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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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トンチキなこと

気づけば二周年ですね。

ノープロットでよく続いたものだ。

 高等学校にとって、文化祭は大きな意味を持つ。

 生徒達に取っては文字通りのお祭りであるが、運営側に取っては外部に対して学校をアピールする絶好の機会だ。進路相談のスペースが大きく取られていることがその証拠と言えよう。

 天魔付属にとってもこの構図は変わらない。

 積極的に参加する生徒に対して内申点を与えているのも、その一環である。


「生徒会に出す書類なら昨日のうちに提出しましたよ」


「提出したけど差し戻されて修正中です、なんてトンチキなことは言わないだろうな」


「言いませんよそんなこと!! なんですか、そんなに信用ないんですか!?」


「なんであると思うんだ? 部活作るときに何度リテイクになったか……具体的な数は覚えてないが、二度とやりたくないくらいにはやったな」


 覚えがあるのか、口をすぼめる。

 だんまりを決め込む成美に、悠太は眉をつり上げた。


「帰る。一ヶ月は顔を出さないからそのつもりで」


「待ってください! 覚えてますし反省してます! だから最初っからちゃんと作って一発合格しましたから見捨てないで!!」


 魔導戦技部に所属しているが、悠太はそこに重きを置かない。

 入部したのも、縁ができたとか、ライカと精霊が危なっかしいからとか、魔導戦技が稽古にちょうどいいとか、その程度の軽い理由から。

 悠太は剣聖という立場におり、個人でも魔導戦技に参加できる。

 そのため、少しでもイヤになれば退部しかねないのである。


「お前はフーと違って、基本的に大抵のことは要領良くできるんだから、公私の別はちゃんと使い分けろ」


「言いたいことは分かりますけど……楽しくないんですよね」


「言いたいことは分かるが、楽しいだけじゃ楽しくなくなるぞ。人は落差があって初めて、物事の価値を実感する。本気で青春を謳歌したいと考えるのなら、少しは真面目な作れ。特に書類関連は、作り直しで時間も取られるぞ」


「……まあ、前の時は何日も使いましたからね……あれはあれで楽しかったですけど」


「俺は、楽しく、なかった」


 もっとも被害を被った悠太の声は、底冷えするほどに低かった。

 気持ち悪いと言われるほどに良かった機嫌も、一瞬で暴落してしまった。


「その点は……ええ、ごめんなさい。昨日パイセンが逃げた時点で、ヤバいなと思って真面目にやったので、許してください」


「自分で気付いたから文句は言わないが、社会に出たら俺の対応が優しい部類に入るからな。普通の大人は何も言わずにフェードアウトしていくからな」


 特にビジネスの場面で多い。

 満足のいく取引ができたなら続け、不満があるならその場限りとなる。

 取引の期間が長ければ、義理や人情の観点や、代わりを見付ける必要があるので見切りを付けるまでに猶予ができるが、最終的には取引がなくなるのに変わりはない。


「パイセンも経験があったり?」


「……多分、きっと、……いるな」


「なんです、その煮え切らない答えは」


「その場限りの相手、三回も会わない相手なんて、俺が覚えるわけがないだろう。それに、気付いたら死んでたなんて、この業界じゃ珍しくもないからな」


「あの、人としてのダメさと一緒に、さらっと闇を吐かないでください。温度差で風邪ひきますから」


 四月から数えてそろそろ半年。

 死にかけた数が片手ほどになりそうな事実に、胃が重くなるのだった。


「風邪はひかないように注意するとして、どんな案と、どんな条件で通ったんだ? プレゼンのまんま、なわけないだろう」


「最終的には、一人ずつ参加のアスレチックになりました。魔導の使用も肉体強化限定で、コースも一つだけ。難易度も魔導の使用ありなしのみとか、かなりのダウンサイジングとなりました」


