交流
それから、話し合った通りに、箔炎の弟の箔真と鷹の軍神達100名、炎嘉の甥である炎耀と鳥の軍神達100名が、コンドルの城へと入った。
維心も龍をやろうかと聞いたが、それをするとドラゴンが文句を言いやすくなるだろうとの事で、同族の者達だけ行かせることになったのだが、結構な人数で押し掛けたにも関わらず、コンドルの城は大きなもので、全員が問題なく収まる事が出来た。
臣下達も、突然の同族の来訪に戸惑っているだろうに、大変に好意的に迎えてくれた。どうやら、こちらの鷹、つまりはコンドルは、穏やかで優しい性質のようだった。
そのせいか、土地も月の宮までは行かないが、落ち着いた居心地の良い気が溢れていた。
周辺の城からも、島のコンドルの同族が来たと気軽に挨拶に来て、歓待してくれた。
どうも、この回りの城の王達は、ドラゴンよりもコンドルについているように見える。箔真と炎耀が気さくに話すそれらに聞いてみると、ドラゴンはうるさいので言うことを聞いておいた方が良い、とコンドルの前の王からも言われていて、黙って従っているだけなのだと言う。つまりは、コンドルがそう言うならそうしようという考えであって、この辺りの結構な数の城は、真実コンドルについているのだとそれで知った。
…何か事が起こったら、ならば回りは全てコンドルにつくな。
炎耀も、箔真もそう思ってみていた。
そんなわけでかなりの優位な状態なのにも関わらず、レオニートはドラゴンと事を構えようとは思っていないようだった。
全ては戦に皆を巻き込みたくないという気持ちのようだった。
ドラゴンが若い王になったこちらへ攻め入って来ないのも、恐らくはこの、回りの宮の状況を知っているからだろうと思われた。
数からいえば、今のドラゴンはどうあってもコンドルに敵わないのだ。
大会合の時の話を聞いただけでも、イゴールやアルファンスとも仲良くやっているようで、それらもレオニートを庇うような動きをしているのを見ても、ドラゴンにはつかないだろう。
今の世の中では、ドラゴンはこちらの覇権など、とうに失ってしまっているのが事実なのだと分かった。
そして、もしかしたらヴェネジクトはその覇権を取り戻そうと考えて、わざとコンドルを虐げて怒らせ、さっさと排除しようとしていたのかも知れない。島と交流してうまくやれば、コンドルがいきなり攻めてきたと応援でも求めるつもりでいたかもしれない。
もしそうだとしても、レオニートが自ら切り開いた島との繋がりが今はあり、二度とそれが叶わなくなったことを、今は知っていることだろう。
レオニートは、確かに素直で聞き分けが良い神だった。
炎耀と箔真が両脇について付きっきりで政務をしている毎日にも、鬱陶しがる様子もなく、疑問に思う事は何でも聞いて、そして納得して正して行った。
勤勉な性質なので、城の書庫に何時間も一所に詰めて、宮の歴史なども学んだ。
炎耀も箔真も、それでコンドルの歴史を知る事になったのだが、コンドルは本来、獰猛な種族だったようだ。
それが、ある日何もかもがポカッと嫌になったのか、数代前の王が戦うのはやめる、と言い出し、ピタリと争わなくなった。
その後、ドラゴンのヴァルラムが台頭し、戦いを挑んで来た時も、話し合いで解決したらしい。
特に文句もなくドラゴンの統治を認める事にしたようだ。
その時、お互いに干渉はしない、と取り決めた。
助けて欲しいならその時の状況を見て助けるが、基本お互い無関心であろう、としたのだ。
ドラゴンも、コンドルと事を構えるのはともすると一族を滅ぼされかねないので、それを飲んだようだった。
それからこれまで、コンドルはドラゴンとはあまり接する事もなく、先の戦までは無干渉を貫いていたのだ。
レオニートは、言った。
「…父上だって、本当は高見の見物をするつもりだったと臣下に聞いた。だが、回りの城はことごとく質を取られて、出撃するよりなかった。あれらが我らだけでは死にに行くようなものだと必死に訴えたので、仕方なく出て行かれて、実際何人もの王を救い、最後に筆頭軍神を救って亡くなった。回りの王達も筆頭軍神も、亡骸だけはと泣きながら必死に戻って来た。あの時の事は忘れとうても忘れられぬ。」
炎耀は、同情したようにレオニートを見た。いくら力が強くても、たった一人でそう何人もの命を庇って戦うには無理があっただろう。今も回りの宮がコンドルに絶対的に付き従う構えなのは、間違いなくその、父王の働きがあったからだ。
