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コンドル

炎嘉は、話し始めた。

「本日志心が蒼と会って、帰りに鳥の宮に寄ったのだ。何でも蒼に縁談を持ってきておるレオニートと申すコンドルの王に会ったのだとか。百年前の戦で父王を亡くして、60から王座に就いておる王で、まだ成人もしておらぬ。姉を蒼にと来ておったらしくて、結界外で話したのだそうだ。」

維心は、記憶を探った。

そういえば、自分があちらの神、全てと面会しようと大陸へ行った時に、鷹とそっくりな気を持つコンドルという種族が居た。

やはりそこそこの力を持ち、ドラゴンと近いのもあってこの二つが地上を見ているのかと、そう思った事があった。

しかし実際はヴァルラムが一人で地上を平定していて、ドラゴン一強の世の中だったのだ。

ドラゴンとコンドルは、特に仲が良いわけでも悪いわけでもなく、ただ隣り合い、それほど交流している様子はなかった。

どうも、コンドルというのは世の中の覇権がどうのと興味はないようだった。

恐らくは、ヴィランの戦の時も、前向きではなかっただろう。

それでも、回りが皆出て行くのに右にならえで出て行ったのではないだろうか。

「…詳しい話が聞きたいの。コンドルは我があちらへ初めて会いに行った時も、特に世の中がどうの、覇権がどうのと興味は無さそうな種族だった。あれだけの力を持てば、ドラゴンともある程度戦えたであろうにそれをしていない。百年前の戦の時も、前に出て戦っている様子はなかった。」

炎嘉は、頷く。

「それでもその戦で父王が死んでいる。巻き添えを食らったわけであるし、あれからヴィランがやった事とはいえ、ドラゴンは謝罪したのだろうか。詳しい事を聞きたいし、それに志心はあれが何も知らぬでいるので、王として育ててやれと言うて来た。かなり素直で聞き分けは良かったと言うておる。なので一度、こちらへ呼んで話を聞こうと思うのよ。箔炎も呼ぶつもりだが、主、来るか?」

維心は、考えた。確かに聞いておかない事には、それでなくともあちらのドラゴン一強はあの戦で崩れている。今力のある神と交流しておくのは、こちらとしても利益のあることだった。

「…参る。」維心は、答えた。「聞きたい事があるゆえな。ヴェネジクトは確かによう出来た王であるが、今は状況が違う。これまではコンドルが神世に無関心であったからあれで済んでおったが、もし力を誇示しようとし始めたら面倒が起こるやもしれぬだろう。こちらに影響が無いとも限らぬ。詳しく知っておかねばの。」

炎嘉は、頷いた。

「よし、ならばそれで。また明日にでもこちらへ知らせをやるわ。恐らく渡りをつけたゆえ志心も来るであろうし、そこで話を聞こう。せっかちな性質(たち)らしゅうて早く会いたいようだし、数日中に場を設けるぞ。主もそのつもりでな。」

維心は、頷いた。

「最近、政務が詰められる事がわかったゆえ、時などいくらでも作れるわ。それより早う場を設えよ。」

炎嘉は、むっつりと立ち上がった。

「相変わらず臣下のように言いおって。分かった分かった、急ぐ事にするわ。」

そうして、炎嘉は出て行った。

維心は、面倒が起こらねば良いが、と思いながら、それを見送った。


そうしたら、炎嘉から驚きの速さで連絡があった。

次の日の朝、志心に書状を送ると、その日の昼前にはいつでも良いと言っている、と連絡が来て、それなら明日でもか?と冗談で返したら、その日の午後には、ではそれで、と大真面目に返事が来たのだ。

