魔導剣士
なんでキャラは、勝手に暴走するんだろうか?
誰とは言わないけど。
センターに降り立った三人の間に、不穏な空気は……流れなかった。
「あー、もう、カッコいい!! なんすかフーカ先輩、何で様になってるんですか! あー、ここにスマホがあれば! いやさ一眼レフがあれば!! 撮って、撮って、撮りまくるってのにいいいぃぃぃ!」
「成美ちゃん……ちょっとは、真面目になろう、ね?」
「あ、ああ、あ、ああああぁぁぁぁぁ! ライカ先輩、可愛すぎいいいいいぃぃぃぃいいいぃぃ!!」
剣を構えるフレデリカと、杖を握るライカを目の当たりにした成美は、荒ぶっていた。
止めようと声をかければ、ソレを燃料に燃え上がる始末。抜いても抜いても生えてくる雑草並みに、手に負えなかった。
「……ちょっと、そこの先輩。後輩の躾くらいちゃんとしてくれません?」
「あ、ははははは……普段はもっとマシですし、まだ一ヶ月も経ってませんし」
「え、あんなに懐かれてるのに?」
「南雲さんも、同じくらいですよ」
ライカは見逃さなかった。
一瞬、フレデリカの表情が死んだのを。
「……フーカ、でいいです。南雲じゃ、兄貴と一緒なので」
「はい、フーカちゃん」
燃料を投下しないために物理的に近付かなかったが、心情的にはがっちりと握手を交わした。
「――はあああぁぁぁ、堪能したぁぁぁ。ので、そろそろ始めましょうか」
「待って、成美ちゃん。着いていけない、落差に着いていけないからちょっと待って」
「わっかりましたぁ! ちょっと待ちます!」
ビシッと敬礼しながら、元気の良い返事をする。
ライカはちょっとげんなりしながら、呼吸を整えてから、もう大丈夫と頷いた。
「ライカ先輩の覚悟も決まったようですので、レギュレーションから決めましょう。やっぱり、向かい合ってよーいドン、がいいですか?」
「それしたら勝つのわたしだから、弱いものイジメはしないから、さすがに」
「は? 弱い? あたし達がですか? バカにしてるんですか?」
「魔導剣技の県大会ベスト八。魔導三種保有者。事実を並べただけだけど、格上って分かるでしょ?」
うぐぐぅ、と呻く成美。
「だから、ハンデをあげる。最初の一〇分は防御と回避に専念して、反撃も攻撃もしない」
「もしかして、情報収集です? 格上を気取るクセにみみっちいことしますねえ!」
「じゃあ、いらない?」
「いえ、欲しいです! むっちゃ欲しいですハンデ!」
「なら今から――じゃあ、ないわね。そっちが攻撃したらカウント開始。好きに準備して良いわよ」
相手を舐めたような態度を取るが、フレデリカに油断はない。
デバイスを握る手に緩みはなく、呪力も四肢の隅々にまで行き渡っている。
「……作戦会議です、ライカ先輩」
「うん、絶対に勝とうね」
二人固まって、こそこそと距離を取る。
フレデリカに作戦を聞かれないように。
「まず前提ですが、こっちが死なないで勝つのは無理です。諦めましょう」
「諦めるのが早いよ!? 一〇分も時間があるんだから、一度くらいは……」
「フーカ先輩は言いました。パイセンと同じ、観の目? とか言う目を持ってると。つまり、似たことが出来ると考えるべきです。正直、あの気持ち悪いパイセンに当てる自信がありません」
「……そう、だね。同じことが出来るなら、難しいね。私、戦うの苦手だから」
フレデリカの一〇倍の呪力があっても、ライカは戦闘訓練を受けていない。
というより、高校三年になってようやく、部活動に参加する許可が出たくらいなのだ。
「なので、弱いことを逆手に取ります。具体的には――」
打ち合わせを三分で済ませ、二人はセンターの中央に立った。
「おまたせしました、遅くなって申し訳ありません」
「別にー、なんなら一時間くらい準備してもいいのよ」
「一時間もかかる術式なんて使えませんよ。あたしが使えるのはせいぜいがコレです――マクロ、バレット」
銃型デバイスの引き金を引くと、銃口から呪力の光弾が射出された。
