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ヒヤッとした空気に、身震いし、辺りを見渡す。落ち葉に埋もれたまま眠ってしまったようだ。土や泥、葉っぱまみれになっていた。
昨日は何とか乗りきったけれど、これからどうしよう。あんな剣を持った兵隊が向かってくるなんて。家に帰れば、ばぁちゃんまで巻き込んでしまう。ばぁちゃんを危険にさらしたくはなかった。
どこも同じように見える森のなかでも、いつも通っている場所なら見分けがつくのだが、辺りを見渡しても、見覚えのある場所はなかった。太陽のある方向が東だから、大体の方角で、家から離れるように歩いた。ばぁちゃんを巻き込まないためには、家を離れるしかないと思っていても、寂しくて、悲しくて、一歩踏み出す度に涙が溢れた。
昨日よりは穏やかな光を、放つ流れ星を見ながら考える。昨日のお願いが通じたのかな?暗闇では目立ちすぎたから、あまり光らないようにお願いした気がする。…まさかね。
家から離れるように歩いていたら、森の途切れる場所まで来ていた。広い草原が広がり、畑や水田も綺麗に作られていた。絶景の田園風景のなか、立派なお屋敷が見える。どこを見てもきれいで、王都のごみごみとした景色との違いに呆然としていた。王の治める領域を抜けて、隣の領域に来てしまったようだ。
太陽がのぼり、昼の暖かさが心地よい。のどかな田園風景にホッとして、木に寄り掛かって座っていたら、だんだん眠くなってきてしまった。状況はなにも改善していないけど……ちょっと疲れたかな。
「君!大丈夫かい?」
はっ!!しまった!眠ってしまった!!
目を開けると、若い男性?整った顔に、綺麗な服装。っていうか、高そうな服ね。
そんなことをしか考えられずに、ぼーっと見ていると、私の目の前、声をかけてきた人との間を、流れ星がフワフワ、フワフワ~。
あっ!ダメ!見つかっちゃう。また逃げないと!!
ところが、彼は表情を崩すことなく、
「優しい光だね。」
「え?」
流れ星も噂を知らないわけではないと思うのだけれど。思っていた反応と違っていた。
「ん?大丈夫かい?」
「え!えぇ。大丈夫。眠っちゃったみたい。」
害意はないのかもと、少し安心する。
「君はどこから来たんだい?」
「あの、その。王都の回りの方にあるごちゃごちゃした町から。」
なんだか、貧民街の入り込んだ道や、無理やり建てられた家々が思い出される。なんとなく、貧民街出身だとは、言えなかった。
「王都からこんなところまで歩いて?困っているなら助けになるよ。」
困っているなら…。そうよ!星を誰かにあげないとならないんだった!!
「あっ!じゃあ、私の星、もらってくれない?」
「ん?どういうことだい?」
彼は、すごく困ったような、悩んでいるような。
「この星があると、家に帰れないの。剣を持った人に狙われるから。星は誰かにあげてしまわないと。あなたは、星を見ても表情一つ変えなかったし、声をかけてくれたし、優しそうだから、あげてもいいかなって。ほんとはベイズおじさんにあげようと思ったんだけど、このまま町には戻れないから。」
とにかく説明しないとと、思っていたら余計なことまで話してしまった。
「まだ、そんな風習が…。んー。じゃあ、君は、働く気はあるかい?」
働く??働きたいと思っていたけれど、いざ聞かれると、ビックリしてしまって、不安にも思ってしまって、即答できなかった。
「え?仕事をしたいと思っていたの。私でも、働けるかな?」
「君がやる気なら大丈夫。ついておいで。」
そういえば、仕事の話になってしまって、星をもらってくれるか聞き忘れていた。
「あっ!でも星が…。」
「相当怖い思いをしたんだね。大丈夫。それで、君に危害を加える人はいないよ。」
誰でも星は欲しいものだと思っていたのだけれど、もらってくれないということだろうか。
彼について歩いてくと、森の端から見えていた綺麗なお屋敷の前だった。
「セレナ、この子を頼む。仕事を探しているんだ。」
「あらカイ…」
「シっ!」
なぜかセレナと呼ばれた女性が名前を呼ぶのを遮ったので、カイから始まる名前だとしかわからなかったが、彼もここで働いているのだろうか。
「あなた、名前は何て言うの?」
「カ、カンナです。」
「カンナちゃんね。私はセレナよ。よろしくね。」