剣士の昼時
システム手帳STYLE VOL.7、皆様は買いましたでしょうか?
マイナーな書籍なので知らない人が多いでしょうが、おすすめです。特にこれからシステム手帳を始めたい方、システム手帳が気になる方には。これを買って是非、システム手帳の沼におハマりくださいませ(笑)。
昼時。
南雲フレデリカの姿は食堂にある。
――モキュモキュモキュモキュ。
一人静かに口を動かすだけであるが、フレデリカは人混みの中でも目立つ。
金髪という一目で外国の血が入ってる外見、が理由ではない。
「おい、フーカ嬢。いくらなんでも食い過ぎだろう?」
――モキュモキュモキュ、ごっくん。
「食い過ぎって何の話ですか、天童部長?」
「その、定食六人前のこと――いや、今食ってるのも合わせると七人前? いつもの倍以上だろ。体重とか気にしないのか?」
「体系のことを言うなら、もっと太りたいくらいです。……縦にばっかりデカくなって、欲しいところは真っ平らとか、世の中不公平にもほどが……」
ブツブツブツ、モキュモキュモキュ、ごっくん。
ストレスを食欲で発散する少女の姿が、そこにはあった。
「別の意味で心配になってきたけど、ホントに平気か?」
「平気です、大丈夫です、多分、きっと、メイビー……成長の、余地は残ってますから」
「そっちじゃない。放課後だ」
フレデリカは無言でコップに手を伸ばした。
「あー、うん。ちょっと、困ってますね」
「別館の妖精はそんなに強いのか? 天乃宮家の弟子とは聞いてたけど」
ライカのあだ名である。
別館に隔離され、ライカ自身も積極的に交流する気質でないため、様々な憶測が飛んでいるのだ。
「ド素人。呪力はあたしの一〇倍以上だけど……それだけ。一〇〇回やれば一〇〇回勝てますけど、残機無限ですから。心折らないと勝てない……」
「首を一〇回も落とせば折れるだろう?」
「折れない相手だった場合を考えてるんですよ」
普通の相手であれば、フレデリカは対策をせずとも勝てる。
そもそも魔導剣術とは、魔導師同士の決闘から派生したスポーツ。魔導主体であれ剣主体であれ、戦うための定石はいくつもある。また、フレデリカや悠太の使用する一足一刀は、予備動作を極限まで削った体術。原理が分かっても対策できない技術の一つだ。
だから負ける可能性が高いケースを中心に対策を練り、最後に残ったのが心が折れない相手対策なのだ。
「だったら、南雲さんならどうするかって考えたらどうだ?」
「南雲さんって……え、もしかして兄貴のことですか? 天童部長って、兄貴と知り合いなんですか?」
フレデリカが記憶する限り、悠太は魔導剣術部に顔を出したことはなかった。
「いや、一方的に知ってるだけだ。入学前に南雲さんがふらっと部活に来てな。妹が入部する予定だから叩き潰して欲しいって、先生に一足一刀を見せて、戦い方を再現して、弱点まで教えて」
「わたしが初日にぼろ負けしたのはその所為か!?」
当時、フレデリカは魔導三種を取得したばかりで、天狗になっていた。
限定的ながら一足一刀も実践で使用できるレベルになっており「全国大会くらいは行けるのでは?」とさえ夢想していたのに、指導員の先生に一撃も入れられずに敗北。
一週間ほど失意のどん底に落ちたこともあり、軽いトラウマにさえなっている。
「でも、アレがあったから結果的に魔導も上達しただろう? 当時、というか今もだけど、剣から離れると途端に魔導の精度が落ちるからな」
「なんです? 才能のない呪力タンクとか、不器用に真珠とか言いたいんですか?」
「誰も言ってねえよ」
フレデリカの呪力は桁違いに多い。
魔導三種保有者の平均呪力を一〇、魔導一種保有者の平均呪力を一〇〇とするなら、フレデリカの呪力はなんと一〇〇〇。呪力の制御を覚えなければ魔導災害を起こしかねない呪力量なのだが、悲しいことに彼女には呪力を扱い才能はなかった。
それこそ、幾人もの魔導師が匙を投げ、最終的に従兄妹である悠太にまでお鉢が回ったほどに。
「それより、どうなんだ? 南雲さんならどう攻略するんだ?」
「兄貴なら一回斬って終わりですよ。戦意とか意識とかを直接斬りますから」
「魔導もなしに? どんな原理で?」
「さあ、わたしは使えませんし、理解もできませんので。ただ「心」の理、に分類されるとだけ聞いてます」
理とは、悠太が剣聖たり得る理由。
