表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
117/176

帝国滅亡の一因になった

 古種が結界を張り、道路を耕すほどの破壊を行った。

 当然のように速報としてニュースになったが、被害者についての情報は流れなかった。


「悠坊は厄介ごとに巻き込まれないと死ぬ病気なのか?」


「たまたま、そういう時期なんでしょう。去年は似たようなペースで仕事が入ったから、その反動じゃないですかね?」


 古種や化け物が関わるニュースは、ほとんどに規制が入る。

 追いかけること事態が危ない、下手に知らせると恐怖で社会が麻痺しかねないという面もあるが、相手によっては知られたという事実を縁にして強力な呪詛をかけることもある。

 リスクとリターンを天秤にかけると、規制という手段がとられるのだ。


「運命論なんて珍しいが、事情聴取には協力してもらうぞ。こんな厄ネタ仕事なんてさっさと終わらせたいんだ。だからキリキリ吐け」


「魔導一種持ってる内海さん自体が厄ネタでしょうに。――とはいえ、ほとんど分かりません。妖精の純血種であること。神造兵器を複数、少なくとも二体所持していること。人類を燃料に何かを企んでいること。性は妖精でなく魔導師であること。戦闘は得意ではなさそうなので研究職だと予想できること。このくらいですね」


「具体性にかけるねぇ。最後の得意ではないってのは誰基準だ? お前さんと比べたら大抵は低いぞ」


「素人の小隈さんに殴られたんですから、高く見積もって初伝でしょう」


 小隈綾芽は力こそ規格外だが、十全に使いこなせていない。

 魔導戦技ではスペックの暴力で生き残ってはいたが、フレデリカには負けている。


「とはいえ、神造兵器による圧殺が可能なので、対処には上澄みが必要です。剣人会の鬼面殿当たりに声をかけるのがいいんじゃないですかね」


「おいおい、生ける伝説じゃねえか。あの人を出すって事は、数揃えても無駄か。多くても六人のチーム――なんかゲームのパーティ決めるみたいだな」


「化け物なんてどいつもこいつも、一対一じゃ勝てませんからね。チームで追い込んで、消耗させて、キルゾーンで仕留める。その常套手段が使えなさそうなんで、俺は呼ばないでくださいね。キルゾーンに呼び込めるなら、介錯くらいはしますけど」


