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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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対応の違いについて

先週、感想をいただきました。やったー。

とっても嬉しいです。ありがとうございます。

 研究室は、かつてないほどの密度になった。

 ライカ、成美、悠太の三人に加え、フレデリカと魔導剣術部の四人。

 計八人もの人が小さな部屋に集まった結果、椅子が足りなくなったのだ。


「……えと、えと……余ってる椅子って、どこにあるかな?」


「必要ありませんよ、牧野先輩。天乃宮が来るまでですし」


「でも、お客様が来たらお茶を……」


「客じゃないので必要ありませんよ」


 悠太から見れば、魔導剣術部はフレデリカの発案で集まったにすぎない。

 しかも、フレデリカ以外の四人には直接指導をする予定。ここでライカがお茶を淹れては、収支のバランスが崩れてしまう。


「パイセンって、そんな辛辣なキャラでしたっけ?」


「弟子のワガママでヒヨッコの指導をする羽目になった俺の気持ちを考えてみろ。奇襲せずに部屋に入れてる時点で相当に穏便な対応だぞ」


「……とりあえず、パイセンがスパルタなのは理解しました」


 悠太が抱える気持ちが何か、成美には正確には分からない。

 だが、感情と呼ぶべきモノが何一つ露出していない顔が、ある意味雄弁に語っていた。


「南雲、でいいんだよな、名前。フーカさんと同じらしいし」


「名字は同じだからな、何だヒヨッコ?」


「そのヒヨッコってのはどういう意味だ!!」


 声を上げたのは、魔導科二年の男子生徒だった。


「そのままだぞ。魔導師としても、武人としても、ヒヨッコとしか言えないだろう?」


 そもそもの話、高校に通う者のほとんどがヒヨッコだ。

 悠太の基準になるが、魔導師であれば魔導三種、武人であれば中伝を保有することがヒヨッコ脱却の条件である。もっとも、大学生どころか大人を含めても、保有する者は少数派だが。


