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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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分家の長男

 異界は崩壊し、囚われた人々は現実に帰還し、めでたしめでたし。


「――で、終わったら良かったんだけどね」


 ……はぁぁぁ、と。

 ……はあああぁぁぁ、と。

 真門は深く息を吐いた。


「何言ってんのよ、めでたしめでたしでしょう。人死にはなし、被害は昏倒と記憶喪失。発生から収束まで約一時間。これ以上ないほどに完璧な対応だわ」


「そうだね。ガーデンの辻褄合わせが間に合ったから、現実では一時間しか進まなかったよね。僕たちは半日くらい、待ちぼうけしてたけど」


 悠太をヴァルハラ異界へと送り出してから、真門達がすることは特になかった。

 意識が抜け落ちた人達の身体は、何が起こるか分からないため触れることが出来ず、外と連絡を取ることも出来ない。やれることと言えば、極限まで疲労した精神を休めることくらいであり、端的に言えば泥のように眠っていた。

 文字通り、寝る以外にやることがない状態だったのだが、真門は「もっと寝とけばよかった」と後悔をしていた。


「でもさ、一時間だけとはいえだよ。結界で物理的に学校を封鎖したら、公的機関からお呼び出しがかかるに決まってるじゃん。文化祭の参加者が、一部の例外を除いて全員昏睡状態で、例外が揃って天乃宮家の関係者だってなったらさ、主犯だって思われたって仕方ないじゃん!」


「その上、記憶喪失だもんね。魔導災害を封じ込めために仕方なくって言ったところで、信じるわけないわね。鵜呑みにするバカは転職した方がいいくらいだもの」


 日本魔導界において、天乃宮家の存在は大きい。

 星詠みに関することは当然として、経済的な影響力、人材的な影響力、さらに政治的な影響力も大きな存在に対して、公的機関が危機感を持つのは当然である。


「おかげで取り調べが長引いたし、廃嫡された分家の長男だからって高圧的に出るのは心にくる。…………あまりにヒドいから、ゼファエルに脅し文句考えてもらったけど。それでもやめないから、使いたくもない当主権限をこっそり使って破滅させようかとも思ったけど」


「さすがに不味いと思って助けてあげたでしょう? ゼファエルが掴んだ不正捜査のアレコレもあるんだから、それでマスコミ動かして社会的に抹殺ようにしたんだから落ち着きなさい。ってゆうか、アレが所属してる派閥と、その家族含めて破滅させようってのはどうかと思うわよ」


「中途半端な正義感持ちがいて、政治ベタな阿呆を寄越すのが悪いんだ。上の方はとっくに了承済みの出来レースなのに」


「政治ベタな阿呆だから、中途半端な正義感を振りかざしたくなるんでしょう? 客観的には、天乃宮家に配慮して握りつぶそうとしてるように見えるし」


 見えるもなにも、その通りである。

 違いがあるとすれば、天魔付属への襲撃と、異界の展開が既定路線であったこと。

 事情聴取という名の情報共有をし、仕事をしていると世間にアピールをした上で無罪放免となる手筈なのだったが、どこの組織にも予定を崩そうとする者はいる。


「……僕もね、外からはどう見えるかは理解してるんだよ。本家の小娘も同じ目って言ってたから、ガマンしたんだよ。だってのに、――だったってのに、実際には分家から廃嫡されたヤツなら何やってもいいだろうって、――ふざけるなっっ!!」


 真門は自身の力をよく理解している。

 天乃宮家当主という権力は、木っ端役人はもちろん、一国の首相を変えることも可能なほどに強大だ。感情のままに振るえばどうなるかを、理解できる頭もある。本人の気質もあるが、普段から努めて自重している。

 そんな彼に、恣意的に力を振るう阿呆を宛がった結果が、今である。


「同感。だから、分かりやすく怒って、呪ってやったでしょう? ゼファエルの演算能力フル活用で、追い込むようにしたでしょう? 生放送直前でカッパヘアになるよう調整したから、少しは溜飲下げなさい。その上、あの歳で平に降格で、下っ端仕事に回されることも確定済み。キャリアのエリートにはこれ以上ない仕返しよ」


 他人の人生を軽く破滅させているが、極めて穏当な処置だ。

 というのも、真門の価値は悠太や香織よりも高い。これは当主の権力を抜きにしてだ。

 まず、ゼファエルの操作権。これがある限り、真門は星詠みの力を好きに使うことが出来る。初空のような見たい未来が見えない類いではなく、辿り着きたい未来への道筋を提示するという、人にとって使い勝手の良い星詠みの力が、だ。

