、高校生ながら魔導資格の頂点である魔導一種を保有した、本物の魔導師。

 ただ、そんなものは表面的な情報でしかない。

 彼女から発せられる闘気と呼ぶべき重圧を前に、逆らえるも者などそうはいないのだ。


「じゃ、行きましょうか。もちろん、文句なんてないわよね?」


「断る理由も思いつかないし、お前が必要だと判断したのだろう? なら構わん」


 悠太は闘気程度では揺らがないが、予想はしていた。

 深夜にわざわざ悠太の調整した時点で、厄介ごとに巻き込まれると。


「なんで授業中に来たんだ? 班決め程度なら、裏で声をかければ充分だろう?」


「私、魔導科。あんた、普通科。クラスどころか学科も違うのよ。強権使ったってアピールしなきゃ、無駄に絡まれるでしょう」


「その程度問題ないぞ」


 剣聖である。

 魔導三種どころか、魔導一種に不意打ちを食らっても対処する達人である。

 魔導師の卵が徒党を組んだところで相手になるはずがない。


「誰がいつあんたの心配したのよ。あんたに絡むだろうおバカさんが可哀想だから、わざわざ手間をかけたのよ。情勢がただでさえ混乱気味なのに、無駄に燃料を投下したくないの」


「……なるほど、情勢は混乱気味なのか」


 剣聖とは剣人会のトップだ。

 一声かければ奥伝や中伝を動かし軍隊として動かすこともできるが、それは横の繋がりを利用してのこと。一介の高校生であり、剣人会から距離を取る悠太にはそんな力はなく、手に入る情報も一般人と変わりない。

 それでも、察するものはある。

 混乱が修学旅行にまで影響していると、考えることは出来る。


「話は変わるが、天乃宮本家は近畿地方にあるのか?」


「秘匿してるんだから言うわけないでしょうが。ただ、京都や東京にないってのは確実ね。調べれば分かることだから教えるけど」


「確実にない、を積み重ねたら場所が特定されないか?」


「天乃宮家は情報のプロで、本物の魔導師の巣窟よ。大都市や観光地にないってのはね、国を巻き込まないように配慮して、国と心中する気はないってことをアピールしてるだけの話よ。それ以上は掴ませないわ」


 なにより、天乃宮は星詠みの一族だ。

 本家の場所が特定される未来を避けることなど造作もない。


「まあ、込み入った話は中でしましょう。美味しいお茶も淹れてくれるし」


 生徒会室には先客がいた。

 予想通りと言うべきか、いつも通りと言うべきか、言葉に迷う先客が。


「兄貴を呼んでくるとか、本気だったのね。正気?」


「呼ぶに決まってるでしょう。学校絡みなら気安く切れる札だもの。使わない手はないわ」


 剣聖、南雲悠太の弟子、南雲フレデリカ。

 平均的な魔導一種と比べ、一〇倍の呪力量を誇り、高校生ながら魔導三種を保有する。

 肩書きだけを並べれば天才と称されてもおかしくないが、不器用すぎて落ちこぼれと呼ぶべきじゃないかと悩む魔導科二年である。


「そういう言い方はダメだよ、香織ちゃん」


「ダメって言われてもね。南雲くんも承知の上よ?」


「親しき仲にも礼儀あり、だよ。訂正しないなら香織ちゃんにお茶を淹れてあげません」


 茶葉を拡販するのは、牧野ライカ。

 精霊ヴォルケーノを宿し、フレデリカの一〇倍、魔導一種の一〇〇倍の呪力を保有する、生きた魔導災害。卒業までに魔導三種を取得すべく猛勉強中の魔導科三年だ。


「それはイヤだわ。悪かったわ、南雲くん。謝罪するわ」


 香織は悠太に着席を促す。

 四人分のカップが配られると、香織は本題を切り出した。


「さて、修学旅行中についてだけど、ハッキリ言うわ。初日から最終日まで、この特別班は他とは別行動になります。うちのゴタゴタに巻き込むことになるから、先に謝るわね、ゴメン」


お読みいただきありがとうございます。


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