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「う~~ん、そうだな……。何歳かは分かる?」
「十歳」と短く答える。
自分のことに関しては年齢ぐらいしか答えられない。それぐらい自分について何も分からない。
……逆にどうして年齢だけ覚えているんだろう。
アシルは私の言葉に「え」と目を丸くする。暫く固まって私をじっと見つめる。
十歳だと何かダメな理由があるのかな……。ここで労働させるには幼すぎたとか?
私は自分の腕に視線を移す。肌が見えないくらい包帯でぐるぐる巻きにされている。細くて頼りない腕。
……今からでも鍛えたら多少はマシになると思う。
「五、六歳だと思った……」
「餓死寸前の栄養失調だったので……。それに、虐待も酷くて」
先ほどのメイドがアシルの耳元でそう囁く。
その言葉にアシルは顔を顰めた。その険しい表情に私は少し体が震えた。私ではなく、私をこんな目に遭わせた者たちに対して怒っている。
「アシル、は何歳?」
なんとか会話をしようと私は彼に質問を返す。「ため口は……」とメイドが私に躊躇いながら注意しようとしたが、それをアシルは「別に構わない」と制する。
「俺は十四歳だ」と優しく教えてくれる。
この人はなんの価値もない私にどうしてここまで親切にしてくれるのだろう。
私には何も返せるものがない。強靭な体もなければ、飛びぬけた才能があるわけでもない。
……それでも努力することはできる。
「何でもします。屋敷中の掃除でも、料理でも、なんでもするのでどうかここに置いて下さい」
私はアシルに向かって、深く頭を下げる。私の必死な声が静寂に包まれた部屋に響いた。
こんなひ弱な身体じゃ、きっとどこも雇ってくれない。今の私はここしか頼る場所がないのだ。
何としても生き抜かなければならない……。
頭を上げるのが怖い。アシルはどんな表情で私を見ているのだろう。
「いくらでもいていい」という声に私は顔をゆっくりと上げた。
「なにもしなくていい。完全に回復するまで、自分の家だと思ってくつろいでくれて構わないよ」
その甘い笑顔に騙されているのかと思ってしまう。
今までこんな風に接されることがなかった。無償の愛など存在しない。
…………私は誰にも愛されないのだから。
「どうして会ったばかりの私にそこまで良くしてくれるの? ……ゴミとして捨てられた不良品なんて、アシルにはなんの利益にもならないよ」
私はそう言い終えた後に、さっきから自分がこの国の言葉を話していることに気付く。
……どうして、私は来たばかりの異国の言葉を話すことが出来るのだろう。いつ習得したのか全く分からない。
一体自分の身に何が起こっているのだろう。…………けど、そんなことを考えるよりも、今は他にやることがある。
「おい! 聞いたか? アシルのやつ少女Aを拾ったんだろ!?」
「その女の子、ガリガリにやせ細っていて死にかけていたらしい」
「ああ、聞いたよ。虐待だろ? 可哀想だよな」
微かに開いている扉から若い男性たちの会話が聞こえてきた。
少女A、私はそう呼ばれているのかと認識する。
アシルは私が彼らの会話を聞いたことを快く思わなかったのか、ドンッといきなり扉を蹴りしっかりと閉ざす。彼らの声が一瞬で遮断された。
彼は私の方を穏やかな笑みで向き直し、口を開いた。