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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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だーかーらー!

「だーかーらー! 報酬ならちゃんと払うって言ってんでしょ! 何が不満なのよ!!」


「その態度よクソガキ!!」


 生徒会室では口ゲンカが繰り広げられていた。

 甲高い子供の声と、底冷えする低い声が、廊下にまで漏れ出ている。


「…………お取り込み中みたいですし、明日にしません?」


「予定変更なしに決まってるだろう。天乃宮だって忙しいんだ」


 怖じ気づく成美をよそに、悠太は躊躇なくドアを開ける。

 部屋にいる二人は、同時にドアへと視線を向ける。

 一人目は、生徒会長である天乃宮香織。

 二人目は、小学校高学年ほどの少女。大きな帽子と、勝ち気なつり目が特徴的だ。


「口論は構わんがもう少し周りに気を遣え。うちの後輩が怖じ気づくだろう」


「怖じ気づくとは不思議なことを言うわね? 化け物と例外の圧を経験したんなら、呪力のない圧なんて誤差でしょうに」


「まったくもって同感だが、事実怖じ気づいたんだから仕方ないだろう」


 ふーん、と理解できない顔を浮かべる悠太と香織。

 成美たちは恐る恐る部屋を覗き込み、大きな帽子の少女はつり目をさらにつり上げる。


「ちょっと、香織。閣下と知り合いなのは分かったけど、話はまだ終わってないわよ!」


「手を貸せって話なら、受けるの確約してあげるから今日は帰ってくれない? あなたがいると話の邪魔だから」


「邪魔ってなによ! てか、確約してあげるって上から目線が気に食わないのよ!? 絶対に帰ってなんてあげないんだから!!」


 頬を膨らませて睨め付ける。

 成美は額を抑えながら、面倒くさそうにため息をつく。


「香織ちゃん、この子は知り合い……で、いいんだよね? もし、邪魔なら明日とかにするけど……」


「あんた達が帰った後に再開するから気にしなくて良いわよ。でも、先に来て多のはこっちなんだから、邪魔だって言っても絶対に帰んないから!」


「聞かれて困る話じゃないから、大丈夫だよ…………だよね?」


「天乃宮の新技術のことなら知ってるからいまさらよ」


「あんたねえ、隠す気あるのかないのか分からない態度はやめなさいよ。紹介しにくいでしょうが」


 日本魔導界に置いて、天乃宮の性を名乗る意味は重い。

 直系の血筋であっても名乗れず、魔導一種を持つ魔導師でも足りない。

 研究者であればその道の第一人者、戦士であれば化け物や例外と殺しうる本物でなければ、天乃宮を名乗ることは許されない。

 それは香織も例外ではないが、少女は対等であるように振る舞っている。


「ふん、紹介なんて必要ないわ。察しがいいヤツに隠す気はないし、気付けない愚鈍には名乗る価値なんてないもの」


 子供らしい傲慢さ。

 だが、不思議と違和感はなかった。


「コレに何言っても無駄だから居ないものとして扱いなさい。――で、何の用? コレの発言と時期で予想は付くけど」


「ほれ、後輩。固まってないでさっさと言え」


「え? ……あ、はい」


 帽子の少女をぼーっと眺めていた成美は、はっと正気を取り戻した。


「こほん、――会長さん。文化祭で魔導戦技したいので機材貸してください!」


「無理」


 ざっくりと斬り捨てられた。

 ただ、無理筋というのは理解していたので、ショックはない。


「まあまあ、まずは話を聞いてください。天乃宮家としてもメリットが」


「損益の問題じゃなくて技術的な問題だから無理」


 無理な理由は多々あれど、不可能と言われているような理由である。

 しかし、成美からすれば想定されていた答えでもある。


「技術的にってのはつまり、容量が足りないってことですよね?」


 指で机を叩くと、瞬時に結界が張られた。

 現代の魔導師にとって、魔導とはデバイスを触媒に発動するもの。なくても使用可能ではあるが、速度や精度は実用に耐えられるものではない。火界咒のようにデバイスが登場する以前の古い魔導もあるが、結界のように精度が求められるものは別だ。

