10 覚悟
ゆっくり休んだらいい、というアシルの言葉に甘えて、私はあの後ぐっすりともう一度眠りについた。
そのせいで、夜に目が覚めた。
夜風を感じようと、ベッドから出て窓の方へと近づく。
……本当に大きな部屋。なんだか落ち着かない。
大きな窓をグッと力を込めて開ける。薄いピンク色のカーテンが揺れた。
「バルコニーだ」
私はゆっくりと裸足で部屋を出た。
足の裏にひんやりと冷たい感覚を覚える。その感覚が私に生きているのだと実感させてくれる。
今までは、痛みが私に生きていることを実感させた。だから、アシルの優しさが全部幻想なのかと思ってしまう。
これが夢なら覚めないでほしい。ずっとこのままでいい。
これからどうなってしまうのか全く予想出来ない。私はきっと、異国……じゃなくて異世界に来たのだろう。
今までと全く違う環境の中で生き抜いていけるか不安なところもあるけれど、前の世界よりかはよっぽどましだ。
スゥッと冷たい空気を吸う。新鮮な空気が体に巡る。
「大丈夫、私はここで生きていく」
自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
これは私の覚悟。十年間虐げられてきた人生を取り戻す。誰かに愛されたいなんて望まない。
ただ、自分の好きな自分でいたい。誰かに人生を壊されたくなんかない。
ここでアシルの役に立てるのなら、幸せだ。彼は私の命の恩人であり、これから私の命が燃え尽きるまで彼の味方でいよう。
もっと強くなりたい。心も体も。
アシルを守れるぐらいの強さがほしい。
ふと、空を見上げた。
こんなに綺麗な星空を見たことない。
真っ暗な空に大量の星が輝いている。闇の中で沢山の希望がまだまだあるのだと私に教えてくれているような気がした。
「明日から何すればいいんだろう」
私は夜空をぼんやりと眺めた。
ここでのんびり暮らせばいいとアシルは言ってくれるけれど、私に「のんびり」や「穏やか」は似合わない。
良い刺激のある人生を歩みたい。悠々自適じゃなくてもいい。充実したい。
バルコニーの一番端まで歩き、柵の上に立った。落ちるか落ちまいか寸前のところ。
少しでも足を滑らせて落ちたら死んでしまう。それなのに少しも怖くない。
死を直前にして、死に対しての恐怖心が薄れてしまったのかもしれない。もしかしたら、私のメンタルは今最強かもしれない。
夢なんてないけれど、いつか夢が見つかるといい。
とりあえず今は…………。
「生きよう」
私は静かな夜に確かな声でそう呟いた。