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コンドル2

炎嘉は、言った。

「では、主の立場よ。主は、あちらが荒れるやもしれぬから、姉の婚姻を急いでるように言うておったらしいの。あちらは、それほどに切迫しておるのか。」

レオニートは、それを聞いて顔を強張らせた。しかし、答えた。

「…我らは世の覇権などには興味はない。平和に暮らせたらそれで、という心地は父王の時から変わっておらぬ。あの戦の折も、こちらは力があるので質は取られなんだが、近くの宮からは質を取られて父上に泣きついて参って…父上は、回りの宮の王達を守るために、出撃された。そうして、負傷しておった筆頭軍神のヴィタリーを庇って命を落とされたのだ。ヴィタリーが父上の亡骸を抱いて、泣きながら戻って参ってそれを知った。我は、宮に居れと強く言われておったし、まだ幼かったので戦には出ておらぬで、父上をお守りすることができなんだ。」

レオニートは、暗く落ち込んだ顔をした。レオニートの父のコンドルは、臣下を思いやり、近隣の宮の王達のことも放って置けない人情家の王だったらしい。だからこそ、その子であるレオニートがまだ子供であったにも関わらず、王として育ててまで王に据えた。普通、臣下の誰かが王座についてしまうこともあるのだ。レオニートが王座に座れたのは、父親の威光であるのは間違いないようだった。

「…父の名は何と?」

レオニートは、暗い顔のまま、答えた。

「レヴォーヴナ。」レオニートは答えてから、続けた。「父上は近隣の宮の王達にも敬われておって、我が王座に就いてからも、他の王達はようしてくれた。我はまだ子供であったし、何も知らぬで困っておったが、回りの城の王達が入れ代わり立ち代わり参って、とりあえずは城を回せるようにと教えてくれたのだ。我が今ここにあるのは、父上のお蔭よ。」

レオニートは、分かっているのだ。

とはいえ、ドラゴンにはどういう感情を持っているのか。

維心が、言った。

「主の父王が優れた王であったのは分かった。だが、主は戦に無理に駆り出したドラゴンにはどう思うておるのだ。ヴィランが追放されたとはいえ、ドラゴンからそれについての謝罪はあったのか。」

レオニートは、首を振った。

「何も。あちらも混乱しておるようであったし、王も何度も入れ替わった。今のヴェネジクトになってから、一度話したがあれは我がまだ子供だと対等には見てくれなんだ。こんな子供の我がなぜに王座に就かねばならなかったのだと、その折つい、言うてしもうたが、ヴェネジクトは真顔で申した…ドラゴンの愚かな一軍神に踊らされたからであろう、とな。それから、もうあれとは口を利いておらぬ。この前の大会合の折も、イゴールやアルファンスは、我にも中央の席へ参るべきではと申したが、ヴェネジクトがまだ早かろうと申してそれを許さなかった。当日も、サイラス殿が来なかったゆえ、席が空くからとイゴールは我を誘ったのだが…やはりヴェネジクトが拒否した。あのよう場で波風を立てたくなかったので、我は何も言わずに段の席の方へと参ったのだ。」

まだ子供と申したと。

炎嘉は、じっとレオニートを見た。確かに子供なのだが、しかし気は大きい。ドラゴンのそれと比べても、もしかしたら大きいかもしれないのだ。これでまだ成人していないのだから、育ったらそれなりになるのは分かっていたはずだ。

つまりは、これが育ったら脅威になることは、ヴェネジクトにも分かっていたという事になる。

こちらの神との交流を、させたくなかったのはそれで分かった。

…それでも、コンドルは何も悪くはないのに。

そこに居た、皆がそう思った。父王のレヴォーヴナは、ドラゴンとは対立しないように生きていた。対立したとしても、もしかしたら勝ったかもしれない。鷹の血というのは、それだけ強いものなのだ。

それを、今の王のヴェネジクトは警戒して遠ざけているというのか。

「…主は、ドラゴンとは戦おうと思うておらぬか。」

維心が言うと、レオナートは首を振った。

「戦をしとうない。民が巻き込まれるのは我慢がならぬ。それに、近隣の王達もぞ。あれらも、我らが軍を挙げれば助けようとしてくれよう。皆を巻き込みたくないのだ。ドラゴンが穏やかに治めておるならそれで良い。だが、我らを虐げようと思うておるのならそれには文句ぐらいは言わせてもらおうと思うておるのだ。それで攻めて来るようなことがあったらと、それが案じられておって…姉上には、不安定な土地に居るよりは、こちらへ嫁いで安らかに暮らして欲しいと思うて。会合の折蒼殿を見たが、おっとりと穏やかな王であったし、月の宮なら、穏やかに暮らせようと。」