 それを瞬時に、呼吸するように自然と展開した香織は、天乃宮を名乗るのに相応しい実力の持ち主だと言える。


「防音効果……だけじゃないですね。物理的な遮断効果もありますが、もしもの時の口封じ用、ですか?」


「剣聖相手をこんな雑な結界で圧殺できるわけないでしょう。ちょっと外に漏れたら面倒な機密を話すから、念を入れただけよ」


 全てを斬る剣が最も効果を発揮するものの一つが、結界破壊だ。

 どれほどの硬さを誇ろうと、解除にどれほど複雑怪奇は手順が必要だったとしても、問答無用で斬り裂くことができる。

 それを逆手に取った対策法も存在するが、発動のコストや難易度が大きく上がる。

 なにより、これを使える剣士は数えるほどしかないのだ。コストの増やしてでも対策をする価値のあるものを守る場合でなければ、この対策が取られることはない。


「魔導戦技は最新技術で作り上げたVR空間で行ってる、て名目になってるけど、実は電子系の異界なのよ。かなり広大だから未使用部分を使わせる余裕はあるけど、人の意識を異界に適応させる部分でリソースが足りないのよ」


 使用に一〇〇万単位のおカネがかかるのも、アクセスが魔導センターのみなのも、リソース確保に必須だからだ。


「納得というか、予想通りの理由ですね」


「あら、理解してたのね」


「使用可能な術式が多過ぎですからね。異界を使ってるかは半信半疑でしたが、察してる人は多いと思いますよ」


 と、成美は評しているものの。

 ライカとフレデリカの二人は予想外とばかりに驚いていた。


「ま、公然の秘密ってヤツよ。察するだけの頭があるなら黙るし」


「わたしは察するだけの頭があるので、抜け道についても当然考えています。――ズバリ、機能を限定してしまえば良いんです!!」


 察していない二人に気付かず、成美は話を続ける。


「というか、文化祭で血なまぐさい出し物なんて流行りませんし。どのみちナーフするつもりだったので、ちょうどいいです」


「ナーフねえ。使う空間を小さくして、限られた動作しか出来なくして、アクセスを一人だけにすれば、ギリギリかしら?」


「技術的に可能って事ですね!!」


「専門外だから断言できないわよ。どんな風にナーフするかにもよるし」


「そう言われると思って、用意しています!」


 予め用意していたA四用紙を見せ付ける。

 それは道やオブジェクトが書かれた地図のようであった。


「何コレ? 攻略本とかで見たような構図っぽいけど、パクった?」


「鋭いですね。横スクロールのアクションゲームがイメージ元です。マリオとか、ロックマンとか、そんな――」


「え、マリオを体験できるの? ――香織、うちも出資するからやりたい!!」


 帽子の少女が強く反応する。

 断ったら駄々をこねかねない少女の参戦に、香織は頭をかかえる。


「高校の文化祭で、出資なんて許すわけないでしょう。てか、あんたの家が出資を許すと思うの? 政治バランスが崩れるから無理よ」


「大丈夫よ、あたしの個人口座から出すから!!」


「もっとダメに決まってんでしょ! インサイダー疑われて冗談抜きで殺されるわよ!」


「なによ、天乃宮だって同じ事やってるじゃない! あたしがやって何が悪いの!?」


「天乃宮はマネーゲームじゃなくて実業だから許されてるの! 新技術だって早めに公開してるから排除されないの! 頭良いんだから言わなくても分かってるでしょうが!!」


「ずるーい! ずるいずるいずるーい!! うちより精度高いクセにずるーい!! うちだってやらせないよバカーッ!!」


「だーかーらー! あんたのとこと天乃宮とじゃ立場が違うって言ってんのよ! ってか、そこで駄々こねるからあんたはクソガキなのよ!!」


 魔導戦技部そっちのけで口ゲンカが始まった。

 手こそ出ないものの、あまりの剣幕に成美とライカはその場から逃げようとして、香織が張った結界に阻まれる。

 二人は悠太に結界の破壊を要請するが、あまりのくだらなさから一蹴するのだった。

お読みいただきありがとうございます。


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