文化祭は派手なのか?
魔導学校の文化祭は派手なのか?
この問いの答えは学校によるであり、大部分が派手、という帰結を向かえる。
文化祭は生徒側から見ればお祭りであるが、学校側からすれば貴重なアピールの場だ。うちに入学すればこんなスゴい魔導師になれる、とアピールするには派手な魔導を使わせるのが一番、という理由から大抵は派手になる。
だが、天魔付属――天文魔導大学付属高等学校は違った。
「お姉ちゃんの学校選びに付き合ったのも含め、色々な学校を見て回りましたが、天魔付属は落ち着いていますね」
「同意。生徒による魔導の使用が皆無です」
「おそらく、天乃宮家の方針が色濃く出ているのだろうな。企業閥という名前から勘違いされるが、利益ではなく研究を優先する一族だ。技術を伝える専門学校ではなく、大学進学を見据えた高校では基礎固めを重視しているのだろう」
「だからお兄さんは、お姉ちゃんの進学先としてここを薦めたんですよね」
魔導とは、武器ではなく学問だ。
超能力、魔術、異能、呪術、法術、などなど。世界各地に存在した超常の力を包括して研究するための学問こそが魔導学。それは容易に軍事部門に転用でき、戦場で華々しい活躍を遂げているため勘違いされるが、本来はただの学問なのだ。
むろん、魔導学を極め魔導の深淵に触れた魔導師は、怪物に対抗するだけの力を得る。
だが、その力はあくまでも研究の副産物でしかなく、その域に至るためには研究者としての基礎を固めなければならない。
天魔付属は、その基礎を固めることに重点を置いている。
「小手先で魔導資格が取れるほどに器用なら話は別だが、フーの不器用は極まっているからな。コツコツと基礎を固め、鈍亀のように進む以外に道はないからな。その点で、ここの方針は理にかなっていただけだ」
「未だに匙を投げられていないんですから正解だったと思いますが、お姉ちゃんはよく魔導科に受かりましたよね? 自分が受けるから募集要項とか色々と見ましたけど、実技も結構重視してますし、その点では不利なはず。魔導三種だって、試験が終わってから取ったはずだし」
「……基礎を重視してるといっても限度がある。親としては成果が派手に分かる学校に行かせたくなるからな。フーも俺が薦めなきゃここは選ばなかっただろうし」
事実として、悠太が天魔付属を薦めた際、フレデリカは強く反発をした。
剣術と火界咒しか使い物にならない彼女としては、幅広い知識や技能を身に付けさせる天魔付属は自分に合わないと感じたのだ。
「ふむふむ、限度と派手となると――わかりました。剣聖の弟子というブランドを全面に押し出して、魔導剣術部行きを条件に推薦をもぎ取ったんですね。お姉ちゃんがスポーツ系の部活に入ることに違和感がありましたが、納得です」
「幸いなことに、実技はともかく知識は充分に備えているからな。魔導三種の実技は真言でごり押しするしかなかったが、それも知識あってこそ」
「ゴミの分際でお勉強はできますからね、お兄さんと違って」
うぐっ、とうめき声がもれる。
「大学受験まで一年と少ししかありませんけど、天魔大の判定、いくつですか?」
「……夏の模試でD判定」
「ランクの低い大学にするか、剣聖のネームバリューを利用するのが手っ取り早いと思いますよ。というか、よく高校に入れましたよね。お姉ちゃん以上に不思議です」
「それは、多分…………厄ネタが多いからだろう」
魔導師として優れた才能を持つことは、人の道を外れる可能性が高いことを意味する。
分かりやすい例として、魔導戦技部の部長、牧野ライカがあげられる。
不器用故に活かせていないが、魔導一種持ちと比較しても膨大な呪力を持っているのフレデリカ。ライカは、そのフレデリカと比較して一〇倍もの呪力を保有している。その理由こそ、彼女に憑いている精霊・ヴォルケーノ。
魔導師としてこれ以上ないほどの才能であるが、ヴォルケーノを制御できないのであれば魔導災害と何一つ変わらない。
本館から物理的に離れた別館の研究室に隔離されていたのも、危険性を考慮してのこと。
