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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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ナンパに行こう

果たしてナンパに成功するのだろうか?

 生徒会に直談判をした翌日。

 ホームルームが終わると同時に、悠太は席を立った。


「昨日の話を覚えているか?」


「放課後のことか? ほほう――」


 楽しいイタズラを思いついたとばかりに、口角をつり上げた。


「つまり、ナンパに行こうってお誘いだな」


「そうだ」


 シンッ、と静まりかえる教室。

 剣聖であることは知らずとも、噂から武闘派であることは知られている。

 呪力がほぼないにも関わらず、魔導系の部活に所属していることも知られている。

 そして、なにより「性欲がないのでは?」と噂されるほどに恋愛事に興味がないことも知られていた。


(は? 冗談だって分かり切ってるから断ったナンパに行く? ……なるほど)


 ――厄介事だな。

 クラスメイト達の心は一つになった。


「……駅前でいいか?」


「ああ、すぐに行こう」


 逃げるようにして教室を出てから数分後。

 成美が書類片手に突撃するのを見たクラスメイト達は、彼女から逃げるためだったと納得をした。


「ところで、本当にナンパするのか?」


「俺はしないが、するなら最後まで付き合うぞ」


「だから意味ないっての。――ってか、しないなら俺を誘う意味ないだろう?」


「俺一人で逃げても行動パターンから追いつかれるからな。……無駄に優秀な後輩を持つと困りものだよ、まったく」


 成美は魔導戦技や夏合宿を通して、非常時における悠太の行動パターンを分析している。

 この点は非常に優秀ではあるのだが、残念なことに書類仕事が出来ないという欠点があった。より正確に表現をするなら、審査を通すための書類を作るのが苦手なのだ。

 魔導戦技部設立のための書類を作るときには、二桁におよぶリテイクがあった。

 今、魔導戦技部では文化祭に向けての企画書を作成している。つまり、設立当時と同じ苦労が予想されており、悠太はそれから逃げ出したのだ。


「明日はどうするんだよ? 学校も部活も同じなら、逃げてもどっかで捕まるだろう」


「俺だって人間だから、後先考えずに逃げたくもある。あと、後輩は無駄に優秀だからな。俺が本気で逃げたと分かったら、マウント取ってネチネチ責めるために真面目に書類作るだろう……多分」


「信じてるんだか信じてないんだか……後輩って、昨日突撃してきた子だよな? 気安そうで明るい子だと思ったけど、実は陰険なのか?」


「素で頭が良いクセに感情を優先するタイプだ。優秀だから最悪の一線だけは超えないが、それ以外は頑固で自分の都合とやり方を突き詰めるタイプ――つまり、魔導師らしい魔導師と言えるな」


