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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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なぜポップコーンがない

 ドームのセンターで悠太が部員達の指導を始めた頃、ライカ達は観客席に座っていた。


「会長さーん、ポップコーンが欲しいんですが?」


「あるわけないでしょ」


「じゃあ、コーラ」


「ノドが乾いてんなら、あなたの血でノドを潤してあげてもいいわよ。呪詛を使えばアバターでも流血するし」


「――すんません、調子こきました」


 やべぇ、やべぇよ、と震えながら稽古へと目を背ける。

 ただ、何かを抱えて食べるジェスチャーをしているので、懲りてはいない様子である。


「成美ちゃん。香織ちゃんは有言実行するタイプだから、挑発しない方がいいですよ」


「挑発とかじゃなくてですね、単純に思うんです。パイセンが蹂躙するだけのゲームなんて、映画鑑賞みたいな気持ちじゃないと、見てらんないなって」


「蹂躙って、剣術部の人達も真面目に練習して」


「いえいえい、真面目なのは分かります。分かりみです。――でも、パイセンは剣聖ですよ。ライカ先輩の精霊さんをなんかしちゃった、わっけ分かんない人ですよ。県大会に行くのがやっとな魔導剣術部の人達がどうこうできるビジョンが見えません。その証拠に、ほら、見てください」


 成美が予想したとおりの、蹂躙劇が繰り広げられていた。

 アバター故に流血はないものの、気の弱い人ならば倒れること間違いなしと言える。


「……魔導を斬ってるけど、どんな原理なんだろうね?」


「あたしとしては、刃のないデバイスで首がポンポン飛んでるのが気になりますね。ここは詳しい人に聞くべきですね。解説のフーカ先輩、どうなってんですか、あれ」


「解説って……まあ、いいけど」


 手に顎を載せてつまらなそうに観戦するフレデリカは、そう答えた。


「まずデバイスだけど、単純に結界とアバターの性質で、兄貴の腕じゃないわ」


「ほうほう、では、魔導を斬ってるのも結界とアバターの性質ですか?」


「いや、そっちは兄貴の腕。未完成だけど「技」の理だから、あの程度なら斬れるわ」


 フレデリカはさらりと流すが、悠太のやっていることは異常なことだ。

 現代にまで魔導が残り、魔導全盛の時代と呼ばれるまでに発展した大きな理由は、魔導への対策として最も有効なのが魔導である点。呪力がほとんどない悠太なので、魔導は使用できない。

 つまり、剣のみで魔導を斬るという理不尽をやっていることとなる。


「……やっぱり、南雲くんは剣聖なんだね。だから、あんなに強い」


「やー、違います。魔導を斬ってるのは剣聖としての技ですけど、それ以外は基本の延長です。強さとしてはせいぜい、奥伝寄りの中伝、くらいですね。兄貴は魔導使えないので…………まあ、技量だけで剣聖になってる狂人だから、強さ詐欺だけど」


 剣に限らず、武術の奥義は呪力や魔導が使われるものが多い。

 だから、奥義を修得した証である奥伝の定義に、悠太は含まれない。最弱の剣聖と呼ばれる所以はこの辺りにあるのだが、剣聖は剣聖。

 奥伝の上澄みでも出来ない戦果(精霊の影を斬るなど)をあげているので、フレデリカは詐欺呼ばわりしている。


「基本の延長、ですか? ……なんだか、幽霊でも相手しているみたいに攻撃がすり抜けているんですが、アレが基礎の動きなんですか?」


「別に表現に気を遣わなくても良いですよ。ヌルヌル動いて気持ち悪いとか言っても」


「いえ、そんなことは思ってないですよ。……ただ、素人には分からない動きをしているな、と……」


 普通の人間はもとより、多少訓練を受けた程度では四体一を捌くことは不可能。

 さらに付け加えると、魔導剣術部の四人は残機ありの状態。肉体の損傷を無視した特攻までしているのに、悠太は全てを躱すか捌いている。

 魔導か何かを使っていると言われた方が、理解しやすい動きをしていた。


「玄人が気持ち悪いって言うレベルなんですけどね、アレ」


「分かりみしかないご意見なんですが、どのくらいスゴいのかピンときませんね。何か、良い感じに例えてもらうこと出来ません?」


「えー、例え? そうね………………ゲーム実況とかって見たことある?」


 急に毛色が違う話題が出て二人は戸惑ったが、見たことはあるので頷いた。


「アクションゲームで、最高難易度を裸装備ノーダメクリアする超絶技巧を披露する人、いるでしょ? 兄貴がそれをリアルでやってるバカなのよ。一回でも当たるとリアルで死ぬから」


