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次の日、朝起きていくと、まずはセレナさんが、
「あら?カンナちゃん。」
自分の頭を指差してニコニコしている。そのあと、髪をかきあげて、耳を出すと、小さなピアスが光っていた。
セレナさんの星ってことよね。
ビーンさんはベルトに、フランクさんは帽子のブローチに、バスタさんは執事服のブローチとして、星がついていたのだ。
すると、カイさんがやってきた。
皆が頭を下げる。
「やぁ、皆、いつもありがとう。」
「カイト様も今日も一段と素敵ですね。。」
え~!!カイト様!?バスタさんが後ろに控えているの見ると、だんだんとわかってくる。このお屋敷のご主人様って、もしかして、カイト様だったってこと??
私が目を白黒していると、
「カイト様ったら、頑張ってご主人様って呼んでいたんですよ。間違えてカイト様って、呼んでしまいそうで、大変でしたよ。」
「すまなかったね。セレナ。でも、思った通りびっくりしてる。」クスクス。
「カンナ。間に合ったね。今日、僕は王都にいくけど、帰りたいかい?」
「えっと?」
「星は髪止めになっていれば、誰かに奪われることはないだろう。さぁ、行くよ。」
まだ、よくわかっていない私を、セレナさんが簡単に荷造りして送り出してくれた。
カイト様と一緒に馬車の中に乗るわけにはいかないので、御者の隣に座る。
カイト様は帰りたいかと聞いたけど、ばぁちゃんには会いに行きたい。ただ、お屋敷でこれからも働いていたいのだ。あのとき、咄嗟に返事ができなかったけれど、私はもうお屋敷では働けないのかしら。だんだん悲しくなったきて、涙が落ちるのをこらえていた。
馬車は貴族の家があるエリアの端、少しいけば貧民街があるところに止まる。馬車から下ろされて、これで最後になってしまうのかと、地面から目線をあげられないでいると、
「何て顔をしているんだい。僕は7日後に王宮をたつから、3日後の昼頃ここで待ち合わせしよう。それと、これを着ていきなさい。」
腕のところに紋章の入った白いジャケットを手渡された。
「里帰りの時には常に身に付けているんだよ。」
「はい。ありがとうございます。」
よかった~。まだお屋敷で働かせてもらえるようだ。
「カイト様、お見送りさせてください。行ってらっしゃい。」
カイト様は白い歯を見せて、嬉しそうに笑った。
「僕が見送るつもりだったんだけど、じゃあ、いってくるよ。」
馬車が見えなくなるまで見送ると、家に向かう。私が歩いて、森を抜けたことから場所を絞ってくれていたのだろうか。そんなに遠くない場所であった。
ベイズおじさんの店の前を通ると、ベイズおじさんは「見違えたなぁ」と誉めてくれた。ショウが工房から駆け出してきて、「無事でよかった」と言ってくれたのだが、いつもと様子が違っていた。
家の前まで着くと、ノックする。鍵がかかっていたので、声をかける。
「ばあちゃん、いる?」
すごい勢いでドアがあいて空いて、ぶつかりそうになった。
「カンナ!あなたどこにいっていたの?そんなことより、夜に家から出してごめんな……。」
私の姿を見たとたん、ばあちゃんは話すのをやめてしまった。
「カンナ、その格好どうしたの?」
この街では浮いているくらい、きれいな格好をしていた。お屋敷にいたときの格好のまま、セレナさが送り出してくれたから、まぁ、そうなるよね。
ばあちゃんには今まであったことを話した。助けてくれたのが、プリナシア領主の次男であって驚いたこと。お屋敷の人たちが優しくて、とても良くしてもらっていること。
ばあちゃんは、泣いたり笑ったり忙しそうだったが、聞きおえると、優しく笑った。
私は、3日後にカイト様の馬車に乗りお屋敷に戻る。ばあちゃんが一人になってしまうのは心配だが、お給料ももらえたし、また会いに来る。私がもっともっとちゃんと働いて、お屋敷の近くに小さな家を建ててもいい。
まだまだ、がんばらなくっちゃ。