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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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A、気合い

 Q、神造兵器の重圧の中、どうすれば動けるのか?


 A、気合い


 これは魔導戦技部の面々が、悠太に対して問いかけた際の答えだ。

 身も蓋もないとか、答えになってないとか、精神論でどうにかなる話しじゃないだろう、など非難囂々であるが、真っ当かつ真面目な答えであった。


「あの重圧は神威に由来するモノだ。神造兵器や神霊種に限らず、権能や神威の代行者を前にしても感じるが、現代においてこれらを使う連中と遭遇する可能性は非常に低い」


「ああん、つまり珍しいから対処法が分かんねえってことですか?」


「専門的な話で俺もよく分かっていないから、言われたことをそのまま反芻するが――神霊種の根幹は時間軸にある。人類史に認識され、寄り添うことで、人類という知性体に力を与え、その結果として例外に至った――だから気合いで乗り越えろ、と」


「……誰の言葉ですか、それ?」


「姉弟子だ。前後の文脈が繋がってないように思えるし、そもそも理解していないから丸々覚えているだけだな。ついでに言うとこの後に、理に至ったならそもそも神威なんてゴミ程度にしか感じない。神本体がいない限りは、とも付け加えていたが」


 彼が姉弟子と呼ぶのは、悠太と同じく絶刀を使う皆伝者。

 理の先である業に至った先駆者でもあり、一〇〇年以上を生きる化け物でもある。

 世界各地の戦場に無断で出没するテロリストとして有名で、例外である精霊種や神霊種との戦闘経験もある。同門であるだけなら与太話の可能性もあるが、わざわざ剣聖に語っているのだから信憑性は高い。


「今の話を踏まえると、権威とか禁忌に対する忌避感の強化版が、あの重圧ってことですか? だから、んなもん知るかー! の精神で抵抗すれば突破できると?」


「理解してないから何とも言えんが、理屈が通るならそうなんじゃないか。呪詛も屁理屈みたいな理論で成り立っているようだし」


「屁理屈って、もしかして逆説や照応のことですか? 充分な研究と検証の結果証明された理論に何言ってるんですか。魔導技術に対する冒涜ですよ冒涜」


 成美の心底呆れかえった言葉で、悠太はあることに気付いた。


「理に至ったら関係ないって、こういうことか」


「ちょっと、全世界の魔導師にケンカ売って何しんみりしてるんですか」


「色即是空、空即是色。俺にとっては呪詛の理論も神々の神威も等しくうさんくさい、ということだ。詐欺だと分かる儲け話にのるバカはいない。詐欺が本当だと信じ込むから引っかかるし、信じ込ませるように動かれるから被害が広がる。だから、こんなうまい話があるか詐欺に決まってる! と自分の信じる強い意志が必要なんだ」