全ての武人が目指すべき極致とも呼ばれている。
「じゃあ、フーカ嬢の参考にはならないな」
「そうなんですよね、だから困ってるんです」
無意識に箸と味噌汁に手を伸ばした。
「そっちはメンバー決めたんですか? ぶっちゃけ負け確ですけど、経験値はもらえますよ」
「決めたぞ、次期主力を中心にした」
「次期ってことは、三年は抜いたんですか?」
「……三年は勝てるわけないって拒否してな。俺は部長だから入ってるけど、同意見だから責められん」
どんな競技であれ、負けるのは悔しいものだ。
同年代が相手ならなおさらに。
「――あれ? これって心が折れた状態てやつですよね、ねぇ!」
「…………おう、そうだな」
触れられたくない話題に、キラキラした目で触れてくるフレデリカ。
無神経甚だしいが、勝つためであれば無視するのが彼女である。
「率直に聞きますが、どうして折れたんですか? わたしの一足一刀には対応できてるのに」
「そりゃお前、……どうやっても斬れそうにない相手に、どうやって勝てると思うんだ? 先生の剣がすり抜けるみたいに避けんだぞ。一足一刀もそうだ。未完成のやつでも見えないんだぞ。あれがどの方向からでもできるってなったら、防ぐなんて無理だろう」
「なるほどなるほど。剣士として強すぎるから勝てないって心が折れたんですね…………参考になんない。てか、どうしょうもない」
相手が格上すぎて心が折れた、ただそれだけの話し。
「そうだよ、どうしょうもないんだよ。南雲さんに勝つなら番外戦術で勝つしかないんだよ! つーか、何? 最弱の剣聖ってことは、他の剣聖はアレより強いってこと? どんな世界だよ!」
「やー、誤解があります。兄貴が最弱なのは、呪力がないから肉体的スペックとか手数の少なさを指してのことです。剣技だけを見れば、歴代合わせても上の方です。あと、どうしょうもなく強い部分は、あくまでも剣士としてです。奥伝級なら似たようなことしてくるので、剣聖としての強さはまた別です」
悠太の呪力の少なさは折紙付だ。
魔導三種保有者の平均呪力が一〇であるなら、悠太は〇・四でしかない。
「どうしょうもないヤツが、さらにどうしょうもなくなるって、インフレにもほどがあるぞ」
「上を見ればキリがない世界ですからね、武術も魔導も」
二人揃って、味噌汁に手を付けた。
「ああ、でも安心してください。兄貴も今回のが、指導の一環だって分かってますから。斬りながら、どこが悪いのかを的確に教えてくれますよ」
「余計に心が折れるわ!」
格上との試合などそんなものである。
一朝一夕では追いつけない差があるからこそ、届かないと心が折れる。
長い時間をかけて磨いてきた技術であればなおさらに。そこまで考えて、最後まで残していたお新香をひょいと口にする。
「なんか思いついたか、吹っ切れた顔してるけど。……まさかとは思うが、俺の痴態を見てすっきりした言わないよな」
「そこまで底意地悪くないです。ただ、小細工しても仕方ないから、向こうが仕掛けてきた全部を真正面から叩き斬ろうって決めたんですよ。わたしのアドバンテージって、結局は呪力量なので」
「まあ、多いよな。あの天乃宮より多いし」
「使いこなせないのが問題なんですけどね」
フレデリカのノドからは、乾いた笑いしか出なかった。
「使いこなせるように頑張ってるのは知ってるよ。だから、勝てよ」
「ええ、もちろん。…………ところで部長、お願いがあるんですが」
すすっと、目を逸らす。
「この空いたお皿、片すの手伝ってもらえません?」
「寝言は寝て言え、バカ」
フレデリカはしょんぼりしながら、何度も往復する羽目になったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
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PS(前書きの続き)
合皮とかプラとかのシステム手帳は入門にはぴったりですが、個人的には本革一択。
本革製のシステム手帳が気になったら、「ダ・ヴィンチ」のスタンダードか、「ブレイリオ」のサフィアーノがいいと思う(個人的に)。サイズ展開が多いのと、高くても1万円台だから(システム手帳はサイズが大きいと高くなる)。
何が言いたいかと言うと、この沼はたのしーぞー、ですね。




