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アオハル魔導ログ  作者: 鈴木成悟
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始まりはラブレター

新作始めました。

週一更新を予定しています。

 ――始まりは、一通のラブレターからだった。



「はぁーっ!? なんで却下なんですか!?」


「書類に不備があるからよ」


「もうリテイク七回なんですけどぉ! 部活作れって本人が却下するって、どういう了見です!?」


「だから、不備だって。赤丸付いてるとこを変えろ」


 部活申請の書類を巡って、喧々諤々の攻防が繰り広げられる。

 舞台となるのは、天魔付属――天文魔導大学付属高校――の生徒会室。

 当事者となるのは、四人の生徒。


「ちょっとパイセン、分からず屋の会長さんに何か言ってやってください!」


 一人目は、魔導科一年、紀ノきのさき成美なるみ

 上級生にも物怖じしない女生徒である。


「いや、不備なんだから直せばいいだろ?」


「もう七回も直した後なんです!」


「俺たちに相談もなしに直して、だよな。とりあえず書類を見せてみろ」


 行動派であるが、考える前に動くのが玉に瑕。


「……おい、なんだこの活動目的は? 青春したいってなんだ?」


「言葉の通りですが?」


 二人目は、普通科二年、南雲なぐも悠太ゆうた

 ノリと勢いと感性で書かれた書類を見て、目頭を押さえ頭を抱える程度には常識人。


「なるみちゃん、さすがにコレじゃ通らないよ。皆で一緒に考えようね」


「そうですね、先輩。ちょっとパッションを出し過ぎですよね。もう少し見栄えと建前を重視したクッソつまらない真面目な目的に直しますね」


 三人目は、魔導科三年、牧野まきのライカ。

 感性で生きる成美のストッパーにして、悠太にラブレターを送った張本人。

 ある意味では、この喧々諤々の攻防を引き起こしたと言って良い。


「というわけで、活動目的を直したので承認してください、会長さん」


「真面目なの書けるなら最初から書けっての」


 四人目は、魔導科二年、天乃宮あまのみや香織かおり

 天魔付属の生徒会長にして、高校随一の危険人物である。


「じゃあ、これでOKですね」


「そうね。活動報告は問題ないけど――他のが直ってないから却下よ」


「はぁーっ!? ちょっとくらい見逃してくれたっていいじゃないですか!?」


「八回もリテイクに付き合ってる時点で見逃してるわ。――私は忙しいのよ」


 香織の発言は事実である。

 三人に対する負い目がなければ、二回目の時点で書類を破り捨て、五回目では殴り飛ばしている。


(何で普通科の俺が、魔導系の部活に入ることになったんだか)


 悠太は、自分がここにいる理由について考える。

 答えはすぐに出た。



 ――全ての始まりは、一通のラブレターからだった。



    ***



 机の中に、ラブレターが入っていた。


(……え、マジで)


 悠太は手にしたのは、花柄の可愛らしい封筒。

 ペンギンのシールで封がされているので、差出人は女の子だろう。

 クラスメイトに見られないよう、素早く中身を確認する。


(お話があります。放課後に研究室に来てください……研究、室?)


 悠太は、この時点でイヤな予感がしていた。

 天魔付属には魔導師を目指す生徒が多く在籍しているが、研究室を持つ人はいない。これは生徒と教師含めてのことだ。


(でも、でも……万が一、本当に……ラブレターだったら……)


 厄ネタの臭いを嗅ぎ取りながらも、思春期の性からは逃れられない。

 そわそわしながら授業を受け、上の空で昼食を取り、放課後のチャイムを聞いてすぐに教室を出た。

 ラブレターに入っていた地図を見ながら、早足で研究室へと向かう。


「ここか」


 研究室があるのは、別館だった。

 生徒会室や委員会で使う会議室などがある建物で、多くの生徒は足を踏み入れることなく卒業する。魔導科ですらない悠太は入るのを一瞬躊躇したが、ラブレターが本物かも知れないという一縷の望みを捨てきれずに、別館へと足を踏み入れる。

 別館の最上階まで登り、研究室というプレートのあるドアをノックする。


「普通科二年の南雲ですが、誰かいますか?」


「あ、はーい。いまーす」


 ドアから顔をのぞかせたのは、とがった耳の女生徒だった。


(妖精種、混血かな?)


 平均から頭一つ分低い身長。

 悠太を見上げる仕草は、どこか小動物のようだった。


「南雲、悠太さん、ですよね? 来てくださってありがとうございます。まずは、中へどうぞ」


 研究室は、研究室らしからぬ部屋だった。

 まず目に入るのは、大きな食器棚。中には陶器製のポットと、ポットお揃いの柄のティーカップ。それが数種類。さらに紅茶や緑茶、コーヒー豆の入った缶がいくつもある。

 小柄な女生徒は棚からいそいそとポットとカップ、紅茶の缶を取り出す。

 そして近くにある給湯設備を使い紅茶を入れ、悠太の前に差し出した。


「散らかっていて、すみません」


「いえいえ。散らかってはいませんよ」


 むしろ、食器以外のモノがない、と悠太は感じていた。

 座っているのはパイプ椅子で、紅茶を置いたのは会議室にあるような、折りたたみ式の机だ。幅を出すために三つ並べているが、安っぽさは否めない。

 いや、高価そうな陶磁器製のティーポットやティーカップが置かれているので、違和感が大きい。

 なんと言っていいか分からずに、悠太は紅茶を口にした。


「あ、美味しい」


「本当ですか! 頑張って淹れた甲斐がありました」


 ほっと胸をなで下ろしながら、彼女もカップを口を付ける。


「――はっ、すみません。まだ名前を言っていませんでした。私は魔導科三年の、牧野ライカといいます。あのような手紙でお呼びしてしまい、申し訳ありませんでした」


「……牧野先輩、ですね。俺は普通科二年の南雲悠太です」


 仕草や身長から年下だと思っていたため、多少のショックを受ける悠太。

 だが、すぐに気を取り直して、本題を切り出すことにした。


「それで、先輩。手紙にはお話があるとありましたが、お教えいただいても?」


「は、はい。もちろんです」


 ライカは緊張からか、二度、三度、深呼吸をする。

 それは重要な告白の前に覚悟を決める準備のようで、悠太の心臓は急激に高まり、


「南雲さん。私と――全国大会を目指しませんか!」


「お断りします」


 急激に失速した。

 その落差から反射的に断りを入れ、悠太は即座に研究室から出て行った。

 紅茶だけは一滴も残さず、きれいに飲み干して。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 栄えと建前を重視したクッソつまらない真面目な目的。 こうして世の中の書類はカラーを失い、皆、一様に無色透明無味無臭、毒にも薬にもならない書類になってしまうのですね。世の理が悲しいです。 …
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