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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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この後予定ある?

気づけば100話目。

2学期に突入しましたが、相変わらずノープロットです(笑)。

 夏休みが明けた九月。

 世間様の例に漏れず、天魔付属――天文魔導大学付属高校は始業式を向かえた。

 あくびを噛み殺しきれないほどの眠気に誘われる集会を乗り越え、ホームルームという名の退屈な時間が終わると、生徒達は夏休みが名残惜しいとばかりに遊びの予定を話し合う。


「南雲、この後予定ある? ないならお前のとこの部活メンバー誘ってカラオケとかゲーセンいかね? 行くなら人数集めるぞ」


「予定はないが、先輩と後輩を巻き込む気はない」


 だよな、と快活な声で笑い飛ばす。

 剣士としての性が強い上、大学受験のために勉学に励む悠太は、決して付き合いが良いわけではない。だが、クラス内での人間関係構築を放棄するほど、世捨て人でもない。


「本命の釣り出しに失敗したとして、四時までなら付き合っても良いぞ」


「それって、ナンパでも?」


「お前の挑戦を見守るだけでいいなら」


 意味ないじゃん! と悠太の背中をバシバシ叩く。

 迷惑そうに顔をしかめるが、それ以上のアクションは起こさない。


「ま、ま、ま。乗り気じゃないなら仕方ない。少し話そうぜ。夏休みなんかあった? 具体的には部活というか青春関連」


「色恋ってことなら特にないぞ。部活は合宿したくらいだな」


「えー、本当に? あんな綺麗所に囲まれて本当に何もなかったの? 合宿って言っても、ずっと部活動してるわけないだろう。イベントを起こそうCGを回収しようとは思わなかったの?」


「現実とゲームを一緒にするなよ」


 イベントのあるなしを問うのであればあったと答えるだろう。

 一般人基準はもちろんのこと、剣聖である悠太基準でも大仕事だったとしか言えないスクラップを巡る剣人会との闘争。他にも、慣れない農作業や野生動物相手の狩猟関連など、日常の細々としたイベントも数多くあった。

 ただ、色恋に繋がるかと言えば、頷くことはできない。


「ただ、真面目に活動してるからな。CGイベントがなかったとは言わないが、ちょっとシャレにならに怪我してな。実は今も完治しきってない」


 武仙三剣の一つ、破城剣による負傷を受けた状態で、無理に動いた代償は重かった。

 一ヶ月以上の時間をかけて治療に専念したが、負傷前と比べて七割ほどの回復に留まっている。


「完治してないとヤバいのか?」


「日常生活を送るだけなら問題ないが、負荷の高い運動をすると内臓が痛む。体育の授業程度でもアウト判定喰らうのだから実に恐ろしい」


「痛むって痛覚的に? それともダメージ的に?」


「両方だ。特に後者が痛い。こっちがなければ完治してたんだが、自分の未熟がイヤになる」


 普通の攻撃で、動くだけでダメージのある傷を付けることはできない。

 まして悠太は攻撃を流しているのに、尋常ならざる傷を受けている。それが出来るからこそ、鬼面は奥伝なのだ。


「未熟って何だよ。ってか、何したらそんな目に遭うんだ? あ、そう言えば剣人会の正会員とかって話があったな。もしかして、抗争にでも巻き込まれたのか?」


「当たらずとも遠からずだな」


 争いになると知りながらスクラップを庇ったので、巻き込まれたとは言えない。

 むしろ、渦中の中心で暴れ回ったと言うべきかもしれない。


「魔導師でもないのによくやるね。いや、よくやれるから、魔導科の高嶺の花に手が出せるんだろうな、うらやましい」


「先輩はともかく、フーと後輩が高嶺の花ってのには違和感あるな。……いや、違和感の前に顔知ってたか?」


「先輩以外は知ってるぞ。妹ちゃんは剣術部の有名人だし、後輩ちゃんは度々教室に来てるだろう。まあ、それ以前に魔導科って時点で高嶺の花なんだけどな」


 天魔付属に限らず、魔導科と普通科がある学校ではよくあること。

 社会人にとって魔導師は技術者や高給取りであるが、思春期の学生にとっては憧れそのもの。簡単な魔導なら誰でも使えるが、魔導科に入って魔導師を目指すには生まれついての才能が必須となる。