「可能なら、魔導ありで二種類欲しいな。オートで高倍率の強化ができるイージー、自前でやるノーマル。魔導なしはハード。これなら魔導が苦手な人も参加できるだろう」


「そうだね。魔導学校の文化祭だけど、普通科もあるから使えない人も来るよね。……使えても、苦手な人も多いし」


 苦手な実例として、莫大な呪力を保有し、精霊を宿しているライカがいる。

 ただ、苦手なのは身体強化でなく運動そのものなのだが。


「イージーモードの搭載はできそうですが、ノーマルでもやり方次第でイージーよりも楽になりませんかね?」


「人体が耐えられる負荷には限界があるから、その限界値を設定すれば問題ないだろう。現実だと痛めるからできないが、アバターはあくまでも仮初め。自前で使うのは現実で耐えられる程度の強化だから、問題ないだろう」


「魔導使えないクセに、細かい仕様に詳しいですね」


「フーの師匠として必要な知識だからな。いち剣士としても、相手が使うなら理論値や限界値は知る必要がある。――まあ、化け物連中はそれを軽々超えてくるから、基準程度にしかならないが」


 人の限界を超えることは、容易くはないが珍しくもない。

 鬼種や妖精種であれば生まれの時点で、人間種の限界を超えた部分を持つ者もいる。人間種であっても、魔導や武の探求の果てに限界を超える者もいる。

 その中でも寿命の限界を超え、例外の足下に指をかけた存在が、化け物と呼ばれるのだ。


「イージーとノーマルの差はそれでいいとして、ハードはハードになりますかね? そりゃ、ノーマルクリア前提の難易度ならハードになりますけど、それを強化なしでとなると」


「そんなの、俺のクリア率半分程度の難易度にすれば充分だろう。バランス感覚とか、小さな足場への跳躍とか、身体の使い方を要求されるいくつか作れば良い。……いや、俺だけだと不安が残るな。天乃宮にもやらせればいいか」


「テストプレイヤーは多い方がいいのは確かですが、会長さんですか。魔導一種持ちですし、怪力だって噂は聞きますけど、あくまでも魔導師として一流ってことですよね。パイセンレベルの剣術も使えるとか、言わないですよね、ねえ?」


「さすがに言わない。武の心得はあるが、中伝寄りの初伝ってところだろう」


 ほぅ、と安堵する。

 悠太も大概、化け物よりではあるが、魔導が使えるほどの呪力がないという欠点がある。

 魔導一種持ちが武術も一流となると、それはもう埒外過ぎて恐怖を覚えるものだ。


「ただ知っての通り、武の位階が高いことと強さは別物だ。鬼種のごとき怪力を御して日常生活を送っている時点で、テストをさせるには充分だろう」


「…………あの、素朴な疑問なんですけど、魔導一種って化け物みたいのじゃないと取れない資格でしたっけ? 文武両道は条件じゃないですよね?」


「一芸は万芸に通ずる、の典型例だ。どんな分野でもある程度極めると、物事の見方や考え方が常人のそれとは変わるんだ。後輩だって経験あるだろう? こんな簡単なことがなんで出来ないんだろう、分からないんだろう、って思ったこと」


「どう……でしょうね、かね……?」


 歯切れ悪く目を逸らした。


「魔導も剣も、それ自体はただの技術に過ぎない。俗っぽくなるが、格ゲー初心者から見れば、中級者も上級者も上手いとしか分からない。だが中級者から見れば、上級者との差が明確になる、ということだな」


「えーっと、成美ちゃんが初心者、香織ちゃんが中級者、南雲くんが上級者ってことでいいのかな?」


「その通りです。あくまでも武に限定して、分かりやすく仕分ければですが」


 随分と傲慢な物言いであるが、剣聖にはそれが許される。

 魔導を使えない悠太が、魔導に対処できるのも、魔導が技術でしかないから。

 これは魔導を極めた香織にも言えることなのだが、話がズレるので指摘しなかった。


「中身の仕様について、話し合えるのはここまでだな。これ以上は技術者の意見が必要になるが、いつ頃来るとかは決まってるのか?」


「それでしたら――」


 ドアがノックされると、ライカが返事をする。


「――今、来ましたよ」


 ライカはそのままドアを開け、天乃宮の技術者を部室に招き入れた。


お読みいただきありがとうございます。


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