天魔付属には、ライカのような厄ネタが多数在籍しており、これも基礎を重視する理由の一つとなっている。
「厄ネタ、ですか? ピンとこないですが、その厄ネタさんが暴れたときの保険として、在籍を許されたということですか?」
「おそらく、な」
「剣聖が必要になるような厄ネタとは、想像するだけで怖いですね」
お前もその厄ネタだ、という言葉を飲み込んだ。
アイリーン自体は普通の範疇にあるが、神造兵器であるスクラップを拾い使役する立場にあることは厄ネタ以外の何ものでもない。ないのだが、アイリーンにそのことを自覚させるとマズい状況になる、という警鐘が悠太の頭に響き渡る。
(悪用はしなくとも、アイリは活用しかねない。いつかは気付くだろうが、少しでも遅くするべきだろう)
気付かれないために、アイリーンに繋がらない話題を口にした。
「俺の目から見て一番怖いのは、やはり天乃宮だな」
「天乃宮ですか? それは、学校のスポンサーだから怖いという意味ですか?」
「天乃宮本家の人間が生徒会長をやっているんだよ。生まれは人間だろうが、呪詛の関係で鬼種に変貌している。ないとは思うが、殺し合いになったら俺かアイツのどちらかが確実に死ぬだろうな」
「呪詛に鬼、ですか。それは確かに厄ネタですね。近付かないようにしましょう」
現時点で、霊長は一類~五類が存在する。
数字が若いほど危険性が高いとされており、三類の鬼種は危険の代表格とも言える。
正しい魔導の知識を持ち、一般社会に通用する常識と感性を持っているのなら、好き好んで鬼に近付こうとは思わない。
「鬼がいると分かっても、ここを受験するのはやめないんだな」
「当たり前です。せっかく魔導の才能があるんですから、仕事に活かそうと思うのは当然です。大学は経済学部に行き、最終的にはMBA(経営学修士)も取るつもりです。そうなると、魔導学を勉強するのは高校が最適だと分かりますよね」
「会社経営と並行して勉強するバイタリティは、世辞抜きにしてスゴいと思うぞ」
「ふふん、褒めたところで何も出ませんが、気分が良いのでミックスジュースを奢ってあげます。ちょうどお兄さんのクラスに着きましたし」
三人が揃って入ると、クラスメイトの一部が悠太に詰めかける。
従兄妹とその友達だと伝えると、彼らはすぐに納得した。悠太に彼女がいるという想像がそものそもできないのだ。
「――よし、このサイコロを三人分お願いします」
「提案。明らかな地雷は避けるべきかと」
「せっかくのお祭りですよ。乱数の女神様に委ねるのも一興というものです」
「理解。意図は分かりましたが、残すのは無粋と判断」
「もちろん。どんなにマズくても飲み干すのがお祭りというものです」
それぞれがサイコロを三回振る。
用意されている飲み物は一八種類。一列に六種類の表が三つ並んでおり、出目に当たった飲み物をコップに注がれる。
そして予想通りと言うべきか、三人のコップは飲むのを躊躇する色をしていた。
「…………なんか、ドロっとして、パチパチして、黒いです」
「ドクターペッパー、トマトジュース、グレープジュースだな。ドロっとしているのはトマトジュースだろう。かなり濃かったはずだ」
「そういうお兄さんは、暗い緑ですね」
「サイダー、青汁、コーヒーだ。苦いがまあ、飲めなくはない」
口と目をすぼめながら、悠太は一気に飲み干す。
「……スクラちゃんのは、白っぽい?」
「回答。ラムネ、カルピス、ミルクの混合物です。糖分過剰ですが、美味よりかと」
ちびちびと、味わうようにコップを傾けるスクラップ。
自身に待ち受けるカオスな飲み物に戦慄しながらも、意を決してあおり……静かにコップに戻した。
「……マズいです。変な匂いと味がします。妙にドロっと感触も不快です」
「拒否。言い出しっぺの責任を取り、粛々と飲み干してください。一人では無理と言うのなら、本機が実行を補助します」
「……待って、謝るから。ホント無理だからやめ――……っ!!」
スクラップは耳を貸さずに補助を実行したのだった。
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