そう思うのも無理はない。

レオニートは、たった一人の姉の幸福を願い、それで必死になっていたのだ。大会合の時のヴェネジクトの反応を見て、もしかしたら戦になるかもしれない、と本能的に悟ったのだろう。それで、姉だけでも逃がそうと考えた。

炎嘉と維心、箔炎は顔を見合わせた。これは、レオニートを放って置くわけにはいかぬ。

「…主は我がいろいろ教えようぞ。」炎嘉が、言った。「本来ならこちらへ来て政務を見せるという形が良いのだが、主はもう王座に就いておるし、そうはならぬな。そのような状況であったら、あまり城を空けるのは感心せぬ。こちらから誰か参る方が良いようよ。そうよな…炎月と炎耀をやるか。」

とはいえ、あの二人は我の代行で二人共行くと困るのだが。

炎嘉がそう思っていると、箔炎が言った。

「いや、うちの箔真をやる。」炎嘉が眉を上げると、箔炎は続けた。「同族であるしな。回りがそんな風であるし、軍神を100と、箔真をやろう。あれなら政務は完璧ぞ。同族が同族と交流しておっても、誰も文句は言えまい。ヴェネジクトが何をどう考えておるのかもわからぬしの。」

炎嘉は、それでも言った。

「良い、では我も炎耀と軍神100をこちらからやる。箔真と炎耀が揃っておれば、何かあっても対応しよう。我だって同族ぞ。鳥の面倒は我が見る。」

炎嘉は、鳥の王としての遺伝子を脈々と受け継いだ王なので、鳥が困っているのは放って置けないのだ。それが、独立した鷹の王であっても。

レオニートは、戸惑うような顔をして、炎嘉と箔炎を見た。

「我は有難いが…今申したように、ドラゴンがあのようなのに、主らを来させるわけには行かぬ。住んでおる我らは仕方がないにしても、主らまで危ない事になるのではないのか。」

炎嘉は、何も知らないレオニートに言った。

「レオニート、我らが参る事で、あちらは簡単に手を出せぬようになるのだ。仮に我らが居るのにそちらへ攻めて参ったりしたら、ドラゴンは我と箔炎も敵に回すことになる。ということは、我と維心は友であるから、維心だとて無視は出来まい。ヴェネジクトは愚かではないゆえ、主に簡単に手を出せぬようになるのだ。分かるか?我らが手を貸すからには、我らを利用することを考えよ。我らはそれを期待して主に手を貸すと申しておるのだ。」

レオニートは、まだ戸惑っていた。

「だが…もしそれでも参ったら。主らを巻き込みとうないのだ。我は、そんなためにこちらへ来て姉の嫁ぎ先を探しておるわけではない。」

箔炎と炎嘉は、顔を見合わせた。誠に、痛々しいほど純粋培養の王だ。

志心が、困ったように息をついて言った。

「レオニート、利用せよと同族が言うておるのだから、利用したら良いのだ。困った時には助け合いなのだ。主が誰にも迷惑を掛けたくないと思うておるのは分かるが、それでも一族は守り切れぬのだぞ?どうせ元は同じ種族で分化しておるだけであるのだから、気にするでない。王はの、もし相手が否と言うておっても、同族のためには友でも利用せねばならぬ時があるのだ。そのようでは、全てを守り切れぬ。父王も、もし戦の前に箔炎にでも知らせて助けを求めておったら死なずに済んだやもしれぬのだぞ。主はそうであってはならぬ。」

レオニートは、それを聞いて目からうろこが落ちたように目を瞬かせた。そうして、不安そうにしていたのを、はっきりとした顔になって、炎嘉と箔炎を見つめた。

「…では、我に手を貸してくれるだろうか。我は、主らから学ばねばならぬ。迷惑は掛けたくはないが、我について来てくれる臣下達のためにも、一族は守らねばならぬから。」

炎嘉も箔炎も、頷いた。

「我らに任せよ。神は、きれいごとばかりでは治められぬのだ。主に教えて参る。皇子をやるが、時々には我らも参るし、主もこちらへ参れば良い。我らが主を守ろうぞ。案じるでない。」

レオニートは、二人を見て、頷いた。その目には何かの覚悟があったが、それが王として皆を守るための覚悟なのか、見知らぬ同族を信じて行く覚悟なのかは、誰にも分からなかった。

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