 最弱の剣聖の正しい運用方法こそが、キルゾーンへの配置だ。

 体力などはあるが、魔導による加護がない以上、追い込みなどでは使い物にならない。


「お前が最弱かつ鈍足なの、憎たらしいなぁ、おい。なんで呪力ないのに剣聖なんだよ。人類のバクか何かか?」


「バグってのは師匠や姉弟子を言うんですよ」


「その姉弟子に連絡付くか? 神造兵器とやりあえるなら気乗りしそうだが」


 武仙流の、三人しかいない皆伝。

 武仙同様に一〇〇年を超えて生きる古種の一人、それが悠太の姉弟子だ。


「使用者の程度が低すぎて興味すら持ちませんよ。たまたま遭遇したならともかく、呼びつけたら最後、つまらない仕事をさせたって粘着されますのでオススメしません」


「粘着されるのが悠坊だけなら喜んで生贄にするから、呼びたいなら呼んでいいぞ」


「冗談ってことにしといてあげます」


 冗談でなかった場合、悠太はきっと報復に出るだろう。


「それよりも、あの妖精について教えてくれませんか? 小隈さんに執着してましたし、俺もケンカを売ったようなものなんで関わりそうなんですよ」


「普通ならダメなんだが、悠坊は剣聖だからな。特別だぞ」


 最初から用意していたとしか思えない資料を差し出した。

 極秘と記された資料は、悠太の予想に反して薄っぺらかった。


「……国際指名手配はいいとして、何ですかこの個体名は? 朱い妖精ってまんまじゃないですか。もしかしてふざけてます?」


「残念ながらマジだ。理由は――言わなくても分かるだろう」


「名付けによる変化を拒む。大層な名前を持っているのに名乗らない。名付けて欲しい誰かが他にいる。この辺ですかね」


 名前とは最も短い呪である。

 話は変わるが、肩こりは日本人にしかないそうだ。

 理由は「肩こり」という名前が日本語にしかないから。

 つまり肩がこったという概念がないので、身体が重くなったという感想しか出ず、肩こりを肩こりとして認識できないのだ。

 だが、肩こりという現象は外国人にも起こっている。

 そのため「肩こり」という単語と概念を教えれば、外国人でも肩こりを自覚して、それ以降は肩こりにかかる、というのだ。

 事実は変わらなくとも、認識は変わる。

 名前にはそれだけの力があり、古い存在ほどこの力に影響される。


「昔、この妖精にコードネームを割り当てたそうなんだが、それを使用した連中を皆殺しされてな。そんで使うのが神造兵器だろう、どうなったと思う?」


「都市国家がいくつもなくなったとか?」


「古代ローマ帝国滅亡の一因になった、が正解だ。フン族の攻勢と時期が近かったことで被害が吸収されたが、騎馬民族がドン引きするほどに徹底してたそうだぞ」


「だが、名前がなければ区別もできない。それでギリギリの形容として、朱い妖精になったと。厄ネタにもほどがあるな。これだから化け物は」


 なお、十字教会の勢力が伸び始めたのは、古代ローマ帝国の衰退と関わりがある。

 この辺りの話は長くなるため割愛するが、異教の神々を滅ぼした遠因の一つに朱い妖精の暴挙があったことは間違いないだろう。


「その化け物を素人扱いするんだから、お前も相当だぞ」


「師匠と姉弟子がアレなので。――直接的な破壊活動はこのくらいですね。となると、魔導の本質は物質への干渉ではないと見るべきか。高度な結界を張れること無関係とは思えない。なら、自信の内側に展開する何か、もしくは異界の創造……」


 自分の世界に入り、ブツブツと考察を始める。

 悠太が剣聖であることは、悠太自身を含めて誰もが認めている。武仙流の奥義である全てを斬る剣――絶刀にはそれだけの価値がある。

 だが、悠太にできることは斬ることだけだ。

 悠太以外の剣聖であれば、魔導を用いたり、長年の経験から斬る以外の強みを持つ。斬る以外の強みがないからこそ、悠太は最弱の剣聖と呼ばれる。

 故に、彼は斬る相手を分析する。


「朱い妖精に関して、これ以外の資料はありますか? 確定事項ではない、関連がありそうなゴミでも構いません」


「そっちも用意してる」


 分厚い資料が置かれる。

 古くは西暦以前、新しくは一年以内と幅広く、噂のような不確定なものも多い。

 悠太は、目を皿のようにして読み込んでいく


「………………」


「こりゃ、しばらく戻ってこないな」


 色即是空の理を持つ悠太にとって、世の中は等しく価値がない。

 どのような状況であれ、敵がいるなら斬るだけだ。そのため、突発的な遭遇でも冷静に対処をする。

 精霊の影の出現、妖刀の軍勢、鬼面を含む奥伝、スクラップ、朱い妖精。

 今年に入ってからの脅威に対処をしているため勘違いされやすいが、斬る相手が分かっていて、調べる時間があるのなら、悠太は可能な限り情報を集めて分析する。

 剣聖としては弱い自分が生き残るためには、それが必須であると知っているから。


「あの、悠太先輩はいますか?」


 ノックと同時に、ドアが開く。

 名前を呼ばれたので思考を現実に戻すと、知っている顔が目に入った。


「どうしたんだい、真門くん。事情聴取は終わったのか?」


「僕たち以外は解放されました。香織ちゃんが付き添いとして天乃宮の人員を呼んだので、皆無事に帰れると思います」


「心遣いは感謝するが、君は帰らないで良かったのか」


「お風呂に入って泥に沈むように寝たいですが、仕方ありません。――天乃宮家当主からの伝言があります」


 分厚い資料から手を離して、着席を促した。


お読みいただきありがとうございます。


執筆の励みになりますので、ブックマークや評価、感想などは随時受け付けております。よろしければぜひ是非。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