 次に、強い自制心。どんな人間にも言えることだが、人は誘惑に弱い。都合の良い未来を手にする方法があれば、容易に使ってしまうほどに弱い。もし、星詠みの力を自在に使う者がいれば、人はどう動くか? 判明した時点で排除に動くのだ。

 これは、ほぼ全ての人間が理解できることだが、分かった上で使うのが人間だ。

 そもそも、自制できる人間ばかりであるなら、警察はいらないのだ。小さな権力でも道を踏み外し、排除される人間が多い中、天乃宮当主としての役目を全うする真門が、どれほど貴重な存在であるか。語るまでもないだろう。


「分かってる、分かってるけど……感情が追いつかない」


「それを言われると困るわね……」


 いくら自制心が強くとも、真門は人間である。

 一度でも火がつけば、持ちうる力を躊躇なく使う思い切りの良さも持っている。


「でも、あれ小者も小者よ? 真門くんが怒るほどの相手じゃないでしょ?」


「だ、だって……僕や香織ちゃんならともかく、悠太先輩のことまで貶したから。一番身体を張った人を指して、自分がいればもっと良くなったとか、妖精を逃がさなかったとか、メッキがどうのこうのって、それで沸騰して脅し文句がつい……」


 ヴァルハラ異界において、悠太は唯一生身で飛び込んでいる。

 悠太以外は精神を核としたアバターであり、死んだ後は異界についての記憶を失っている。故に、どれほど危険な異界であったかを、口にする者がいなかった。

 天乃宮家や政府にとっては幸いで、世間には異界のいの字も出ていない。

 だが、それは世間への発表。箝口令が敷かれているが、朱い妖精によって異界が発生したことは隠せないのだ。


「剣聖相手にそれって、本物のバカじゃないの。というか、古種を相手にするなら魔導一種は最低ラインだってのに、バカはこれだから」


「古種に限らず、現場を希望しても出させてもらえない類いのバカだったよ。無能な働き者のの典型というか、中途半端に能力があるから出世させちゃったというか……あー、ダメだ。話したら少しは発散できるかと思ったけど、余計に怒りが」


「出しちゃいなさい、思う存分。中途半端に抱えるくらいなら、思いっきり愚痴りなさい。普段からガマンすることが多いんだから。少しは私を見習いなさい」


「確かに、香織ちゃんは感情との向き合い方が上手いよね……ちょっと乱暴だけど」


 香織は鬼の呪詛を抱えているため、感情の起伏が激しい。

 激しさは依存症レベルであり、個人の努力では解決できないほど。普段は閾値を超えないように魔導で縛っているが、抑え続ければ爆発するのが感情である。常識に欠ける綾芽の教育にかこつけて暴力を振るうのは、暴走しないようにする一環だ。

 それがなくとも、安全に発散する手段をいくつも持っているが。


「そうよ、上手いのよ。呪詛との向き合い方が上手いから巫女やれてるし、安全に発散できるから天乃宮の姓を名乗ってるのよ」


「香織ちゃんが巫女ってことを疑ったことはないよ。ライカさんを受け持ったのも、巫女としてのあり方を教えるためだったし」


「ライカの件は、失敗したかなって思ってるのよね。巫女の心構えとか、向き合い方とか、ちゃんと教えられなかったから」


「呪力制御を優先させたのは仕方ないって。国の制度上って部分もあるけど、話し合いだけで解決するなら警察も軍隊もいらないんだから」


「まあ、ね。魔導戦技部が稼働したから流れで南雲くんに押しつけちゃったけど、呪力を暴走させないだけの下地があればこそ、あそこまで開花したのは分かってるわ。でも、師の一人としては美味しいところを取られたって思っちゃうのよ」


 異界から解放された者は、悠太を含めて全員が昏倒している。

 一部の者は回復しているが、彼らは異界で早々に死んだ者達。宮殿に辿り着いた魔導戦技部の面々は、当然のように昏睡状態が続いている。


「師匠としての腕も、気にする項目なの?」


「一流であればあるほど気にするものよ。磨き抜いた技術と、積み重ねた知識を次代に託してこその魔導師だもの。剣人会の奥伝も変わらないわ。……――武仙流はちょっと違うけど、南雲くんなりに種は撒いてるから、少しくらい気にしてるんじゃない?」


 話が逸れたことで、真門の怒りが収まった頃。

 見計らったように、彼女が訪れた。


「邪魔するわよ、天乃宮」


 初空の未来視。

 十二天将が一人、天乙。

 少女は、つばの広い帽子を被っていた。


お読みいただきありがとうございます。


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