弱いものイジメ
X4 だと、宇宙人も日本語を使用しているらしい。
その背景にはメチャクチャ長いお話があるんだけど、長すぎて複雑。
だからニコ動のこの投稿みて把握しました!
【X4:Foundations】琴葉Universe全史
内容自体も面白かったので、手軽にX4の歴史が学べるのでおすすめです。
「燃料って……そんな!」
純血でないが、妖精の血を引くライカはショックを受けた。
「ウソはなさそうだが、どう思う? 化け物の類いとは幾度か殺し合いをしてるが、純血の古種については知識だけでな。判断がつかん」
「行動原理だけで言えば、古種でなく魔導師として見るべきですね。普通ならもっとこう、致命的にズレているので」
悠太はいつでも剣を振れるよう構えたまま。
真門は顔色を悪くしながら、神経質なまでに気を張っている。
「じゃあ、わたし達を襲ったのも、燃料にするため? 本気で殺しに来てるようにしか思えないけど」
「純血種ならこの程度は手遊びだろう。土遊びで戦乙女を出すハメになったのは予想外だけど」
「戦乙女……その、歯車が?」
「あのお方が造り上げた汎用兵器だ。僕では性能の十分の一も発揮できないけど、若い純血種なら問題はない」
歯車が集い、片翼から両翼へと転じる。
両翼は朱い妖精の真後ろから横へと移動し、持ち主が露わとなる。
感情のない面、一七〇ほどの体躯、闘気のようになめらかで、生気を宿した肌。
人として見れば死んでいて、人形として見れば生きている、曖昧な存在がそこにいる。
「……まさか、スク」
「しっ、黙ってた方が良いですよ、フーカ先輩。興味を持たれたらアウトです」
魔導戦技部の面々は、夏休みに出会ったスクラップを思い起こす。
歯車の翼も、呪力の質も、彼の被造種とそっくりであったから。
「趣味の悪い人形遊び。自我も、命令回路も、都合良く壊してる。それじゃ満足に動かない」
「仕方ないだろう? あの方に連なる神格でなければ命令を聞けないだんて言うんだから。僕はあの方のために働いてるって言うのに融通が利かないというか、やっぱり被造物ってのはダメだね。正しい行いが何かを理解しないんだから」
蔑むように小突く様に、綾芽はコテンと首を傾げる。
「自由意志、あったんでしょ? それで否定されるって、あのお方のためになってならないって思われたんじゃない?」
「――あっ?」
両翼の歯車が弾け飛ぶ。
不意打ち気味ではあったが着弾に合わせて腕を振り、一欠片させ綾芽には届かない。
だが、歯車は止まらない。砕けたものも、そのままのものも、勢いを失わない。砲弾以上の威力を保った歯車達は――悠太達に襲いかかった。
「ふひひ、ふひゃははははは!! 君が悪いんだよ純血種! あの方の従者である僕を貶すなんて愚かなことを言うから、つい羽虫を潰しちゃったじゃないか! ゴミも多いけど、精霊憑きがいたから期待してたんだけど、もったいなかったかな? まあ、仕方ないよね。あの方の名誉の方がよっぽど大事なんだか――らぁっ!?」
まともに受ければ軍事施設も壊滅する歯車の群れ。
物質を加速し射出するだけの簡易な術式は、悠太が斬ったとしても慣性までは殺せず、慣性を斬れたとしても全てを斬ることは不可能。
挽肉になる未来しかないのに、綾芽は焦ることなく殴りかかった。
「惜しい」
「ど――どんな神経をしている!? 羽虫を殺されて……っ、何、だと……?」
土煙が腫れると、箱があった。
歯車を阻んだ箱は透明で、ヒビどころか傷一つない。
「ガーデン。わたしが本気で殴っても、中々壊せない」
「……神造兵器を防ぐ結界を、一瞬で発動したというのか! そんなのは神の所業だぞ!? 純血種といえど、一〇年も生きていない若い個体が至れるはずが……」
「わたしじゃ、ない。あと、使い方が悪い。下手。神どころか、純血の竜の鱗に傷も付かない。弱いものイジメしかしなかったんだね」
朱い妖精では箱は壊せないことを確認し、綾芽は攻める。
殴って、殴って、殴って、殴って、殴って。
蹴って、蹴って、蹴って、蹴って、蹴って。
