……脳みそに手を突っ込んでシェイクされたみたいに
X4 Foundations
やばい沼ゲーに手を出してしまった。宇宙オペラ系をやりたいと思い、動画を見て、ついにというか……
休みの日に10時間以上ぶっ通しだったよ。なんとか100万クレジット稼げるようになったけど、まだ序盤というのがなんとも。
人型ロボットなんて出ないで、宇宙船が主体。この構図、何かに似てると思ったら、銀英伝ですね。
銀英伝好きなら、多分気に入ると思いますので、おすすめですよ。
文字通り、時間が溶ける沼ゲーなのが玉に瑕ですが(笑)。
「ふんふん、ふーん。ふふん、ふん、ふーん」
お腹が満ちた綾芽は鼻歌を歌う。
普段なら迷惑になるからとたしなめるところだが、人のいない通りなので、真門は好きにさせると決めたようだ。
「あんだけ食べたのに……元気ね」
「そういう生態なんだろう。姉弟子も似たようなところがある」
「え、お姉様? さすがにあのキチガイ……もとい、規格外と一緒には…………いや、言われてみれば似てるか。見た目は可愛いけど中身がアレな所とか特に」
武仙流を皆伝まで修めた者は、歴史を紐解けば数多く居る。
だが、存命の剣士となると話は変わる。
悠太と武仙を除くと、話題に出た姉弟子一人のみである。
「お姉様ぁ!? え、なんですかその素敵ワードは! どんな人なのか気になります!!」
「一言で言えば人外。正しく表現すると魔導災害そのものよ」
「……魔導災害級に危ない人ってことですか?」
「誤解してる言い方ね。級じゃなくてそのもの。ゴールデンウィークの妖刀があったでしょ? あれに自我が芽生えて、憑依でもなんでもなく独立した自前の身体を持って、兄貴以上に剣を極めたのがお姉様よ」
魔導災害の終着点としては、いくつかのパターンがある。
その一つが、存在の確立。個体ごとによって程度の差はあれるが、最大級の存在は精霊種として認定される。
「パイセン以上って……マジですか?」
「事実だ。数打ちの量産品が血を浴びてアーティファクト化し、付喪神になり、神剣の域にまで己を高めたのが姉弟子だ。というか、純粋に剣士としての腕を問うのであれば、姉弟子は師匠を超えてるぞ」
「はぁ……スケールがデカすぎて実感沸きませんが、魔導災害そのものってのは誇張でも何でもないんですね」
「ただ、姉弟子や師匠でも化け物止まりでしかない。例外ってのは文字通りの例外だから、遭遇したら生き延びることだけ考えろ」
すれ違う人がいないとは言え、大通りでする話ではない。
走行する車も一台もないが、建物には光が灯っており、どこで聞かれるか分かったものではないからだ。
「というわけなんだが、真門くん。この現象に心当たりは? 一見すると異界に紛れ込んだ印象を受けるが、俺の目には普通の大通りに映っている」
「要所要所に人避けの結界が張ってありますね。ネットや電子系には一切の誤魔化しがないようですから、相当に古くて強力な術式です。悠太先輩以外の誰も気付かせないのも、正直言って気味が悪いです」
「真門くんも、大通りに入ってすぐ気付いただろう。どんな手を使おうと、結果が出れば問題ない。話を戻すが、魔導省は警察は気付くと思うか?」
「……隠蔽は見事ですが、範囲が広すぎるので必ず気付きます。しかし」
「介入する前に終わるだろうな。意見が一致してなによりだ」
悠太は神妙に頷きながら、剣型のデバイスを取り出す。
顎に力を入れて恐怖を噛み殺す真門は、胸ポケットの上からスマホを二度叩く。
「……? どうしたの悠太くん? 剣なんて取り出して、危ないよ?」
「ええ、危ないから抜いたんです。分からなくて良いから、四人ともこっちで固まれ。どうやら準備が出来たらしい」
疑問符を浮かべながらも、綾芽以外の三人は真門の間合いの内側に集まる。
いつの間にやら鼻歌を辞めていた綾芽は、四人から七歩ほど離れた位置で空を見上げる。
「綾芽ちゃん? よく分からないけど、悠太くんが言う通りにした方がいい……」
「――来た」
無造作に手を振ると、道路が爆ぜた。
爆ぜた地点に目を向けると、砕けた金属片がコンクリートを砕き、よく固められた地面をほどよく耕している。