レオニートは、その父王に倣って生きようとしていて、どんなに虐げられても我慢していたのだ。戦だけはしてはいけない、と自分に言い聞かせて。
そう思うと、この同族をなぜにもっと早く助けてやらなかったのかと心が痛んだ。知っていたら、維心はコンドルを避けて気を放っただろう。知らないからこそ、あんな戦い方をしたのだ。
「…やはり主の父王は、我らに話すべきだった。そうしたら、主らは敵ではないと攻撃対象から外したであろう。島へ攻め入って参ったら、我らだって本気で排除しようと戦うではないか。そんな事情を知るわけもないのだからの。」
レオニートは、頷いた。
「分かっておる。今の我にはそれが分かる。だが、あの時の父上のお考えは今はもう分からぬではないか。主らが我らを助けてくれる保証もないしの。今は分かっておるが、あの時は交流もなかったし…いきなり何だと言われるやもしれぬではないか。なので父上は、己でやるしかないと思われたのやもしれぬ。」
レオニートの顔つきは、段々に変わって来ていた。
まだ幼い王であったのに、最近では王らしく、その考えも深くなって来ている。ヴェネジクトが何を考えているのかは分からないが、今なら対等に話す事も出来そうだ。あちらも、まだそれほど歳が上でもなかったからだ。
「…主は立派な王ぞ。」箔真が言った。「ここ数ヶ月のことだが、見違えるように変わって来ておる。案ずるでない、大丈夫よ。」
レオニートは頷いたが、箔真を見た。
「姉上のことであるが、そちらに嫁ぎ先はあろうか。あれから何度も問うておるが、なかなか良い返事がない。姉上はあのように出来た皇女なのに。何が悪いか?」
箔真は、困ったように炎耀を見た。炎耀は、その箔真と視線を交わしてから、レオニートを見た。
「主の姉君のこと、あちらに問うておるから。しばし待て、誰が娶るのが一番良いのか皆考えておるのよ。」
レオニートは、下を向いた。姉のことが何よりの懸念のようで、それを何とかしたいと日々思っているのだ。
アンゲリーナは、確かにとても美しく若く、明るくて穏やかで、包み込むような優しさを持つ、癒し系の女神だった。
金髪に赤い瞳はレオニートと同じで、見た目は華やかなのだが放つ気がゆるゆると優しいので、安心する感じだ。
恐らくは誰に嫁いでも大切にされるだろうが、あちらは婚姻に対して構えるので、まだ誰からも良いという返事が来ない。
こうなったら箔真や炎耀が娶ると良いのかもしれないが、二人ともあいにく宮に二人、妃が居る。
三人目となるとアンゲリーナがあれほどに出来る皇女なので、レオニートに悪い気がするのだ。
やはり王が良いのだろうが、筆頭位置に居る箔炎は面倒がっているし、炎嘉はまず無理、維心はもっと無理で、女神にとって誰が一番幸せになれるのかと問われれば、やはり蒼だった。
蒼は、間違いなく娶れば大切に扱う。レオニートが、蒼にと言ったのは、間違いではなかったのだ。
「…少し、我から王にご進言してみるわ。」炎耀が、息をついて言った。「我が親であっても、一番娶ってもらいたい宮にの。あそこなら間違いなく幸福になれる。それは確かなのだが、娶ると言わせるのに手間が掛かるのだ。しばし待て。」
レオニートは、顔を上げて身を乗り出した。
「誠か。それはどこぞ。」
炎耀は、顔をしかめて困ったように言った。
「蒼よ。」と、立ち上がった。「主の目に狂いはない。あやつは娶れば必ず大切にする。だが、なかなか娶らぬ。今一度王に頼んでもらうわ。それで無理なら諦めよ。我や箔真でもあれなら娶ってもよいのだ。だがの、我らにはもう二人妃が居るし、王ではないからの。主としては、やはり王のもとが良いのだろう?」
レオニートは、言葉に詰まった。別に箔真や炎耀ならば、信頼関係も築いているし、良いのだ。だが、やはり出来たら蒼に娶ってもらいたい。
「その…蒼殿が良いなら。主らなら我だって信頼しておるし、良いのだ。だが、姉上がどう思うかと思うと…。」
皇子の三人目の妃にと嫁がせる事を決めた、とは言いづらいだろう。
炎耀は、苦笑して頷いた。
「では、しばしここを離れる。その間、箔真、頼んだぞ。」
箔真が頷き、炎耀は鳥の宮の炎嘉に話をするために、コンドルの城を飛び立ったのだった。




