2
夜風が気持ちいい。今日買ったばかりの米と、キノコのソテー、木の実をデザートにして、十分満足のいく食事だった。そうだったとしても、そろそろ働いて、私も家計を支えられるようになりたい。いつまでも子供扱いされているようで、自分を認めてもらえてないようで、悔しいと思うのだ。
ばあちゃんに、明日の仕事についていっていいか聞こうとして、寸前のところでやめる。
今日の帰りが少し遅くなったことで、心配されたのだ。今聞いても、逆効果だ。機嫌のいいときにしようと思う。
「いつまでも窓を開けて、外を見ていないで!」
「あぁ、はいはい。」
あまり長い間外を見ていると、文句を言われるのはいつものことだ。
「流れ星が落ちてきてくれればなぁ。」
幸運を運んでくるという流れ星。もし、私のところに星が降ってきたら、ばあちゃんは、仕事をすることを許してくれるだろうか。
「そんな子供みたいなこといってないで、早く窓を閉めなさい。」
「わかったよ。」
後ろ手に窓を閉めたとき、夜空にひときわ明るい一筋の光が走った。
今日も森のなか、一人いつもの採集ポイントを回っている。
今朝、ばあちゃんに仕事を教えてくれと頼んだのだが、そんな簡単ではないと怒られてしまった。ばあちゃんは、貴族の家を訪問して、庭の掃除をすることでお金をもらっている。最近、腰や肩を痛がることが増えた。手伝わせてくれてもいいと思うのだが…。
一人ブツブツと愚痴をこぼしながら歩いていたら、いつもは立ち入らない森の奥までやって来てしまった。
しまった。帰り道がわからなくなる前に戻ろう。
すると、目の前にフワフワと光るものが飛んできた。
「これはなに?」
光るものはそのまま私の回りを飛び続けている。
もしかして、これが地上に落ちてきた流れ星ってやつ?幸運を運んでくるっていう。私のところに来るなんて、夢のようね!!
しばらくフワフワと飛ぶ流れ星を見ていたが、夕方になっていることに気がついて、急いで家に戻った。暗くなるにつれて、流れ星の光が目立ち、人目も気になってきたので、途中から家まで走って帰った。
「ばあちゃん。ただいま。見て!!流れ星が私のところに来たの。」
振り返ったばあちゃんは、嬉しそうな顔をしていると思ったのに、青くなって慌てていた。
「カンナ!流れ星は誰かにあげておいで。貧乏人が持っているとロクなことがないよ。」
「え?せっかく幸運をはこんでくるのに??」
「貧乏人には、逆だよ。お金や権力のあるやつらが、星を奪いにくるんだ。それで殺されちまうこともあるんだから。」
早く誰かにあげておいで。と家を追い出されたが、誰にあげたらいいのかわからない。せっかくの流れ星だから、あげるのは誰でもいいとは思えなかった。
星が似合う人。いつも優しくて、色々教えてくれるベイズおじさんの顔が浮かぶ。ベイズおじさんなら、流れ星を持っていても大丈夫そうだ。ベイズおじさんには、いつも世話になっているし、星をあげてもいいと思えた。
米屋の方に向かおうと通りを曲がったとき、騒がしい集団が近づいてくる。
「いたぞ!!こっちだ!!」
明らかに私の方へ向かってきている。え??なんで??
「星持ちがいたぞ!!その星を渡してもらう!」
若い兵が、剣を抜いてこちらに向かってくる。逃げないと!!頭ではわかっていても、足がすくんで動かない。あぁ!!殺されちゃう!!
「おい!やめろ!!殺したら星が消える!!」
初老の兵が追い付き、若い兵を諌める。
その瞬間、背を向けて走り出していた。
どこか隠れられる場所!!毎日通っている森の中なら土地勘がある。
森の木々の間を走り抜けていく。足場が悪い。月明かりだけではちょっとしたでこぼこまではわからず、何度もつまづいて転びそうになった。
あまり、入ったことのない森の奥まで来てしまったが、まだ後ろからおってくる声が聞こえる。
「あの光るのが目印だ!!追え!!」
そうか、暗闇で光っているから目立つのか。とにかくどんどん森を進むしかなく、もうどこにいるのかわからない。
あっ!
つまづいて転んだら、洞になっていて、落ちてしまった。
落ち葉がたまっていたので、思ったほど痛くなかった。落ち葉に隠れていれば、光る星も少しは目立たなくなる。
お願い!そんなに光らないで!!
このまま見つからなければいいと身を丸めていた。