「……えっと、ダメだよ? 道路は壊したら弁償が……って、綾芽ちゃんがそんなことするわけないか。出来るけど、良い子だし……じゃあ、誰が…………んん? あれ? なんか私、的外れなこと、考えてる? というか、身体が震えてるのに、なんで怖くないの?」
ライカが自身が異常なことに気付くが、感情は異常であることを認めない。
フレデリカや成美も同じように混乱する中――悠太は剣を振った。
「呪力や術式を斬るなら断流剣だが、精神や心、認識に関することは祓魔剣の領域だからな。俺自身のことはともかく、術中にハマったことさえ自覚しない他者の目を覚ますことはまだできない。……遅くなった理由はそんなことろだ。未熟ですまんな」
武仙流「技」の理・奥伝――断流剣。
あらゆる魔導を斬り裂く奥義ではあるが、斬れないものも存在する。
剣が届かぬほど遠いもの。一部を斬った程度では揺るがない広大なもの。人の意識を誘導するだけのもの。大通りを封鎖し、認識を歪める古く強大な結界は、まさに今の悠太では斬れないものであった。
「……うっぇ、気持ちワル……脳みそに手を突っ込んでシェイクされたみたいに気持ちワル……何コレ、兄貴が斬ったのにまだ危機感を抱けないって……」
「普通に斬っても意味がない理由がその思考誘導だ。洗脳の一種だから、しばらくは自分自身で思考誘導をすることになる。まずは今は危険な状態だから警戒しろと、声に出して言い聞かせろ。洗脳には洗脳が一番効果がある」
脳筋理論かよ、と悪態を付きながらも言われた通りに声をだす三人。
その間、綾芽は六度、腕で攻撃を払った。
「……しつこい」
間隙を付いて回収した破片を、力いっぱいに握りしめて、振りかぶり、投擲した。
金属片は空へ――は向かわずに、まっすぐ、目の前に飛んでいった。
そのまま飛んでいくと思われた金属片は、空から射出された歯車に迎撃される。
まるで、金属片から何かを守るように。
「つぎ」
いつの間にか、片手一杯に金属片を集めて。
雪合戦でもするように、連続して投げつける。
何度も、何度も、何度も。
執拗に、執拗に、執拗に。
それらは例外なく、空から射出される歯車に打ち落とされる。
……道路は、道路とは思えないほどに耕された。
「なくなった……なら、現地調達」
耕された道路から土を拝借し、呪力を込めて握りしめる。
小石ほどに圧縮された土塊を、これまでと同じように投げつけ、同じく防がれる。
ただ、土塊は土塊。固めただけの土は、歯車に触れた時点で結合は解け飛び散った。三段以上に広がった土は、一つひとつが呪力が込められている。どれか一粒にでも当たれば致命傷は免れないが、空からでは落としきれないほどの数がある。
打ち落としようのない散弾は、されど歯車によって防がれた。
壁のように広がった、歯車の翼によって。
「育ちが悪いね、純血種。ベルセルクでも少しは頭を使うというのに」
「やっぱり隠れてた。でも、怒り方が人間っぽい? 純血の妖精なのに」
高校生としては小柄な綾芽よりも、さらに小さな子供だった。
男とも女とも取れる中性的な幼さはあれど、隠す気のな苛立ちは子供ではありえないほどの圧がある。
ただ、目立つのはそれらではない。
髪も、目も、呪力も、何もかもが――朱い。
――朱い妖精。
どこをどう切り取っても、そう形容するしかない存在であった。
「お前達に合わせて出力しているだけだ」
朱い妖精を守る歯車の羽が爆散する。
土塊の散弾のお返しとばかりの意趣返しは、腕を二振りすぐだけで終わった。
「やり方がせこい。分かりやすい」
一振りは、歯車の羽を。
一振りは、空からの歯車を。
綾芽達の周囲を除き、道路のコンクリートはすっかり耕されてしまった。
「あと、神経質? 建物も、人も、傷一つない」
綾芽が気を遣って攻撃を払ったのが大半であるが、朱い妖精も気を遣っている。
土塊の散弾を、周囲に被害が出ないように防いだからだ。
「大事な大事な燃料だからね。特に人間は燃料に変えるか、殺した後にしか希少かどうかも分からない。無造作に殺した中に希少な燃料があったことがたくさんあって、見付け直すのに何百年もかかるんだ。あの徒労感は何度も味わいたくはない」
当時の苛立ちを思い出したのか、忌々しげに舌打ちをする。
悠太と真門はこの時点で、朱い妖精が古い妖精種であると認識した。
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