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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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俗っぽさって重要ですか?

年末年始の9連休。

思う存分Bloodborneを満喫するぞ!

 合流してから約二時間。

 仮想空間へとアクセスするための筐体を最大である六個に増やし、行列を捌ききった。

 始めから最大数を設置しろと思われるかもしれないが、最新技術のため運用にはコストがかかる。電気代はもちろんのこと、安定して動かすための調整、不具合が起こった場合の修正だけでなく、人がアクセスしている間にトラブルが起こった場合のリスクなどなど。

 本来であれば高校の出し物として使用すべきでないのだ。

 生徒会長である天乃宮香織が、色々と理由を付けてまで別館に隔離したのはその辺りの事情が絡んでいる。


「つ、疲れました……甘いものありますか?」


「冷めたチュロスでいいなら」


 体育館で売っているチュロスを受け取ると、貪るように歯を立てる。


「ところで、何やったんだ? 何もしないで繁盛するとは到底思えないんだが?」


 言われたことを素直に受け取るライカや、魔導戦技部の事情に深く首を突っ込む気のないフレデリカは、別館に隔離された意図を知らないだろう。

 だが、要領や察しの良い成美が気付かないはずがない。

 行列が出来たというなら、成美が何かをやったと考えるのが自然である。

 ちなみに、悠太も当然のように気付いているが、スポンサーの意図をくんだ方が楽であることと、反発してまで来客を増やしても評価が上がらないので、繁盛させる気はさらさらなかった。


「……SNSで、動画上げただけですよ?」


「誰のだ? そこの霊視官のわちゃわちゃ動画を上げたところで、犬猫の動画には勝てないと思うが?」


「ちょっと閣下。それはあたしが犬猫みたいな愛玩動物だって言いたいの?」


「猛獣注意のステッカーが貼ってそうだから、見た目だけだな。誰彼構わず噛みつくクセは直した方が良いぞ。いかに地位が高くとも、常に暴力性を見せるならいつか排除される。外道に堕ちた化け物や本物が、どういう末路を辿るかは知っているだろう。鞘のない刀など、すぐに錆びて朽ちるだけだ」


 外道に堕ちた存在を排除する側の人間のため、悠太の言葉が正しいと分かる。

 だが、納得するかどうかは別の話だ。


「――ふん、言われなくても分かってるわよ」


「分かってても実戦しなければ意味はないが、責任を負う立場でもないから構わんな。――それで、何の動画を上げたんだ?」


「……閣下が、レコード出したってヤツよ。罠にもかからずにするする攻略するのはどうかと思ったけど、何か剣人会の連中が注目して……気付いたらこうなっただけよ」


 最弱と謳われるだけあり、悠太の身体能力は剣士の中でも最低ランクだ。

 もちろん、血反吐を吐くような鍛練を重ねているが、身体強化を始めとした魔導の力は悠太の鍛錬を凌駕する身体能力を与える。だからこそ、ハードモードでも普段変わらないパフォーマンスを発揮する。また、レコードを出すにはいかにミスを減らすかも重要になるため、波瀾万丈がない淡々とした障害物競走となる。

 大多数の人間が見ればつまらない動画となるが、剣人会の奥伝などの達人が見れば悠太の異常性を理解してしまうのだ。


「人の動画を勝手に出すなと言いたいが、やったものは仕方ない。その後はこうか? 魔導戦技で俺とぶつかった誰かがハードモードに挑戦して、俺に負けただの何だのと投稿して、近くにいた弟子やら関係者やらが集まって、その流れで他の来場者にも見付かった」


「まるで見てきたように言うのね。当たってるけど。……ちなみに、騒いだの鏑木のヤツよ。おひい様はもっと運動した方が良いとか煽った後に、ハードモードに一〇連で挑戦したわ。最後には比較動画と解説動画まで上げてったけど、アイツは職業選択を間違てる気がするわ」