驚いたのは炎嘉で、忙しい維心が今日言って明日来られるのかと、急いで聞いて来たのだ。

維心は、せっかちというのは本当らしい、とそれを見て思ったが、どうあってもコンドルの話は聞かねばならぬ。

そんなわけで、午後から臣下達を会合の間に籠めて、日が落ちるまで政務を詰めさせた。

その結果時は空いたのだが、臣下は例に漏れずフラフラだった。

箔炎も同じようだった、と次の日顔を合わせて聞く事になった。

ちなみに炎嘉は炎月に丸投げしていて、また己の宮の事もあり、何かあれば聞きに来るだろうと、おっとりしたものだった。

鳥の宮で顔を合わせた炎嘉、箔炎、維心の三人は、一様にため息をついたのだった。

「もう来るか?せっかちらしいのに夜明けには来て待ち受けておるかと思うたわ。」

維心が言うと、炎嘉が答えた。

「志心の宮には夜明け前に来たらしいぞ。とりあえず宮に入れて皆が揃うのを待てと言い、話をしていると連絡が来た。先ほど皆揃ったと連絡したゆえ、もう来るはずよ。」

箔炎が、着物の裾を直しながら言った。

「同族とはいえかなりせっかちなやつよ。こっちは朝から大騒ぎで、鷹の仲間が現れたとか臣下も色めき立っておるわ。別に知っておったことだし、向こうが何も言わぬから放置しておっただけなのに。父王は誠、何も話しておらなんだようであるな。」

炎嘉が、同情気味に答えた。

「まだ60であったならなあ。我など遊び回っておった歳であるわ。あれもいきなりに王座とか言われて面食らったのではないのか。臣下の苦労が目に浮かぶようよな。」

維心は、頷く。

「回りが満足に育て切れておらぬのだ。とはいえ鷹となればの…主がその、姉とやらを迎える事になるのでは?鷹は鷹しか生まぬだろう。龍と同じよ。」

箔炎は、顔をしかめた。

「それを申すな。我は面倒は引き受けとうないのだ。それより本日は、あちらの事をよう聞いておかねばなるまい。その上で炎嘉が育てるか我が育てるか決めるのだろう。我は荷が重いがの。」

炎嘉は、諦めたように言った。

「まあ世話ぐらいなら我がやる。だが妃は迎えぬぞ?そっちは主に頼むやもしれぬから、覚悟はしておくが良い。」

箔炎は、苦い顔をしながらも黙った。

育てるのが面倒で炎嘉に押し付けたいが、そうなると妃を娶らねばならぬのかと葛藤しているらしい。

そこへ、嘉張が来て膝をついた。

「王。結界外に志心様とレオニート様がご到着になりました。」

炎嘉は、上を見上げた。結界を確認しているようだ。

「…入れた。迎えに参れ。」

嘉張は、頭を下げた。

「は!」

そうして、レオニートと志心は炎嘉の宮に到着したのだった。


志心に連れられてやって来たレオニートは、まだ本当に若かった。

あちらの正装の軍服に身を包み、マントをつけていたが、体格は良いものの重さが足りない。

金髪に赤い瞳で、どちらかと言うと炎嘉の方に感じは似ていた。

箔炎は、瞳が金色だからだ。

礼儀だけはしっかり躾けられているようで、サッと頭を下げると、言った。

「本日は我のためにお集まり頂き、感謝し申す。我は北の大陸のコンドルの王、レオニートと申す。」

声も、まだ若干高めだ。だが、その声は箔炎に似ていた。

炎嘉が、頷いた。

「我はこの宮の鳥族の王、炎嘉。こちらから龍王維心、鷹王箔炎ぞ。主と同族はこの箔炎になるの。」

箔炎が、会釈する。レオニートは、遠慮なくまじまじとは箔炎を見て、頷いた。

「…聞いておった通り、我らと同じ気がする。父上からあちらにも仲間は居る、と聞いてはおったのだが、詳しくは話してもらえぬままで。」

炎嘉は、頷いて用意していた椅子へと促した。

「座るが良い。それも含めて、いろいろ話を聞きたいのだ。主らの事は、詳しく知らぬでな。それだけの気を持ちながら、大会合の折には主は段々の席の方へ座っておったのだろう。あちらはどうなっておるのだ。」

言われて、レオニートは志心と並んで座る。

「何でも、答えられることなら答えようと思う。問うで頂ければ。」

炎嘉は頷いて、レオニートに向き合った。

維心も箔炎も、黙ってそれを見つめた。

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