8、馬車に揺られて
馬車に揺られながらウンタを目指す俺だが、今は徒歩の方が良かったのかもしれないと後悔している。
いや、実際徒歩だったら間違いなくウンタにたどり着けないとは思うが、そう考えてしまうのも仕方ない状況だろう。
何が原因か。
当然、乗り物酔いだ。
舗装されていない道に、サスペンションの無いタイヤ、おまけに鉄で作られた内装とくれば揺れるのは当たり前だ。
おまけにシートベルトなんて物は無いし、荷物も置けるようにしているため、荷物に寄っ掛かりながら身体を支えるしか方法がない。
日本での車とか、電車とかしか経験がない俺にはハードな環境だった。
対面に座りそれを見ていたサーチさんは笑いを堪えるのに必死なようだった。
「サーチ、なにか、言いたい、ことがあるなら、言えば、いいだろ?」
「いやいや、特には無いが俺もそんな時があったなと思ってただけだ、というか本当に体調悪そうだな。 まあ、治癒魔法は使わないからな。」
そういって余裕そうな表情を見せるサーチに若干のイライラと羨ましさを持ちつつ、乗り物酔いで体調が限界近い俺はなけなしの集中力を使って治癒魔法を使うため、詠唱を始める。
因みに、ビレッジさんに敬語でサーチにはタメ口なのは、言葉を理解して来たときに、丁寧な言葉遣いは気持ち悪いと言われたからだ。
一応、聞く分には問題ないが、返す時に片言になってしまう。
当然、サーチと話してるのはアナザー大陸の共通言語アナザー語だ。
サーチとは1番初めに会ったのもあって、ムラーノでも良く話すようになった。
俺のアナザー語習得が早かったのは間違いなく、サーチとビレッジさんのおかげなので、口には出さないけど感謝してる。
一回口に出したら大爆笑されたからサーチは二度と褒めないと決めたからでもあるが。
「乗り物酔いによる酔いを治せ、キュア。」
淡い光と若干の虚脱感は出るが、先程よりも体調はマシになった。
魔法はビレッジさんに教えて貰い、簡単な魔法であればいくらか使えるようになった。
アナザーでの魔法というのは、起こしたい現象を明確にイメージして魔力を込めて、イメージした魔法名を言うだけというシンプルな物だ。
もちろん、日本から来た俺に魔力なんか感じられる力は無かったが、ビレッジさんとの訓練と小説の知識のおかげで会得は出来た。
ただ、さっきいくらか使えるといったように、使える回数は限度があるし、魔力は判りやすく言えば精神力なので、魔力が0になれば気絶してしまう。
実際、俺も気付いていなかっただけで魔力自体は持っていたらしい。
もちろん、小説の主人公達のように無詠唱や、莫大な魔力があるわけではないので、今のところはほんとに基礎の基礎しかできない。
まあ、一先ず魔法の苦手は無かったので、高度な物で無ければイメージ出来れば使えるのは嬉しい限りだった。
因みに高度な魔法って言うのは、工程が多い魔法の事だ。
例えば、核爆発を発生させようとするなら、有害物質の種類の選定、火の要素、爆風の為の風、範囲、周囲への影響力等、サッと上げただけでもこのくらい、実際にはこの数倍の細かい項目をイメージ、設定し唱えなければいけない。
因みに工程が増えるほど、必要な魔力は増えていくらしいが、数値化はされていないらしいのであくまで感覚らしいが、俺がこの核爆発を発生させるなら、あと俺が百万人集まって魔力を合わせないと使えないらしい。
因みにそんだけ魔力があるなら、工程が少ない物に魔力を多く込める方が威力は上がる。
要は工程増やすのは見映え重視のロマン砲、工程減らしたのは努力の結晶と言った感じだ。
前者は結果がイメージ出来れば魔力を無駄に使えば威力を出せる。
後者は、こめる魔力を増やす訓練とイメージ+どのくらい威力が上がるのかも明確にイメージ出来ないといけないので、一朝一夕では出来ない。
ただ、威力調節も魔力次第なのでどれだけ重要なのかは言うまでもない。
まあ、全部ビレッジさんからの教えではあるが。
魔力を増やす方法は、使って身体に残せる魔力を増やす、睡眠や特殊なドリンクで回復を早めて多い状況を保つ、精神的な負荷をかけ続ける等様々あるが、上がり幅は才能に左右されるそうだ。
一応上限は無いらしいが、精神的にきつい物程上がり幅は多いらしい。
それに加え、アナザーの人達はこれを幼少期から教えられ実践している為、俺が最上位にたどり着けるとしたら、世界に1人レベルの才能が無いと不可能だ。
もちろん、そんな才能は無いので努力はするが無理はしないようにする。
因みにさっきの体調悪い状態も維持すれば魔力は伸びる幅はそれなりに大きいだろうが、絶対にやらない。
「まだまだ魔力は弱いが、ムラーノにいる間に習得出来るなんて才能あるな。」
「茶化すな、サーチ達、なら、こんなもん、それこそ武器、の使い方が、わかる頃、には出来るだろ。」
そう、サーチはこんなことを言っているが、このくらいは一般人レベルですらない。
そこら辺の子供と比べて良い勝負か負ける位だ。
全く、身体能力でもハンデあるのに魔力もハンデあるとかハードモードだと嘆きたくなる。
「そりゃそうだけど、トシオは身体は大人だけど、強さは子供みたいなもんだ、子供としてみるなら成長は早い方だろ。」
「こんなデカイ、子供が、人族のどこに、いるんだよ。 それに子供なら、俺の、年齢に、来るまでに、もっと力、つけるだろ。」
「まあ実際そこが問題なんだよな、ビレッジさんに言われた通り魔物を倒しつつ、訓練と身体を鍛えていくしかないな。 幸い、成長期が完全に止まる年齢じゃないからまだ良いだろ。」
そう、俺の今の身体能力、魔力は身体の大きい子供なイメージだ。
実際はそれよりも少しは戦えるが、同い年と戦えば冒険者はおろか、町中を歩く人に喧嘩を売ってフルボッコにされるレベルだ。
ただ、身体能力は筋トレで強くなれるし、魔物から力も取り入れられるので、暫くすれば町中に歩く人には負けなくなるし、冒険者でも戦闘を主にしないタイプであれば戦えるようにはなるだろうと言われた。
まあ、それには時間が間違いなく掛かるので、一先ずは死に物狂いで差を埋める事に全力を注ぐ日々を続けるしかないだろう。
「サーチ、あとどのくらいで、着く?」
「まあ、あと1時間ってとこだな、ビレッジさんにも言われてるから、向こう着いて1月はパーティー組んで冒険者としてのイロハを教えるから、その間に何とかパーティー組めるように頑張れよ。」
「そっか、改めてよろしく、頼む。」
「おう、任せとけ。」
そんなこんなで残り1時間は、冒険者としての前知識を簡単に教わりつつ、魔力の運用などのコツを聞きながら進んでいき、ようやく俺達はウンタに到着した。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
あらすじとタイトルにも書いてありますが、利男はあくまでも一般人なので、超人や英雄として無双は出来ません。
かといって何も出来ないのもつまらないと思うのでやれる事は増やしていきます。
ただ、内政チートとか使い方無双とかもしないです。
これからも評価、ブックマークしてくれると励みになりますので、今後ともよろしくお願い致しますm(__)m