「それともアレか、今すぐ中退しても魔導や剣で食っていけるのか? だったらお前だけ取り下げてやるぞ」


「ぬぐぅ……」


「はいはい、弱い者イジメはそこまでね。兄貴に無理言ったのは謝るから、ね。わたし、兄貴のカッコいい姿の方が見たいなー」


「元凶が調子のいいこと言っても響かないぞ。けどまあ、俺は師匠で兄貴だし。弟子兼妹のお願いくらいは聞いてやるけど」


「わーい、ありがとうー、兄貴大好きー」


 白々しいを通り越して、感心すら覚える棒読みだったが、悠太の機嫌は目に見えて良くなった。

 フレデリカを含め、周囲の者が抱いたモノは、きっと同じであろう。


「ねえ、成美ちゃん。南雲くんって、あんな感じだったかな?」


「や、知りませんけど、どっからどう見てもシスコンですね。末期の」


「私、一人っ子だから分からないけど、普通じゃないよね?」


「ええ、末期ですから。どこに出しても恥ずかしい系のヤツですね、ぶっちゃけドン引きです」


 魔導剣術部の部員も、同じようなことをささやく。

 音量は小さいが、悠太の耳には余すことなく届いていた。届いた上で、気にしなかった。自分には恥ずべき点はないと思っているからだ。


「悪いわね、往生際の悪いの捕まえるのに時間が……って、何、この空気? 見ちゃいけないもの見た、みたいな雰囲気だけど」


「さあ、俺にはさっぱりだが、お前が引っ張ってるのが原因じゃないか?」


 香織の両手は、一年生二人の首根っこを掴んでいた。

 普通科一年の男子生徒、魔導科一年の女子生徒という組み合わせで、どちらも諦めを浮かべながらぐったりしていた。


「何言ってんの、私がこの子達を引きずるなんて日常の一コマよ。ねえ、ライカ」


「……えっと、ノーコメントで」


「ほら、ライカが気を遣ってるわ。違うなら違うって言うライカが」


「なるほど。普通科の俺は知らないが、魔導科じゃ日常風景なんだな」


 周囲の魔導科生が、なんとも言えない表情を浮かべた。


「で、二人を連れてきた理由は?」


「舞台を作るのに必要だからよ。呪詛じゃ魔導戦技用の結界と幻術の代わりになんないし」


「へー、一年なのにスゴい――って言いたいけど、納得、か?」


 注目を集めたのは、魔導科一年の女子生徒。

 月を溶かしたような銀髪と、アヤメ色の目が特徴だ。

 他の生徒達は魔導科の生徒ということで注目したが、悠太は別の理由から。本能が「極力関わるな」と警鐘を鳴らしているので、香織と同程度の脅威として認定していた。


「いや、使えるのこっちじゃなくて、真門まさゆきくんの……って、気を失ってるわね」


「抵抗されるのが面倒って、いきなり殴ったのは香織」


「黙りなさい」


 意見した女子生徒の顔面を、香織はグーで殴り飛ばした。

 女生徒は廊下の壁に頭からぶつかり、骨にヒビが入ったような音が廊下に響いた。だが女生徒は何事もなく立ち上がり、多少の文句を言っただけで研修室に入った。


「真門、起きて。起きないと香織に殺される」


「私が真門くんを殺すわけないでしょ? ただちょっと、痛い思いをするだけよ」


「普通なら死んでる」


 香織を牽制しながら、真門と呼ばれる男子生徒の頬を叩く女子生徒。

 幸いなことに、香織がしびれを切らす前に、真門は意識を取り戻した。


「……んん? あれ、何で寝て?」


「おはよう、真門くん。寝起きで悪いんだけど、魔導戦技用の結界を張ってくれない? 面倒くさい条件はあるけど、情報は転送済みだから、ね」


「………………えっと、香織ちゃん? 張るのはできるけど、処理能力が不足してて、接続が必要みたいで……あれ……すっごく、辛いんだけど……」


「張って」


「……いや、でも……そう、機密が」


「張れ」


「……………………はい」


 力業の極みである。

 真門はのろのろした動作で立ち上がった。


「…………を申請………………管理者………………なり」


 胸のスマホを叩き、呪文のような何かを呟く。

 決して小さくない声のはずなのに、日本語であるはずなのに、なぜか認識することができなかった。


「……うぇっぷ」


 急に、手で口を押さえながら膝をついた。

 女子生徒が背中をさすりながら、えづく真門を介抱する。

 香織は我関せずといった具合に、二人を見下ろしていた。


「天乃宮、いいのか?」


「私に出来ることはないわ。あの子のやってることも無駄だし」


「無駄って、魔導師だって人間だ。肉体的なケアはもちろん、精神的なケアも必須だが?」


「アレが、真門くんを害するなんてないもの。情報の質と量にビックリしてるだけよ。放っとけば勝手に回復するわ」


「割とヒドいな」


 構おうが放っておこうが回復するなら、放っておくのが合理的だ。

 そして合理的な判断をするのが魔導師ではあるが、魔導師であっても人間だ。

 見ず知らずの人相手ならともかく、知り合いが倒れたなら手を差し伸べるのが普通だ。


「ヒドいとは心外ね。日頃の借りを返してもらってるだけよ」


「いや、アレもだけど……それ以外も」


 女子生徒を殴り飛ばしたり、力業による説得を見れば、香織が普段どのような行動をしているかを簡単に推測できる。

 荒っぽい部分があると自覚する悠太から見ても、香織のそれは度が過ぎていた。


「ノートコメント。踏み込みすぎよ、南雲くん」


「了解、理解した」


 魔導師が踏み込むなと言えば、魔導に関することに決まっている。

 まして香織は天乃宮の魔導師。一線を越えてしまえば、殺し合いになることは確実であった。


「真門くーん、そろそろ回復したでしょ。晩ご飯の時間が遅くなるから、さっさと張ってくれない?」


「…………この、鬼」


「そうよー、鬼よ-、混血の鬼種よ-……気が短いんだから、殴らせないでよね」


「……あい」


 香織が拳を握りしめると同時に、真門の抵抗は終わった。


「ガーデン、展開」


 世界が一変した。

 人で一杯だった研究室が、一万人は収容可能なドームになったのだ。

 予想外の変化に誰も彼もが驚愕していた。


「………………きゅうぅ」


 ぱたん。

 結界を張った張本人は、皆が驚愕する裏で、ひっそりと倒れていたのだった。

お読みいただきありがとうございます。


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