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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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これより会議を始めます

 天魔付属高校別館――研究室。

 魔導戦技部の部室に、部員と顧問の全員が揃っていた。


「これより会議を始めます。議題は――」


 成美はホワイトボードに大きな文字を書く。


「一〇月の文化祭にて魔導戦技部が何をするか――です!!」


 天魔付属の文化祭は、クラス、部活、有志の個人または団体で参加をする。

 この中で参加が必須なのはクラスのみで、それ以外は任意である。

 しかし、部員集めなどの観点からほとんどの部活が参加する。なので成美が意気揚々と議題にあげるのも不思議ではない。

 魔導戦技部の性質を無視すればだが。


「始める前に一ついいか。魔導戦技部が参加する意義が見えないんだが?」


 部活で参加する最大の利点は知名度の上昇だ。

 部員が増えれば規模が大きくなり、良い成績を残しやすくなる。

 だが、魔導戦技部は人が集まれば良いわけではない。設備の使用料だけで年一〇〇万円はかかる、参加障壁の高い競技なのだ。


「何言ってるんすか! 文化祭に参加できるのに参加しないとか、パイセンは青春なめてるんすか!?」


「万が一にも入部希望者が出た場合を想定してるのか? いくらかかると思ってるんだ」


「ふっ、何ありえない心配してるんですか。カネがかかるって分かったら勝手に消えていきますし、払える人ならそのまま払ってもらえば良い。つまり無問題ってやつです!」


「…………考えがあるなら、まあ、いい」


 下手な考え休むに似たりと言うなら、考えなしも時には賢い選択かもしれない。

 懸念が現実になった場合は「ちゃんと考えておけば良かった」と後悔することになるが、悠太は絶対に手を貸さないことを決めた。


「私も、参加したら楽しそうだなとは思うけど……四人じゃ出来ること、少ないよね? 定番のお店系も、人手が足りないし」


「もう、ライカ先輩ったら、四人じゃなくて五人ですよ」


「ちょいちょい。先生を数に入れたらあかんでー。あくまでも監督やから」


「そうだよ、成美ちゃん。それに、四人が五人になっても変わらないし」


 クラス参加が必須な理由は人数にある。

 そして、有志の参加が少ない理由も。


「あ、場合によっちゃ三人になるから。今日は義理で参加したけど、あくまでも魔導剣術部だし。配慮はするけど譲るつもりはないわ」


「俺もクラス優先だ。部活動はあくまでも任意だが、クラス参加は強制。ないがしろにすれば内申に響く」


 乏しい成績しかない悠太にとって、内申点を減らされるのは致命傷となる。

 任意参加を成功させれば加算となるため協力はするが、端から成功の見込みがなければ不参加の方向に持って行くつもりである。


「こ、この薄情兄妹が! 少しは成功させようって気にはならないんですか!?」


「兄妹じゃなくて従兄妹だ。やるとなったら協力するするつもりではあるが、数が少ないのは事実だろう。これを解決する現実的な案が出ないなら、という話だ」


「あたしだって分かってます。今日の議題はそれについて話し合うつもりですから」


 バンバンと叩くホワイトボードには「文化祭で何をするか」と書かれている。


「ちょっと脱線しましたが話を戻して――何をします?」


「広すぎて議題にならないわね。こういうときは、何をするのが理想かを出すのがいいんじゃない? アイリはアイデア出すときは、そうやって数出してから実現できるかを考えてたわよ」


「ブレインストーミングってやつですね、やりましょう。グダグダやっても仕方ないんで、今から一時間で」


 くるり、とホワイトボードを裏返し、各々が好き勝手に発言をする。

 小さな字でそれらを書いていくが、二〇分も経つと表も裏も書ける場所がないほど真っ黒なボードが完成した。


「えー、まだ時間がありますがここまで。……てか、部活とかクラス優先するって言ってた割に遠慮なく意見出しましたね。どういうことです?」


「内申点はあればあるだけ良いから、そりゃ協力する」


「こっちが上手くいきそうなら、剣術部の方をサボる口実になるじゃない。あっちは飲食店だから面倒なのよ、色々と」


「わ、わたしはクラスに所属してないし……今まで参加もできなかったから、最後くらい参加したいなーって」


 精霊ヴォルケーノの制御に不安があったライカは、通常のクラスには所属していない。

 魔導師としての腕が上がり、暴走の危険性が少なくなったのも最近なので、文化祭のような催しには参加できなかったのだ。

 文化祭に初めて参加する自身の姿を想像すると、自然と頬を緩ませた。


「……うぅ、そうなると、否が応でも成功させないといけませんね。――とりあえず、この中から絶対に出来ないものを消すとしましょうか」


「なら、飲食店を初めとした売買だな。人手が増えれば別だが、他の弱小部と連携したりが必要になるだろうから、イヤだろう?」


「ですね。好き好んで弱小部に所属しているのなんて変わり者ですから、一緒に何かするなんて考えたくもありません」


 四人しか居ない魔導戦技部も弱小部なので、自分たちも変わり者ということになる。

 どこまで自覚があるか分からないが、変わり者の集まりなのは否定できないので誰も突っ込まなかった。


「しかし、少人数でも出来る出し物って、展示系か冊子系ですよね? ぶっちゃけ、つまらないからやりたくないです」


「面白さはどうでもいいが、研究発表関連は反対だ」


「そうなの? 文化系の部活だと定番だし、展示するだけだから四人でも回せると思うけど」


「普通の部活なら問題ないですが、魔導戦技部の研究は戦闘関連ですからね。評価するのは防衛省関係者などになりますが、彼らから評価されたいですか?」


「欲しくはない、ですね。魔導省からなら欲しいですが……絶対に荒事要員になりますよね」


「魔導戦技の性質上、対人関係になりますね。ライカ先輩はヴォルケーノがいるので、鬼面殿みたいな化け物が出る案件に回される可能性が高く」


「絶対にイヤです!!」


 夏休みの一件は、トラウマとして深く刻まれているようだ。

 ライカのみならず、成美も同じように身を震わしている。


「店舗もダメ、展示もダメとなると、残るはダーツとかスーパーボールすくいみたいなゲーム系? まあ、出来なくもないけど、魔導戦技部がやる意味ないわね。面倒くさがりなクラスとかもやりそうだし」


「なら、魔導戦技部らしいゲームにすればいいな」


 魔導戦技部らしい、と言われて皆考える。

 安全に戦闘経験を積めるよう設計された空間でのバトルロワイヤル。

 死ぬまで戦い続けるという経験、死んだ後で死んだ原因を考えられる環境、そして自身を殺した相手への再戦など、短期間で強くなることができる。彼女たちが夏休みを乗り越えられたのは、魔導戦技があったからに他ならない。

 だが、天魔付属で魔導戦技が出来るはずがない――


「パイセン、もしかして会長さんに――」


「部活設立時にやったんだ。不可能じゃないなら、交渉の余地はあるだろう」


 魔導センターでの利用が主で忘れていたが、天魔付属の校舎内で魔導戦技を経験している。

 悠太は魔導剣術部の部員達を圧倒し、ライカと成美はフレデリカに何百回と殺された。

 そんな特殊な場を用意してのが、生徒会長の天乃宮香織だ。


「……なるほど。魔導戦技も天乃宮家の技術ですし、天魔付属自体が天乃宮家の資本。文化祭を通して技術の宣伝をするという建前で弁論すれば――よし、それで行きましょう! 中身に関しては説得後に考えるということで!!」


「待て後輩。せめて建前の共有くらいはしろ」


 生徒会室に突撃しようとする成美を止める悠太であった。


お読みいただきありがとうございます。


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