「汎用術式、バレット。速度・威力・射程の調整はもちろん、拡張性も高い。基本は単純だから素人でも使えるし、熟練者が使えば化け物だって殺せる現代魔導の傑作術式。――でも、これは単調すぎる」
一〇発、二〇発、三〇発。
呪力の弾丸を雨あられのごとく振りまくが、フレデリカにはかすりもしない。
「威力と射程を削ってでも、速度を上げるべきね。銃弾はもちろん、ジャブより遅いわ」
「別に良いんですぅ、あたしのは囮なんですから」
「マクロ、バレット。エフェクト、インダクション。リピート、ハンドレット――ファイヤ!」
ライカが杖を振ると、一〇〇の弾丸がフレデリカに殺到する。
大量の呪力が注ぎ込まれた光弾は、成美の光弾とは比べものにならないほどの威力と射程が込められていた。それだけでなく、標的を追尾する機能も追加されており、一度躱しても失速せず、執拗にフレデリカに食らい付いた。
「ふあーっはっはっは! どーですか、ライカ先輩のバレットは! 一発でも当たれば腕が吹き飛びますよ!」
「そうねー、当たればねー」
避けて、避けて、避け続ける。
魔導を使って防ぐことも、剣を振って弾くこともなく、踊るように光弾から逃げ続ける。
「はあああぁぁぁ――――!? なんすかそれ、弾幕ゲーでもやってるつもりですか!? ルナティック攻略の猛者ですかぁ!?」
「うぬぼれんな、せいぜいがノーマルよ。数が多いだけで制御もなってない。自分で自分のバレットを相殺してたら本末転倒よ」
「だったらさらに投入して、あたしも参戦すればいいんです。――先輩!」
「う、うん。マクロ――」
さらに百発の光弾が追加され、成美も攻撃に参加する。
回避直後の隙を狙うように光弾を撃っていくが、フレデリカが回避以外の動作を行うことはなかった。
「一〇分、経ったわね」
「まっず――先輩、防御術式」
「遅い」
一足一刀。
一〇メートル近い距離をぬるりと詰め、刃が走る。
予備動作を悟らせることなく、刃は成美の首筋に吸い込まれた。
「――予想通り!」
「へえ」
成美の張った極小の障壁が、刃を阻む。
「やるじゃん」
「逃がしませんよ!」
距離を取ろうと試みるが、フレデリカの両足は動かない。
絡みついた呪力の鎖が、移動を阻んだのだ。
素直な賞賛を受け取った成美は、誇るでもなく大きく跳んだ。
「マクロ、バスター――ファイヤ」
バレットを銃弾とするなら、それは大砲だった。
極太のレーザーと、数十の光弾による挟み撃ち。
一〇分で仕留めることを諦め、最初は一撃で殺せる首を狙うと信じ、悠太が見せた一足一刀から逆算をして組み立てた必殺の陣形。
「――禁」
フレデリカを逃がすことなく、陣形は役目を果たした。
床の一部を破壊し、土煙によって塞がれて結果は見えない。
成美は油断せずに着地をし――
「敗因は経験不足」
――首が落ちた。
「並のプロならアレで落ちたけど、相手が悪かったわね」
「え、え?」
「先輩はもうちょっと、心を鍛えてください。なんかもう、カモがネギ背負ってます」
――首が落ちた。
「リポップはすぐだから、距離取らないとね」
油断も慢心もなく、フレデリカは二人から離れる。
復活した二人から不意打ちを食らわないように。
「……とっさの障壁の割に、硬いですね。古典術式ですか?」
「硬いんじゃなくて、上手いの。衝撃を分散させるように角度を付けたり分割したり」
「あはは、プロってスゴいんですね」
銃口を向け、引き金を引く。
――首が落ちる。
「一足一刀じゃなければ、この距離でも一歩だから。緩い攻撃したら死ぬわよ」
「殺してから言わないでくださいよ。スパルタですか」
首が落ちる。
――残った身体が爆散した。
「死をトリガーにした自爆術式を仕込むな。サイコパスか」
「これでもダメですか。――でも、この程度は想定内です。必ず勝ってみせますから、覚悟してください!」
成美は獰猛に口角をつり上げた。
未だ無傷のフレデリカを前にして。
震えながら杖を支えにするライカを残して。
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