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次の日からは、セレナさんと共に同じ仕事をした。完全に手伝いにしかなっていなかったが、少しずつ仕事を覚えていった。
掃除に洗濯は、一人でもできるようになった。言葉遣いも、文字の読み方も、仕事に必要な算術も、貴族のマナーなども教えてもらいながら、少しずつ覚えていった。
ここは、王の治める領域の隣、現王様の弟君が治めるプリナシア領であることがわかった。農牧がさかんで、たくさんの工房もある。王都まで近いこともあり、たくさんのものを他の領土に輸出して、かなり潤っているらしい。このお屋敷は領土の隅にあるのだが、中心地はかなり都会なんだとか。
このお屋敷はご主人様の別邸らしい。一番びっくりしたのは、このお屋敷のご主人様は、プリナシア領の領主様、つまり、王様の弟君の次男だということだ。別邸だし、ずっとここで暮らしているわけではない。ご主人様がいらっしゃらないときにもお屋敷の中はキレイにしているし、フランクさんの作るご飯は絶品だ。食材費はおさえているらしいのだが、フランクさんの腕がいいのだろう。私は知らない食材が多く、毎日のように教えてもらっていた。
あれから、カイさんには会っていない。私のばあちゃんみたいに必要なときに働いてもらうような人なのかな。
「カンナちゃん、覚えがいいわね。言葉遣いも、きれいで良かったわ。」
「言葉遣いは、祖母から教わりました。祖母は、貴族の家に出入りしていたので。」
「カンナちゃんには、おばあさんがいるのね。もう少しでお給料をもらえるから、休みをとって、会いに行ってきたらいいわ。」
「え?お給料がもらえるんですか?ご飯もいただけて、寝る場所にも困っていないのに。」
「そうよ?ちゃんと、もらわなきゃダメよ。私たちは、私たちのことをちゃんと考えてくれるご主人様を尊敬していて、ご主人様、それとこの家のために力を合わせて頑張るの。」
たしかに皆が他の人の仕事でも手が空けば手伝い、温かい雰囲気で、仲も良く、働いていて疲れることはあったが、嫌なことはなかった。
お給料をもらったときには、見たこともないような額で驚いた。セレナさんが言うには、1ヶ月分まとめてだから、この額なんだとか。ご飯も寝る部屋もあるのにこんなにお金をもらっていいのだろうか。
個室に戻り、一人になって夜空を見上げる。仕事を覚えるのに一生懸命だったから、こうやって夜空を見上げたのは久しぶりだ。私の回りをフワフワと飛んでいる星のことも気にしていなかった。
「星さんが来て、最初はうれしかったんだけど、あまりに怖くて、星が来たらいいことあるっていうのは嘘だっておもってしまってごめんなさい。」
何となくフワフワ飛ぶ星に話しかける。
「ちゃんといいことがあったわ。」
「僕こそ、慣れなくて、危ない目に遭わせてしまってごめんね。」
小さな男の子のような声がする。回りを見ても、もちろん個室のなかには私しかいない。
「ほ、星さん!あなた話せるの?」
「カンナちゃんが話しかけてくれたからね。」
「このお屋敷に来て、びっくりしつくしたとと思っていたけど、まだびっくりすることがあったのね。」
「逃げてきた日、木に寄り掛かって寝てしまったカンナちゃんが心配で、僕のせいで逃げることになったんだし、何とかしなくちゃと思って声をあげてよかった。」
「え?どうゆうことかしら?」
「この家にいる人は、みんな真の星持ちだよ。」
「真の星持ち?」
「今のカンナちゃんみたいに、星と話せるようになった人だよ。こうやった意思疏通ができるようになれば、僕は、カンナちゃんのイヤリングとなブローチ、ペンダントとして服装の一部になるよ。どこにくっついていればいいかな?」
「どこって言われても、選べないわ…。」
「せっかくおしゃべりできるようになったんだ。違う場所になるように言ってくれればいいから、今はどこがいい?」
「髪止めとかでもいいのかしら?」
「いいね!じゃあ、そうしよう。」
星さんは、フワフワと飛んでいき、髪に止まって、髪止めとなった。