「…………なるほど」


 同じなわけあるか、と叫ぶのをやめた。

 悔しいことに理屈は通っており、疑ってかかるよりも信じた方が成功率が高そうなのだ。

 詐欺のような話であることには変わりないが、詐欺に引っかかって神威の重圧を突破できるのなら儲けもの。

 信じた結果は、ご覧の通りである。


「――ヴォルケーノ!!」


「ノウマク・サンマンダ・バサラダン・カン」


 精霊と火界咒、二つの炎が広場を満たす。

 彼女達にとって、魔導の炎こそが戦術の基点。しかし、込められた熱量は多く、最低でも魔導二種がなければ対処できないほど。


「去ね」


 ただの一言。

 術式どころか呪力さえ込めない、ただの一言。

 妖精が、広間を満たした炎を消し去るのに費やした手間である。


「――……ッッ、舐めんなあああ!! ノウマク・サンマンダ――」


 妖精の言葉には神威が宿る。

 炎を消し去るほどの神威は、余波が重圧となって襲いかかる。

 膝を折、跪き、許しを請いたくなる気持ちを押しのけて、叫ぶ。

 生み出された火界咒に再び神威を浴びせるが、今度は消えることなく燃え広がる。


「まさかとは思ったが……神の加護なく神威を振りほどいたのか? ベルセルクでもなければやらない蛮行だぞ。勇士らしいと言えば勇士らしいが、さすがに品に欠ける」


「待った、ちょーっと待った! フーカ先輩もそのままで」


 妖精の発言を、成美は聞き流せなかった。


「ちょーっとだけ質問したいんですが、いいですか?」


「勇士の問いかけならば答えるが、くだらなければ分かるな」


「神威うんぬんについてです。とあるパイセンに、どうすれば突破できるかって訊いて、気合いでどうにかしろと言われたんですが、これって一般的な方法ですよね?」


「よほどの蛮族や狂人でもしない所業に決まっているだろう」


 成美は、吐血しかけるほどのダメージを受けた。

 指摘されれば当然のことだと納得するし、よくよく考えれば魔導もなしに神造兵器を斬り捨てる悠太が狂人でなければ誰が狂人なのだ。

 また、その悠太の先の領域にいる姉弟子が、狂人でないはずがないのだ。


「……じゃあ、じゃあ、ですよ? 神威をどうにかする一般的な方法って、なんです?」


「神の庇護下に入り恩恵を受けることだ。魔導を極めて神威避けの術式を編む者もいるが、気合いで突破なんて例外もいいところだ」


 成美は膝を折って、跪いた。

 神威に屈したのではない。意図したことではあるが、詐欺に引っかかってしまった自分に嫌気が差したのだ。


「ふ、ふふふ、ふふふふふふ…………いいでしょう。蛮行だろうがなんだろうが、利用できるもんは全部利用しないと勝てないんですから」


 ショックを受けたことには違いないが、すぐに立ち上がる。

 足が震えているのは、ショックが抜けていないからではないだろう。


「神威を超えた程度で勝てると思っているのか? それは勇敢ではなく不敬だぞ」


「勝つ気もないのに戦うわけないでしょうが! ライカ先輩」


「うん。マクロ〇五、サテライト。エフェクト、ヴォルケーノ」


 数多の光弾を制御する汎用術式。

 数え切れないほどの光弾は、その一つひとつが炎に包まれた。


「去ね」


 神威を乗せただけのた一言。

 精霊と火界咒の炎をかき消したものと同じ言葉であるが、今度は光弾の一つも消すことはできなかった。


「む……」


「さっきのは、知らなかったから消されてしまいましたが、知っていれば別です。消えてたまるかって、気合いを入れればいいんですから!」


 むんっ、と胸を張るライカ。

 どこか誇らしげであるが、妖精は眉をひそめる。


「精霊の巫女、お前もコレと同類か。精霊ではなく蛮神に仕えているのではないか?」


「神様は特には、ヴォルケーノも生まれたときからですし……そもそも、蛮神というならあなたの方でしょう」


「……――は?」


 神威ではない。

 言葉でもない。

 単純に、純粋に、殺気であった。


「だ、だって……異界を創って、多くの人を攫って、それだけじゃなくて街も壊して、何のためかは知りませんが、これが野蛮でないなら何が野蛮だって言うんですか! こんな野蛮を許す神様を、蛮神と呼ばずになんと呼ぶんでしょうか!?」


 現代人であるライカには、神々の理屈は分からない。

 神学を学んだことのないライカには、信仰に付随する価値観は分からない。

 彼女が知る現代人の価値観に当てはめ、彼女が学んだ魔導師としての理屈を加味して、ヴォルケーノという精霊を宿す巫女として出した結論である。


「……巫女、お前は勇士だ。不遜な蛮勇は見逃そう。精霊に重きを置く不敬を許そう。だが――我が主への瀆神は万死に値する!」


 神威を含む怒りは、致死の呪詛となった。

 そも、神とは例外に属する超越者だ。視線だけで生物を殺め、ただの言葉で世界を改変する埒外だ。妖精は神ではないが、神威の代行者である。

 物理法則が頑強な基底現実であれば、魔導という形を取らなければ神威を示せない。

 だが、異界であれば別だ。

 ヴァルハラという冥界を模した異界であれば、神威のみで人を殺せる。


「ノウマク・サラバ・タタギャティビャク・サラバ――」


 妖精の神威は、炎によって焼き尽くされる。

 フレデリカが通常用いる小咒ではない。真なる火界咒を顕現させる大咒。

 火界咒は、日本の魔導師の多くが使う不動明王の真言であるが、フレデリカの火界咒を見れば己の未熟を恥じるだろう。

 密度が違う。

 熱量が違う。

 深度が違う。

 魔導一種の火界咒であれど、彼女の火界咒の一欠片に触れれば焼き尽くされる。

 不器用な彼女が至った、煩悩どころか魔性の一切を焼き尽くす火界咒の境地。

 その根幹に存在するのは、不動明王の素性や生来、司る教えの全てを深く学ぶという、仏僧には当たり前の信仰があった。


お読みいただきありがとうございます。


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