 話の咀嚼に一〇秒かける。

 その後、三〇秒ほどじっくりと悠太の動きを眺めた。


「ゲームと現実の区別が付かない人、ってことです?」


「ゲームだろうが何だろうが修行にしちゃう頭狂ったちゃん、ってことよ。でも、命を勘定に入れてないってわけじゃないから。人一倍、命を大事にするけど、根っこが死ななきゃ安いってだけ」


「うん。危ない場面が一回もないから、無謀じゃないのは分かるけど……後ろに目が付いてるみたいに避けてるのは?」


「味覚以外の五感全部使ってるからこその芸当です。後は、頭の中に敵の配置を入れて、動きをエミュートしてもいますね。中伝になるには、先読みは必須ですから」


 ライカは乾いた笑みを浮かべるので精一杯だった。

 説明には魔導のまの字も出てこない。悠太は魔導を使えないので当然だが、だからこそ乾いた笑みしか出てこない。魔導を使って視野を広げている、魔導で気配を察知している、と言われた方が嬉しいからだ。特別な魔導があるから、特別なことができる、と言われた方が楽だから。

 だが、悠太がやっていることは違う。

 人が当たり前に持っている感覚と頭脳だけで、魔導と見紛うことをしている。

 それは天才や超人といった、自分が関わるべきでない人なのではないか、と。


「はいはいはーい、質問でーす! フーカ先輩も同じこと出来るんですか?」


 ライカの不安を余所に、成美はフレデリカの戦力分析に移行した。

 これから戦う相手に、何が使えるか聞くのは愚かな行為ではあるが、


「無理。全体視の観の目は修めてるけど、それ以外は実践レベルに届いてない」


 フレデリカはあっさりと実力を開示した。


「お、意外ですね。教えないって言われると思ってダメ元だったんですが、もしかして、あたし達のことは眼中になかったりします?」


「残機無限を相手にするのよ? 死に覚えられるを隠すなんて無駄。だったら、素直に教えて好感度を稼いだ方がマシだと思わない?」


「打算的ですね、嫌いじゃありませんよ」


 気が合ったのか、互いに固い握手を交わす。


「好感度を稼ぐってことは、あたし達とながーいお付き合いをご希望ってことですよね」


「そっちしだい。わたしは全力で潰しに行く。兄貴はアレで忙しいの。わたし程度に潰される木っ端に関わるヒマなんてないくらい」


「だから、潰すと?」


「そう、潰す。残機無限なのもちょうどいい。兄貴より弱いわたしにも勝てないって思い知れば、自分が釣り合わないくらい程度が低いって、分かってくれるもの」


「――うん、やっぱりフーカ先輩のこと、嫌いじゃないです。むしろ好きです、大好きです」


 挑発的に顔を崩さずに、フレデリカは内心で首を傾げた。

 どこに好かれる要素があるのだろう、と。


「まず、目がキラキラしてます。どっかのパイセンと違って、目標に向かって青春してます。次に、パイセンのことが大好きってのもポイントが高いです。大好きなお兄ちゃんを取られまいとする、妹。実にポイント高い、いやさ尊い! ライカ先輩ほどじゃないですけど、尊いです!」


「は?」


「それになにより、優しみに溢れてます! パイセンと関わったら絶対に苦労するあたし達のことを思って、わざと憎まれ役を――」


「――兄貴の指導が終わったみたいだし、行きましょ」


 両手で耳を塞ぎながら、階段を降りるフレデリカ。


「あ、待ってくださいよ! まだまだ言い足りないんです! 耳塞いでないで聞いてください!」


 成美は聞いてもらうと追いかけ、耳を塞ぐ手をどけようと格闘する。


「……やっぱり、成美ちゃんは強いな……」


 乾いた笑みすら浮かべられなくなったライカは、憂いを抱えたまま二人を追った。

お読みいただきありがとうございます。


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