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第2話

 だけどやっぱり、いつかきみが離れていってしまいそうで、少し怖い気持ちもある。

 私の想いを伝えたら......。湊の心を私に向けることができるのかな? 私なんかがおこがましいと思う けど、やっぱり誰かの隣にいる湊を見たくないから──。私は思いきって、素直な願いを口にする。

「わっ、私も......湊の笑顔、独占したい......です......」

 自分でも、教室で、しかも授業中になに言ってるの?って思うけど、伝えずにはいられなかった。だけ ど、言葉にしたら途端に恥ずかしくなって、私は頭を振る。

「や、やっぱり今の嘘! ごめん、忘れ――」

「忘れる気はないからな」

 私の言葉を遮って、湊は照れくさそうにしながらも、はっきりとそう言った。

 湊の顔を見ると耳まで真っ赤で、私の頬も熱くなる。

「なにあれ、まじで離れてほしいんだけど」

「ね、川瀬のせいで湊くんが汚れる」

 ふたりで話していると、急にクラスの女子の声が耳に入ってきた。その声は湊にも届いていたらしい。

「大丈夫、あんな言葉なんか気にすんな」

 湊はそう言ってくれるけど、私の心には影が落ちる。

 ここで湊がイジメられることはないだろうけど、やっぱり怖い。私のせいで、湊が酷い目にあったら、 どうすればいいかわからないよ......。

 そんな私の様子に気づいたのか、湊は机の下で手を握ってくれた。少しドキドキするけど、湊のぬくも りはとても落ち着く。

 恐怖心が薄れてきた頃、私は急に周りの視線が気になって湊から離れた。

「あ、ありがとう。落ち着いた」

「どういたしまして。それにしても、咲ってちっこいくせに細いし、骨すぐ折れそうだな」

 湊は先程まで私と繋いでいた自分の手に視線を落とし、しみじみとそうこぼす。

「私、そんなにやわじゃないよ」

「ははっ、咲がなんて言おうが、守りたいんだよ、俺が」

「なっ......」

 サラッと、そういうキザなセリフを言えてしまうから、すごいと思う。私は、そんな湊の言葉に、いつ も心を動かされてしまうんだ......。

 私は恥ずかしさを隠すように、教科書のページをめくる。すると、開いたページには【キツネ顔】【キモ イんだよ】と書かれていて、カッターのようなもので切りつけたあとまであった。

「ぇっ......」

 昨日までは、こんなふうになってなかったはずなのに......。 いつもよりひどい嫌がらせに、恐怖で動けなくなってしまった。 誰がこんなことを......。 どんどん恐怖が増していって、教科書を持つ手が震える。

「咲? どうし......」

 異変に気づいた湊が、私の教科書を目にした途端、血相を変えた。

「これ、今すぐ先生に言いに行くぞ。みんなの前で言ったほうが、犯人を牽制できるしな。ぜってー、許さねえ」

 私の頭をなぐさめるように優しく撫でながらも、湊が本気で怒っているのが伝わってくる。湊は私の手 を引き、教科書を持って先生がいる教卓の前まで歩いていった。

「先生、川瀬さんの教科書が誰かに切られてたんですけど、どうすればいいですか?」

「えっ、誰だこんなことをしたのは。覚えがあるやつは、今すぐ出てこい!」

 一瞬面倒くさそうな顔をした先生だったが、みんながいる前で証拠を出されてしまった手前、断りにくかったんだと思う。先生が怒鳴ると、クラスメイトたちは罰が悪そうに下を向いた。その中で、不敵に笑いながら私を見ている女子生徒がいた。あの人は、私をイジメる主犯格――佳世だ。

 今回も彼女の仕業だと思うけど、それを言えば、今まで以上にイジメが酷くなるのは目に見えている。

「誰が主犯かなんて、どうでもいい。見て見ぬふりしてる奴らも、みんな同罪なんだぞ。こんなことして 情けなくないのかよ!」

 湊も佳世の仕業だと気づいているのか、私の手を強く握り、きっぱりと言い放った。でも、湊がここま で説得しても、クラスメイトからは謝罪の言葉ひとつ出ない。

 結局、犯人は名乗り出てこず、先生は諦めた様子で「またなんかあったら言ってくれ」と、 当たり障りない言葉で事を済ませてしまう。

 ひとまず席に戻れば、授業が再開した。

 私、ずっとこうやってイジメられ続けるのかな......。イジメのことといい、先生の対応といい、なんで 私だけこんな思いをしなくちゃいけないんだろう。

 私はそのあと後の授業の内容が、全く耳に入ってこなかった。


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