絶対に当たる未来視
初空とか天乃宮とか書いてて思うこと。
なんで未来視なんて面倒くさいテーマを組み込んでしまったのかという後悔。
確率論が染み込んだ頭で決定論を考えると、頭痛がひどくなる不具合が発生するので。
「十二天将の未来視と同じとは、過分な評価だな。観の目はあくまでも視野を広くするだけ、空の目は内面や本質を推測するだけ。先の事なんて何も視えないぞ」
「閣下は、絶対に当たる未来視は存在すると思う?」
いわゆる、決定論の考え方だ。
人は完璧な未来予測しようと、多くの技術や学問を発展させてきた。身近なところでは天気予報や、地震警報などがそれに当たる。
ただ人類は、未来予測の精度を上げようとした結果、ある皮肉な結論に達した。
「絶対の未来なんて存在しない。不確定性原理やラプラスの悪魔の否定など、未来は無限に存在するという証明は数多いからな」
「なら、天乃宮や初空の未来視は、なんで良く当たるか分かる?」
「む…………考えたことがなかったが、そうだな。数多くの未来を予測して、どれかが当たれば良いようにしているとか?」
「それは天乃宮のやり方だけど、なんで真っ先に出てくるのよ? もっと色々あるでしょ」
「俺含め、武仙流はそうしているからだ」
夏休みにスクラップ相手に行った、一〇〇〇に迫る試行。
斬り殺されたと錯覚するほど真に迫るものであったが、武人であれば誰もが行うこと。
空の目の境地に至った悠太は精度も深度も他の追随を許さないが、あくまでも誰もが行えることの延長線上にしかない。
「ただ、天乃宮のやり方を勝手に話すのはどうかと思うぞ? 少なくとも俺は知らなかった」
「専門家でもないと未来視の分類は理解できないから、気にする必要ないわ。それに天乃宮は視座が高すぎて、知られてどうこう出来る段階を超えてるから」
「なら、初空はどうなんだ? 天乃宮を、世界有数の未来視だろう。視た未来によっては国どころか世界すら動かすと聞いているぞ」
天乃宮家は、天文宗家と称される一大勢力。
日本魔導界においては、中央閥、地方閥にならぶ派閥、企業閥の中核を成す。
対して初空家は、あくまでも一つの家。
十二天将・天乙を継承する名門ではあるが、財力や権力など全てが劣る。というよりも、規模が違うので比べるのが間違っている。
しかし、霊視や魔眼など特異な目を持つ魔導師を数多く輩出するという一点で、初空家は天乃宮家に匹敵する未来視たりえるのだ。
「確定した未来が存在しないのは確かだけど、未来は本当に無限だと思ってる? 例えばだけど、世界大戦が回避された未来とか、そういうの」
「当時の人間が回避できなかったんだ。俺たちの知る時期は回避できたとしても、別の形では起こったとは思うぞ」
「別の形、ってとこがミソでね。未来は無限だったとしても、確率は平等じゃないの。一〇〇%は存在しなくても、限りなく一〇〇%に近い未来はある。人によってはこの偏りを、時代の流れなんて呼んだりするわね」
「つまり、初空はその流れを視るのが初空の未来視ということか?」
常人の視界しか持たない悠太には想像がつかないが、霊視とは常人では認識できないナニカを視覚を用いて認識する能力。それが異能の域にまで高まったものを魔眼と呼ぶのだが、どちらも視覚に関する能力。
未来へと向かう流れを視れるならば、未来を当てる可能性も高くなる。
「残念だけど、あたしの未来視は逆よ」
だが、可能性が高いを未来を当てるだけなら、未来視は必要ない。
極端な話し、情報さえ揃っているなら誰でも当てることが出来る。
未来視が珍重されるのは、思いもよらない未来を当てることが出来るからに他ならない。
「無限に存在する未来をね、適当に視せるのよ。今から繋がってるってだけの条件で、遠いのも近いのも無差別に」
「なるほど。無差別だから、主観で視ていたら理解が追いつかないということか。俯瞰して情報を集め、考察や解析は後回しにする。実に理にかなっている」
「……間違ってないけど、それで終わるなら初空は天乙を継承してないわ」
名前の通り、十二の席が存在する十二天将だが、三〇〇年ほどを遡っても全席が埋まったことはない。
理由はいくつかあるが、席を継承し続ける一族が少ないことが大きい。
席を継承する一族は、初空を含めて三。残る九席のうち一席は魔導省に割り当てられているが、残り八席は適任者がいなければ空席となる。
継承される三席も神格に耐えられなければ空席になるが、特に空席が多いのが天乙だ。
「初空が未来を視るとね、それに向かう流れが生まれるのよ。もちろん、一回や二回じゃ強い流れにならないけど……」
「何度も視るなら話は別、ということか」
魔導世界においては、縁という概念で説明される。
視ることによって未来と縁が結ばれ、その縁を通して流れが出来る。
「少しでも流れに乗ったら、あとはもう泥沼よ。近い未来ほど視やすくなるし、視たらより流れも強くなる。……良い未来なら別にいいの。でも……」
「避けたい未来ならどうしようもない、と。……一種のパラドックスだな」
未来を視たから、そこに向かうのか?
