11 屋敷探索
朝早くに起きて、こっそりと部屋を出た。
静まり返った大きな屋敷の中で侍女や執事たちが動いているのを察する。
こんな時間から皆動いているんだ……。私も早くこの屋敷の構造を知ろう。
今自分がどこにいるか分からなかったが、人に見つからないように隠れながら屋敷を探索した。
床には埃が一つも落ちていない。裸足で歩いていても足の裏が黒くなることなんてない。
……こんなにも広さがある廊下をここまで磨き上げてるって凄い。
この屋敷で私はなんの役に立つことができるだろう。
秀でた能力がない。何か身につけたいけど、何が自分に向いているのかもよく分かっていない。
自己分析なんて今までしたことないし……。
多分、神経は図太い方だと思う。それに、ネガティブな発想はあまりない。
……楽観主義者なのかな。悲観的よりかは良いと思う。
「おはよう」
どこからか若い女性の声が聞こえた。
私は咄嗟に近くにあった柱に隠れる。自分が小柄で良かったと改めて思った。
どうやら数名の侍女たちが、洗濯物がたくさん入った籠を持ちながら歩いている。私は見つからないように彼女たちの会話を盗み聞きする。
コソコソ話ではなく、普通の声量で話してくれているのでよく聞こえる。
「おはよ~」
「ねぇねぇ、少女Aって知ってる?」
「あ~~、ここでもその話? 皆朝からその話ばっかりよ」
私の話だ……。
「ゴミ袋に入れられていたんだっけ?」
「そうそう。それで捨てられてたんでしょ……。本当にそんな酷いことをする人間もいるのね」
「もし自分だったら絶対に耐えられない。人間不信になっちゃうわ」
「少女Aは精神的に大丈夫なのかしら。……ほら、だってアシル様が拾ったって言うじゃない? 私たちもいつか遭遇するかもしれないじゃない」
「狂暴じゃないといいけど……。私たちの手に負えない気がするわ。衛兵が増えたりするのかしら」
彼女たちの会話の速度が少しずつ早くなる。
やっぱりそういう噂話って盛り上がるものなんだ。ゴシップについて誰かと会話した記憶なんてない。
私、前の世界でどうやって生きてきたんだろう……。
もう昔のことは考えなくてもいっか。今いるこの世界で生きることに頭を働かせよう。
「それにしてもアシル様もどうして拾ってきたのかしら……。教会に渡せば良かったのに」
「そうよねぇ……。捨てられてたぐらいだから美少女とかでもなさそうだし……。やっぱりお優しい方なのなのね」
「完璧なのは外見だけじゃないのね」
「本当にカッコいいお方よね~~」
多くの高い声が耳に響く。その声色はとても明るいものだった。
アシルって人気者なんだ……。
あんなに美形だし、性格も非の打ち所がないから納得できる。女性たちが彼の存在を放っておくはずがない。
私はそんなことを思いながら、足を進めた。