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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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に手を貸して良かったの?

 廃棄兵器。

 世界の滅亡を防ぐために天乃宮家が製造したものの、その性能が災いし世界滅亡の要因になりうる危険物。そんなに危険なら破壊すれば良いと考えてしまうが、天乃宮家とてバカではない。役割を終えた兵器の中で、破壊できるものは全て破壊している。

 廃棄兵器に分類される兵器とは――破壊=世界の滅亡に繋がるという特大の厄ネタ。

 真門はそんな廃棄兵器を使用しているが、このような厄ネタを使用して無事で済むかと言えば、無事で済むはずがなかった。


 ……ゴポッ、……ボゴッ、


 肺に溜まった液体が動く音がする。

 廃棄兵器による守りは、神造兵器から真門を守り切った。

 この負傷はあくまでも反動によるもの。今、真門の身体は内側がグチャグチャだ。毛細血管の大半が破裂し、内臓機能もほぼ停止している。廃棄兵器を起動・制御するため、生存を後回で演算装置に変換した結果、使用の度に身体が内側から破壊される。

 この損傷を修復するためにも廃棄兵器を使用しているので、修復と破壊が延々と続くという地獄のような状況が真門の体内では続いている。


「……どのくらい、経っ……た?」


「二~三分ってとこね」


「そっ、か……その……くらい、なんだ」


 破壊と修復が続く状況では、基本的な身体機能さえまともに機能しない。

 というよりも、まともに機能させると逆に修復を阻害してしまうため、五感を含めたいくつかの機能を封印している。

 特に五感は、視覚と聴覚以外の三つを封印している。

 意識が朦朧とする中、外界との接点である三つの感覚を封じている今、真門には時間の感覚もなくなっていた。


「しゃべってると回復が遅くなるんだから、黙って寝てなさい」


「寝れるか……分からないし、しゃべってないと、気が……狂いそうだから」


「残念だったわね。仮に狂ったとしても、無理やり正気に戻されるわよ。何度か戻されてるから知ってるでしょう」


「……ああ、そうだったね。忘れてた」


 痛覚も含む触覚を封じるのは、破壊と修復によって発生する痛覚だけで人が狂うから。

 しかし、五感とは人が人らしくあるために必須の感覚。味覚がなければあらゆる食事に味がなくなり、常に粘土や泥を口にするような状態となる。

 触覚はもっと影響が大きく、痛覚がなくなるので気付かぬうちに大怪我を負うこともある。それだけでなく、物を掴んだり道具を使ったりする際の力加減も困難となる。

 五感の一つ取ってもこれだ。

 複数を封じた人間がどのようになるかなど、論じるまでもない。その上、五感を封じるのは廃棄兵器使用の前提でしかなく、兵器兵器を使用する状況とは基本的に緊急事態。まともな人間はもちろん、まともでない人間も狂う。

 真門も例外ではないく、何度も狂い、狂う度に正気に戻されることを繰り返していた。


「でも、進んで狂いたくないから……付き合ってよ」


「仕方ないわね。じゃあ――赤い破滅に手を貸して良かったの?」


 赤い破滅――初空の未来視が観測した、世界の滅亡要因。

 悠太はもちろん、真門たち天乃宮家も対策に動いている存在に手を貸すことは、世界を滅ぼすことと同義だ。

 世界滅亡の回避を一族の命題と定めた天乃宮家が、取るはずのない行動でもあった。


「……分かんない」


「おい」


「仕方ないじゃん、分からないんだから。――僕はあくまでも指示されて、その通りに動いただけだよ。ゼファエルが観測した最善の未来のために」


 真門が瀕死でなければ殴っただろう無責任発言。

 であるが、真門の言うように仕方ないのだ。天乃宮の星詠みはゼファエル。最善を導くのに使用した情報はあまりにも膨大で、人が触れれば廃人を通り越して死人になりかねない。