 青春の謳歌を優先するあまり、時折理性を失うのが成美だ。

 愚かしいことだと思うが、根本的には共感を覚えている。青春を空を斬ることに置き換えたなら、悠太のやっていることそのままだからだ。

 欲の形や強度は違えども、なりふり構わず突き詰める様は同じなのだ。


「うーん……魔導科のバカ共を知ってると、やらかす気がするんだが」


「確かに後輩もバカだが、曲がりなりにも魔導師の卵だ。卵にも成れない半端者と一緒にするのはさすがに可哀想だぞ」


「辛辣だね。ここまでキツい物言いだと、女の子を引っかけるのは無理そうだし、ゲーセンで時間潰しするか? 南雲は絶対に行かないだろうからバレないだろう」


「人が多い場所なら、バレても逃げやすいな。――手間賃でいくらか出すから頼む」


「無粋なことを言うなよ。自分のカネで遊ぶから楽しいんだぞ」


 そういうものか、と頷きながら後を付いていく。

 たわいない会話で退屈な道中を彩るも、トラブルなどあるはずもなく到着する。


「遅かったじゃない。レディを待たせるなんて良い度胸ね」


 帽子を被り、ランドセルを背負った少女に声をかけられた。

 不機嫌そうにつり上がった目に悠太は覚えがあったが、無視することを決めた。


「ねえ、ちょっと……聞こえてるんでしょ! ――無視するんじゃないわよ閣下!?」


「おい、南雲。あの子お前の客だろう?」


「俺は閣下なんて名前じゃないし、名前も知らない小学生から声をかけられるわけ」


「揚げ足取ってるんじゃないわよ南雲悠太!!」


 はああぁぁぁ、と長いため息を出しながら足を止めた。


「何の用だちびっ子、迷子か? それとも天乃宮を呼び出した方が良いか?」


「香織に用があるときは直接行くわよ。わざわざ途中で学校抜け出してまで待ってたんだから、少しは話を聞きなさいよ!」


「今からここで時間潰すから、それでいいなら」


 歯ぎしりをしながら、殺さんばかりににらみ付ける。

 悠太は別段と気にしないが、もう一人は居心地が悪そうである。


「ゲーセンの定番は、やはりクレーンゲームか? ぬいぐるみに、菓子に、ガジェットに…………難易度はともかく、どれを取るべきか」


「悩んでるならアレが欲しいわ。あの白い髪の魔女のフィギュア」


「あの箱に入ってるのか? 持ち上げられる重さか気になるが、いいだろう。両替してくる」


 一万円札を崩して用意した硬貨を、投入口の近くで積み上げる。

 だが、クレーンゲーム初心者が箱物を取れるわけもなく、硬貨はすぐに半分になった。


「あたしから言っといてなんだけど、ド下手ね。もうは辞めた方が良いわよ?」


「基本、ゲーセンにはこないし、来るくらいなら剣振ってるからな。――ただ、時間はまだあるからな。もう少しくらい」


「見てらんないからちょっと退け。俺がやる」


 悠太を退かして、操作権を奪う。

 おっかなびっくり動かしていた悠太と違い、迷いなくボタンを押すと、三回のチャレンジで魔女のフィギュアが取り出し口から出てくるのだった。


「ありがとう。上手なのね」


「クレーンは知識と慣れだからな。南雲の場合は、センスがこう……」


「剣以外がダメなのはよく分かってるよ。ところで、あのデカい菓子も取れるのか? サボった手前、差し入れの一つや二つ欲しいんだが」


「あ、あたしも欲しい! おっきいお菓子って夢があるもの、お菓子の家みたいな」


「まあ、取れるけど……外装がデカいだけだからな? 中身は普通サイズのが詰まってるだけだけど、それでもいいか?」


「軍資金はある……というより、出すからやってほしい。俺がやっても溶かすだけだ」


 半分になったとはいえ、硬貨は大量に残っている。

 時間潰しが目的のため全てが無駄になっても構わないのだが、好き好んで無駄にするつもりはなかった。


「しゃーねーなー、もう」


 無駄に積み上がった硬貨はみるみるうちに消費され、代わりに景品が積み上がっていく。

 日が傾き、暗くなり始める頃には、一人では抱えきれない量になっていた。


「大漁大漁。いやー、こんだけ取ったのは久々だわ! 奢ってもらった形になっちまったけど、本当に払わなくていいのか? こっちももらったのに」


「俺だけだと何万も無駄にした可能性が高いからな。見てるだけでも楽しかったぞ」


「そうかい、そうかい。じゃ、俺はこの辺で。ちびっ子も遅くなる前に帰れよ」


「ちびっ子言うな! でも、楽しかったわ。あなたも気を付けて」


 互いに名前を知らない二人は、小さく手を振り合う。

 すぐに人波に消えて見えなくなると、悠太も口を開いた。


「さて、俺もそろそろ――」


「――待ちなさい」


 小さな手が、制服の袖を掴んだ。


「まだ、あたしの用事は終わってないんだけど?」


「用事ってアレだろう? ゲーセンで遊びたいから学校サボって、金づるを見繕ってナンパするとかいう、趣味の悪いお遊び」


「…………別にね、あたしは構わないのよ? 気を遣って名乗ってないだけだから、知られたところで痛くも痒くもないの。でも、閣下はどうかしら? 無視できない名前を聞いて、無理やり巻き込まれたいって言うなら、喜んで名乗るんだけど」


「はぁぁぁ……こういう時は、無理やり話し出して巻き込むのが吉だ。人に聞かれたくないなら、適当な裏路地でいいな?」


 両手いっぱいに景品を抱えた二人は、裏路地へと消えていった。

帽子の少女を裏路地に誘い出したので、ナンパは成功ですね。

というところで、また来週。


執筆の励みになりますので、ブックマークや評価、感想などは随時受け付けております。よろしければぜひ是非。


P.S.これからミケラを追って影の地へ向かいます

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