そこに向かうから、未来を視たのか?
どちらが先でどちらが後か、神々さえ答えを出すことができない矛盾である。
「何となく分かってきたが、最悪に至らないために手を貸せって話しでいいのか?」
「ぶっちゃけそうよ」
天乙の神格を持って入るが、少女は未来視を持っているだけ。
荒事への対処能力など、見た目通りにしかないのだ。
「はっきり言うが、俺の価値はそこまで高くないぞ。確かに空の目や絶刀はあるが、戦力としては鬼面殿の方が上だ。剣聖の位階にいるのも、普通の奥伝では斬れないモノが斬れるからだ。その部分だって、大抵は魔導で代用可能」
「――空を斬ろうとしている閣下だから、あたしは声をかけたのよ」
何を言われても協力するつもりはなかった。
初空家の少女に隔意があったわけではない。アイリーンが巻き込まれたとはいえ、スクラップは排除に値する危険な存在。創造主との繋がりを斬ったため安全になったが、初空が動かなければ斬ろうとさえ思わなかった。
ただ、最弱の剣聖の代わりはいるという話し。
「詳しく」
もしも、最弱の剣聖でなければならない理由があれば。
悠太が斬ろうとしている空が理由だとしたら。
どのような遺恨があろうとも、彼は興味を示す。
「赤い破滅――そうとしか言えない未来だったわ」
「規模は?」
「一都六県の全てと、隣接する県も含んだ範囲。…………その内側にある、異界を含めた全ての知性体が、赤に溶けたわ」
「日本の首都圏が消滅するとなると、世界経済への打撃は深刻だな。加えて、国家としての統率もズタズタになれば近隣諸国の箍も外れる。異界も含むとなればなおさらに……少なく見積もっても、世界恐慌と世界大戦が同時期に起こりそうだ」
その先に待つのは、世界秩序の崩壊。
人類が生き残ったとしても、現在の文明を維持できる保証はない。
スクラップの件が赤い破滅に繋がるとしたら、剣人会が強固な姿勢を貫いたのも理解できる話しではある。
「――が、その程度の危機はそこら中に転がってる。俺を動かす理由にはならんな」
精霊――意思を持った自然災害を始めとする、例外。
例外には劣るが、それらと比肩しうる、化け物。
化け物や例外を殺しうる手段を持つ、本物。
これら規格外が幾人も存在する世界とは、いつ崩壊してもおかしくない薄氷の上に成り立っている。
悠太は確かに本物であるが、彼以上の存在もまた数多く存在しているのだ。
「閣下は空を斬りたいって言うけど、具体的にはなんなの?」
「外に出て、見上げれば見えるあの空だ。イメージとしては、一面に広がる曇天を一振りで斬り払って、広がる青空から陽光が差し込む――って感じが空を斬るだな」
「その曇天を、一面に広がる赤に置き換えたら、あたしの言いたいことが分かるんじゃない?」
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影の地はのんびりプレイ中。
やっとこさ地図を全部解放した。