 才能がなければ、魔導三種すら取ることが出来ない。

 例えば、一般人の一〇分の一の呪力しか持たない悠太など、魔導師どころかまともな魔導だって使うことができないように。


「高嶺の花かは知らんが、魔導科生なんて雛鳥以下の卵でしかないぞ? 自覚してるヤツは弁えるし、自覚ないヤツはただのバカ。目立つのは大体後者だし、それ含めても中身はただの高校生。気になるならレッテル貼る前に声かければいいだろう」


「鈍感な南雲にゃ分かんねえだろうけど、下手に声かけると周りがうるさいんだよ。特に自覚のないバカは、自制心が薄いから気に食わないからって実力行使してくるし」


「ああ、バカの相手は面倒だな。――だが、俺に対して苦情の類いはないのは何でだ?」


 剣聖相手にケンカを売るのはバカ所業であるが、悠太は自身が剣聖だと公言していない。

 剣人会への伝手があれば簡単に分かるが、知らないのに調べるはずもない。また、魔導師の卵に実力が見抜けるとは思えない。呪力量や魔導科の成績でしか判断することができない者達に、剣がどれほど恐ろしいかなど分かるはずもないのだ。


「そらぁ、剣術部だよ。入学前にボコボコにして、四月にも叩きのめしたって噂があるし、何より妹ちゃんの師匠ってのは有名だぞ。全国大会に出るような腕利きをそんな目に遭わせる相手に手を出すわけないだろうが」


 天魔付属の魔導剣術部は、魔導科の中でも目立つ存在。

 武闘派集団と思われている部員達が、口を揃えて「アレはヤバい」と言う存在に手を出すバカは、幸いなことに居なかった。


「バカが噂程度で怖じ気づくとは思えないんだが……」


「剣人会の正会員って噂も関係してるな。付き合い悪くて口数少ないのも、何考えてるか分かんねえって正体不明感があって怖いんだろうさ」


 剣人会は由緒正しい組織ではあるが、民間人からすればヤクザ者と変わりない。

 会員には警察や魔導省の魔導師もいるので、無差別に暴力を振りまくとは思われないが、考え無しのバカは別。

 人間、自分がやることは相手もやると思う生き物。

 気に入らない相手に暴力的になるバカであれば、機嫌を損ねたら斬られてしまうと思っても不思議ではない。仮に、運良く悠太を排除できたとしても、メンツを潰されたと剣人会メンバーから報復されるかもしれないと考える。

 そのリスクを冒したとしても、悠太は呪力をほぼ持たない普通科生。

 魔導科生であることを誇るバカであれば、普通科生にそこまでの価値がないのだ。


「そいつらは大成しないな。リスクを取らないリターンは少ないし、噂だけで判断するならヒドい目に遭う。バカならバカに振り切ったヤツの方がマシなんだが、面倒なことこの上ないのが玉に瑕だな」


「いるのか、そんなバカ?」


「目の前に居るのがその一例だよ」


 剣士基準でも、魔導師基準でも、空を斬るという悠太の目標は妄言の類いだ。

 それを突き詰めた果てに絶刀――全てを斬る剣を修め、剣聖に至っているのだから、振り切ったと言って過言ではない。


「バカ……ああ、確かにバカだわな。ちゃんと宿題はやったのか? 埋めるだけじゃ意味ないし、努力するだけも無駄だって分かってるよな? このまんまじゃ天魔大の入学、絶望的なんだから」


「……成績は否定できないが、治療がてら勉強に集中できたら少しは成績も上がる……と、思うぞ。まだ合格基準には届かないが……」


「不安だったら予備校に行った方がいいぞ。受験はテクニックの部分が大きいから、ある程度の基礎がついたら点を取る勉強しろよ。お前の場合、面接まで行けば問題ないだろうから」


 チンピラ扱いされるバカと、剣聖にまで至ったバカ。

 同じバカなのに差が出る理由は、自身がバカであるという自覚があるかだろう。

 バカであると自覚すれば、補うために人に意見を求める。だが、自身が他者よりも優れていると誤認すれば、下に見る相手からの意見を聞くはずがないのだから。


「耳が痛いが、肝に銘じよう。年が明けたら切り替える」


「それで間に合う保証はないけど、――ま、ま、頑張れよ。応援はしてるから」


 人には、教えたがりな一面がある。

 何を言っても聞く耳を持たない人間よりも、助言を実行してから判断する人間の方が好印象を持たれる。

 悠太の人間関係が破綻しない理由の一端はそこにある。


「――パイセンはここかあああぁぁぁ――!?」


 校舎中に響き渡る怒号をまき散らしながら飛び込んでくる後輩と、決定的な決裂をせずに関係を維持しているのも、だ。

お読みいただきありがとうございます。


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