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思惑は

志心が嘉翔に伴われて外へと出て行くと、そこには金髪に赤い瞳の、鳥族によく似た風情の若い男が、軍神二人を連れて浮いていた。

相手は、志心を見るとあからさまに顔をしかめた。

「…主は月の王ではないな。白虎なのでは?」

志心は、頷く。

「如何にも。我はこの島の白虎の王、志心よ。主は?」

相手は、一応礼儀には通じているようで、居住まいを正して答えた。

「我は、北の大陸コンドルの王、レオニート。ここの蒼殿は宮を閉じておって誰も入れぬと聞いておるが?」

志心は、また頷いた。

「我は蒼の古い友であるからの。上位の王は軒並み時々に会いに参るのだ。ところで、主はコンドルということは、鳥か?鷹の仲間なのでは。」

レオニートは、顔をしかめる。

「こちらではどう呼んでおるのか分からぬが、確かに鳥ではあるの。あちらはこちらのように鳥の宮というものは無く、全て種類別に分かれておるのだ。太古に一緒にやろうと思うたらしい種族同士は共に宮を持っておるので、この限りではないが、我が種族はコンドルだけぞ。それより、蒼殿は?本日も会わぬと申すか。」

志心は、答えた。

「蒼は人見知りでな。知らぬ顔の神とは余程でないと会わぬのよ。書状でも取り交わして、距離を近づけてからにしてはどうか?急に訪ねて来ては、あれは心を閉ざしてしまおうぞ。それとも、主が鷹の仲間と申すなら、こちらの鷹の王の箔炎か、それとも鳥の王の炎嘉と懇意になれば、蒼に渡りをつけてくれよう。もう少し焦らずゆっくり歩み寄らぬか。あれが警戒してしまうではないか。」

レオニートは、それを聞いて少し、神妙な顔をした。

「誠か。我は…こちらの神のことは何も知らぬで。その、箔炎とか炎嘉とか申す神は、どうしたら会えるのだ。」

すぐに会いたいタイプらしい。

志心は、またため息をついた。

「レオニートとやら、主の、急ぎすぎなのだ。少し落ち着け。まずは、書状よ。それから、会う約束を取り付けて面識を持ち、そして頼み事。順序があるのだ。」と、値踏みするようにレオニートを見た。「…主、ところで幾つであるのだ。若いの。」

レオニートは、ブスっとした顔をした。

「我は160よ。」

まだ成人しておらぬのか!

驚いて志心は言った。

「どういうことよ、主に代替わりした父王は何を考えておった。」

レオニートは、志心を軽く睨んだ。

「父上は我が60の時に戦で亡くなった。ゆえ、それから我が王座に就いておる。政務の事など、誰も教えてはくれぬで。早う姉の嫁ぎ先を見つけてやらねばと慌てておって、出来たら良い場所をとこちらに。」

姉?

「…蒼は娘と申しておったが?」

レオニートは、顔をしかめた。

「誰が娘ぞ。書状をしっかり読んでおらぬのではないのか。我にはまだ妃も居らぬわ。」

であろうな。

志心は思った。嫁がせるような娘が居る歳ではないからだ。ちなみに160とは人で言うと16歳ぐらい、高校生ぐらいで王座に就いているという事になる。いや、100年前は60だったので6歳だ。

志心は、息をついた。

「しようがないの。では、我が口添えしてやるゆえ、まずは同族と交流せよ。主が姉を良い所へ嫁がせたいと思うのは良いことであるが、先ほども申したように順序というものがあるのだ。」

レオニートは、肩で息をついた。

「…姉上は、もう二百を超えておるし、そう悠長にもしておられぬのよ。あまりあちらの地に置いておきたくないしの…ドラゴンがまた、覇権を取り戻そうとしておるとか聞くし。」

志心は、そんな込み入ったことをこの立ち話で言うか、と思ったが、レオニートは素直なのだ。そして、王座に就いたのが60の時なので、父王から何も教わらないままで来てしまったのだろう。

思えば不憫だと、志心は同情した。

なので、言った。

「それでも、100年もかかるまい。大丈夫ぞ、とりあえずは炎嘉に問い合わせてやるゆえ、城で待て。我が連絡を入れるゆえ。蒼にうるさく言うでないぞ?あれは神経質であるから、もっと意固地になるであろうから。分かったの?」