投げて、投げて、投げて、投げて、投げて。
「……ぶぅ、当たらない」
「弱いものイジメしかしていないのはお前の方だろう。罠を疑うほど無様だぞ」
魔導科に通っているとは思えないほど原始的で、素人のように拙い動き。
ケンカ慣れした不良の方が、よっぽど理にかなった戦いをするほどだが、一撃さえ受けるわけには行かない。その辺の土を散弾に変えるほどの単純な怪力が、全てを必殺に変える。
また、素人だからこそ動きが読めない。
時折……というか七割ほどの非合理で非効率な動きは、戦いに慣れた者ほど惑わせる。
「あなたも同じ。全部機械任せで、何もしてない」
掠ることさえ許さない必殺を捌くのは神造兵器。
広く薄く展開した歯車の結界が、綾芽の攻撃に反応して集まり盾となる。
「戦いなんて野蛮なことはするから兵器なんだ。その間に僕は悠々とルーンを組む。こういうのを、人間は合理的とか、適材適所って言うんだろう?」
浮かび上がるのは、古く原始的な文字。
現行の魔導体系が非効率、もしくは理解不能と斬り捨てた魔導の形。
綾芽は文字の破壊を試みるが、やはり歯車が阻む。
「ふはははは! どうしたんだい!? 早くしないと完成してしまうよ!!」
「むぅ……面倒」
歯車の結界を超えない限り、綾芽は敗北する。
兵器に絶対に自信を持つ朱い妖精は、勝利を確信した。
「なるほど。つまりはその人形を斬ればいいんだな」
一閃。
歯車は砕け、完璧なはずの結界に穴が生じる。
反射的に穴に飛び込み、拳を振――ろうとして、歯車に阻まれる。
「いけると、思ったのに……」
「猪突猛進が過ぎるぞ、小隈さん。俺があの人形と肉薄するまではガマンしなさい」
嘆息しながら、悠太は綾芽の前に出る。
構えた剣の先には、スクラップに似た神造兵器。
「そこの羽虫。今、何を言った? 精霊憑きや、呪力が多めの羽虫ならともかく、お前が何をするって? 呪力もなく、燃料にさえならないゴミが、神造兵器をどうにかできるって? ふひひひひひ、ひはははははは!! 道化が語る大言壮語よりも愚かしいな!」
悠太は呪力が少ない、これは事実である。
一般人の平均の一〇分の一という、魔導師から見ればゼロと変わらない。
だが、それでも悠太は剣聖である。
「なら、試すとしよう」
歯車の群れに踏み込む。
呪力の有無にかかわらず、領域内の異物を排除する結界は――反応を示さない。
「……は? 何をした、羽虫?」
「何をとは、魔導や異能についてか? なら、何も。見ての通りのことしかしていない」
正眼に構えたまま、すり足で。
牛のように遅く、亀のように確実に、距離が狭まる。
「ちっ、弱すぎて脅威と認識されないのか? 命令だ人形、あの剣を持った羽虫を殺せ」
神造兵器は動かない。
悠太は剣を構えたまま、ゆっくりと距離を詰める。
「……っ、なんだ、何なんだお前は!? なら僕――っ、おい、人形! 僕の邪魔をするんじゃない!! 鉄臭い羽を退けろ!!」
神造兵器は、朱い妖精の動きを阻害する。
反抗ではない。最優先事項である、朱い妖精の安全を確保するために。
「忠臣だな、お前は。自己を否定した主を守護するか。いや、本質が兵器だからこそか。なるほど、だから――」
アレがスクラップと名乗ったのか。
悠太の剣が、神造兵器に触れる。
武仙流「心」の理・奥伝――祓魔剣。
強い自我がなければ耐えられない心を斬る剣は、兵器の自我を斬り裂いた。
「――兵器としては不完全。自己判断は結構だが、自我という心がある限り隙は生じる。もしも君が自己判断さえ機械的に行っていたら、ここまで上手くはいかなかった」
スクラップと同型であるからこその決着。
暴走した神造兵器を斬るための試行は、そのまま流用できた。
心があるからこそ、数百にも及ぶ試行に付き合わされ、動きを制限せざるを得なかった。
「後は好きにすると良い」
「ありがとう、……えっと、悠太先輩?」
コテンと首を傾げながら。
綾芽の拳が、朱い妖精の顔に吸い込まれた。
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