 彼らに出来ることは、ゼファエルを信じ、言われたとおりに行動するだけ。


「ねえ、どういうこと? 赤い破滅って、あの妖精でしょ。神造兵器を壊したら、なんで手を貸すことになるの?」


「察しが悪い以前に、あんたは頭を使いなさい」


 こてん、と首を傾げた綾芽の顎に、全力のアッパーが放たれた。

 机や椅子などの備品に被害がでないようにとの配慮であるが、何もしなければ天井に穴が空きかねない威力。防ぐために廃棄兵器が使われ、真門の回復が遅れることとなった。


「……痛い。けど、妖精が赤い破滅じゃないってこと、だよね? なのに、真門は死にかけてるまで頑張ったんだ。不思議。当主なのに」


 真門は天乃宮家当主であるが、替えが効かないわけではない。

 廃棄兵器は世界滅亡を回避するのに有効な手立てだが、あくまでも便利程度の価値しかない。ゼファエルも間違いなく星詠みであるが、天乃宮の星詠みはゼファエルだけではない。

 なにせ、ゼファエルという存在自体が新しいからだ。

 便利であるし、重要でもあるが、必要とあれば容赦なく消費する。

 それが天乃宮家という一族だ。


「当主だけど、立場が弱いしね。――あ、そだ。綾芽。先輩達に僕が当主だって絶対に言わないでよ。一応、隠してるんだから」


「分かってるよ? 無駄に危険になるし、利用しよって人が増えるから、でしょ。でも、素直に話した方がいい人には、言ってもいいんじゃない?」


「……悠太先輩なら、そうかもね。でも……」


「言っても良いのと、言わないとダメなのは別ってことよ。南雲くんなら態度も扱いも変わらないでしょうけど、彼の中でも優先順位が変わりかねない。無駄な変数を与える必要はないから、言う必要はないわ」


 日本魔導界において、天乃宮家の名前は大きい。

 俗に企業閥と呼ばれ、政府である中央閥、地方の有権者の集まりである地方閥と並ぶ影響力を、一族のみで保有しているのだ。

 つまり天乃宮家当主とは、企業閥のトップを意味している。

 ただ、字面から受ける印象と比べ、当主の一存で動かせる範囲は驚くほど狭いが、それを正確に把握しているのは天乃宮家本家か、各派閥のトップ層のみ。実態を知らない者からすれば、当主が高校生をして学校に通っていると知らればどうなるか?

 星詠みが視るまでもなく、碌でもない行動を取るだろう。


「……面倒」


「そうだね。人が多ければ多いほど、何がどう干渉し合うか分からないからね。僕たちがゼファエルの指示通りに動くのも、結果的に上手くいくって知ってるからだし」


「だからって、アレを見逃すのはどうかと思う」


 ――神造兵器の残骸はそのままにするように。

 ――何が起こっても干渉しないように。


 ゼファエルから明確に出された命令だ。

 放置することで何が起こるのかを知り、指示を出さなければ何をするかを熟知しているからこその禁止令。


「見たら手を出したくなるから、見るんじゃないわよ」


「分かってる……けど、あれ? もしかして、あそこにいるのが赤い破滅?」


 殺さなくて良いの? と綾芽は問いかける。


「絶対に手を出しちゃダメ」


「今なら、簡単に殺せるよ? 放っといたら、簡単に殺せなくなるよ?」


「赤い破滅は『世界の敵』だから、絶対に殺しちゃダメ」


 初空のみならず、天乃宮家も動いている最大の理由。

 世界の敵は、殺してはいけない。

 放置し続ければ世界は滅ぶが、ただ殺すだけでも世界が滅ぶ。世界滅ぼす力と意思を持ち、自由意志で動き回る廃棄兵器のような存在が――世界の敵だ。どれだけ矮小で、脆くて、弱い存在だったとしても、世界の敵として確立した瞬間から、殺してはいけなくなる。

 対処方法は、主に二つ。

 一つは、廃棄兵器のように封印すること。

 もう一つは、特定の手順を踏んで殺すこと。

 問題となるのは、特定の手順を知る者が誰もいないことだ。世界の敵本人はもちろんのこと、未来視や星詠みであっても。


「分かった、けど……」


 ただ、糸口はある。

 世界の敵と向き合い、理解する過程で手段を見いだす。

 ヒドく不確実で、不安定で、本当にこれでいいのかと問いたくなる方法であるが、これ以外で世界の敵は殺せない。


「……やっぱり、面倒」


 綾芽の言葉に頷かなかったが、二人は心の底から共感するのだった。


お読みいただきありがとうございます。


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