レオニートは、素直に頷いた。

「分かった。では、志心殿。よろしく頼む。」

そうして、軽く会釈をすると、くるりと踵を返して北へと飛んで行った。

志心は、あれが子供であるのを知っているから、ヴェネジクトは蒼にしつこかったら圧力を掛ける、と言ったのだろう。別に問題ないと思っているからだ。

…それにしても、ドラゴンが覇権を取り戻そうとしておるとは穏やかではないな。

志心は思いながら、宮の中で待つ蒼に元へと降りて行ったのだった。


蒼が待つ応接間へと戻って来ると、蒼は志心を恨めし気に見て、言った。

「…あの、娘じゃなかったんですね。」

志心は、息をついて頷きながら蒼の前へと座った。

「蒼よ、一応どんな王なのか調べてから返さぬか。あれに嫁がせるような娘が居ると思うか。」

蒼は、下を向いた。

「はい…皇女とか言うから、てっきり娘だと思って。嘉韻に追い返させたから、姿も見ていなかったし。あんなに若いなんて、今日知りました。」

志心は、頷きながらまた長いため息をついた。

「あれは幼すぎる時に王座に就いてしもうたから、父王からほとんど何も教わらないままだったのよ。何でも直球過ぎるし、だからヴェネジクトも相手にしておらぬ。極北の神達より力があるのにメインテーブルについておらなんだのは、恐らくあの若さゆえだろう。だが、見ておったなら分かったであろうが、大変に素直ぞ。あれならば、炎嘉や箔炎という同族が教育すれば、良いように変わって行くはず。我が帰りに炎嘉の宮へ寄ってあれの事を話して来るわ。そうしたら、炎嘉が良いようにするだろう。あやつは世話好きであるし、同族ならば放って置けぬだろう。」

蒼は、すまなさそうに志心を見た。

「すみませんが、よろしくお願いします。ほとほと困っていたので助かります。」

志心は、苦笑して立ち上がった。

「我が来ておった時で良かったの。では、我は帰る。誓心を出発口へ誘導させよ、蒼。」

蒼は、傍に控えている嘉翔を見て頷いた。嘉翔は、さっと頭を下げて出て行く。

志心は、扉へと向かいながら言った。

「主も苦労よな、蒼。好きで王であるわけではないのに。此度は我が何とかするゆえ、安心するが良い。」

蒼は、いつでも上位の王達に、こうして助けてもらってしまうなあ、と思っていた。だからこそ、頭が上がらない。

志心は穏やかに微笑んで恐縮する蒼を見ると、出発口へと足を進めたのだった。


維心が維月と共に湯殿から帰って来ると、炎嘉が居間で座っていて、二人に向かって手を上げた。

「よっ。もう風呂か、早いな。」

二人は、目を丸くした。そして、維心が慌てて湯上りで薄い着物だけの維月を奥の間の扉の中へと押し込んだ。

「こら!先触れはどうした先触れは!いきなり来おってからに!」

炎嘉は、あーあと伸びをした。

「だったらなぜに我を結界に通すのよ。そうしたら立ち往生したであろうに、主が通すからここまで入って来て待つことになるんだろうが。」

維心は、悔し気に言った。

「主の気を感じたら条件反射で勝手に通してしまうのだ!千年以上前からそうなのだからしようがなかろうが!」

炎嘉は、手を振って座るように促した。

「いいから座れ。まだ日が落ちておらぬのにもう寝る準備などしておる主らが悪いのだろうが。」

維心は、イライラと正面の定位置に座りながら、言った。

「せっかく政務が早う終わったゆえ、本日は寝る準備を整えてからゆっくり話そうと申しておったのに。主が来たから台無しであるわ。」

炎嘉は笑った。

「そういうことか。まあ良い、話があるのだ。」と、真顔になった。「北の神のことぞ。」

維心は、炎嘉がわざわざ午後のこんな時間になってから来たのに、何かあったのだとこちらも気を落ち着けて真顔になった。

「何ぞ。何かあったか。」

炎嘉は、頷いた。

「コンドルよ。」と、炎嘉は答えた。「鷹の種族の王が来ておった。」

維心は、また何か面倒か、と眉を寄せて炎嘉の話の続きを待った。


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