 ああ、と悠太は納得を示す。

 夏休みに悠太の足止めをして縁ができ、最近でも魔導戦技で対峙している。

 時間を稼がれ狙撃で殺されたなぁ、と他人事のような感想と共に。


「俗っぽい部分が強いのはそうだが、奥伝としての能力は充分だぞ。一人では勝てないと理解すると時間稼ぎして、他人にとどめを刺させるような良い意味で誇りがない。これだけの騒ぎになったのだから、顔も広いんだろう。将来的には、剣人会の運営に回るんじゃないか?」


「鏑木家は名家だから、最終的にはそうなるでしょうね。あたしとしては貸しがいっぱいあるし、俗っぽくて分かりやすいからなってくれた方が嬉しいけど」


 二人から高評価を受けているが、本人が聞けば苦虫を潰したような顔になるだろう。


「……俗っぽいって、いくらなんでも可哀想じゃないですか? というか、そんなに俗っぽさって重要ですか?」


「何言ってるのよ、成美。重要に決まってるでしょう」


 悩むことなく、少女は答える。


「はっきり言うけど、剣人会って気狂いの集まりなのよ。そこの閣下みたいに意味不明な目標に突っ走るか、血に飢えた戦闘狂が奥伝を取るの。そんで剣士の集まりだから、自分より下の位階のやつの言うことなんて聞くわけないの」


 成美の脳裏に、天魔付属の日常が浮かぶ。

 魔導の優劣のみで判断するようなバカが騒ぎ、下だと見下した生徒を食い物にしようとする光景が。


(あんなバカが多いなら、そりゃ俗っぽくて話が通じる方が良いか。パイセンも剣聖としての見せ付けないとって無茶な挙動してるし)


 なお、目に余るバカは成美が実力で黙らせてたので、一年生ではなりを潜めている。

 逆恨みから囲まれたり襲撃されたりもしたが、アマチュアが知恵を絞っただけ。悪意と殺意を煮詰めた戦場である魔導戦技を数え切れないほど経験した成美には通じるはずもなく、襲撃した側のメンツがグチャグチャになるような勝ち方をしたので、現在はアンタッチャブルの一人として数えられている。


「中伝以下はそうでしょうけど、同格の奥伝はどうなんです? ぶっちゃけ、奥伝の中にも上下関係ってありますよね? 鏑木さんと鬼面さんの間に、お話にならないくらいの差があるみたいに」


「奥伝は否応なくしがらみに捕らわれるからね。面倒事を肩代わりしてくれる人には優しくなるのよ。なんせ理由なく拒否したら、じゃあお前が代わりを見つけろ、って仕事を振られるし、それが前例になって面倒事を抱え込むもの」


「イヤな村社会ですね。もしかして、パイセンもそんな感じですか?」


「俺はそもそも剣人会には近付かない。依頼にしても警察を通したものを受けているから最低限の義務は果たしている。それに未成年かつ高校生というのは、かなり強い札だぞ」


「憎たらしいくらい上手く立ち回ってるのよね、閣下って。魔導が使えないことも存分に活用するから運用方法が限られるし、本当に使いにくいったらありゃしないわ」


「魔導戦技と違って高所から飛び降りて加速、なんて技は使えませんもんね。街中は人混みが多くて、郊外だと加速に使える高所がそもそもない。……いや、むしろなんて魔導戦技では使えてるんですかね、この人」


 高所からの加速は、ジェットコースターと同じ原理である。

 飛び降りて充分な加速を得るには崖や木のように垂直な道が必要で、マップがランダムに生成される魔導戦技でも使えるマップは限られる。


「あれは確立した技術だからな、足りない速度を補う方法はもちろん存在している」


「……じゃあ、こっちでも使えるってことですか?」


「使えるが、内蔵へのダメージがシャレにならないからな。少しでもミスればトラックに衝突した時のように潰れるしで、よほどのことがない限りは使おうとは思わない」


「ね、口が上手いでしょ。閣下に無理させるよりも中伝を酷使した方が早いし、万全で戦ってもらわないと困るから本当に扱いづらいのよ。その上、組織人としての適性もないしで、これなら俗っぽいヤツを運営に据えた方がマシでしょう?」


 霊視官としての経験を思い出し、深いため息をつく。

 幼い少女にさせるには痛々しすぎる仕草に、成美は思わずオレンジジュースを差し出すのだった。


お読みいただきありがとうございます。


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