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方法

炎嘉が出て行ってすぐ、十六夜が言った。

《蒼には行くなと伝えたぞ。あっちにも彰炎が知らせて来たのと同じ内容の書状が、宇洲から届いた所だったんでぇ。蒼は急いで行こうとしてたんだが、炎嘉が行くからお前はそこに居ろと言った。あいつは心配してたが、お前が行く方がめんどくさい事になるって言ったらおとなしくなった。》

維心は、頷く。こんな時は月は便利だ。リアルタイムで話が伝わるので、手遅れという事が無い。

碧黎が、言った。

「急がねばならぬな。我としては、こうなって来ると子が生まれてそれなりに育つまで、待つ余裕もないような気がして来た。腹で子を育てて一年、生まれて三年ぐらいは育てて、こちらの言うことが理解出来て来たら月に上げるなり地にするなりとおこなうつもりなのだが、思うていた以上にあちこちいざこざが起ころう。維心が収めるにも限界があるし、我もこれ以上は地上を乱しとうない。人世にも波及するゆえ、あちこち小競り合いが起こっておる。陽蘭が逝って数百年、積もり積もったものが今、一気に出て来ておるやもしれぬな。」

維心は、もはやいろいろと諦めたような顔をして、言った。

「…合計四年か。それぐらいなら我が世を睨んで何とかしてやるわ。早うどうするのか主らで決めぬか。我が何を言うても、結局は碧黎が決めることなのだろうが。もうしようがないゆえ我はそれに従うわ。」

碧黎は、驚いたように眉を上げる。維月は、言った。

「お父様、維心様はこのように仰っておりますが、私は維心様にこれ以上のご負担は掛けとうございませぬ。私はお父様をご信頼しておりますから、時が無いことを思うても、私がこのまま、地と月の両方を担う方が、良いかと思いますの。」

それには、十六夜が反論した。

《維心が良いって言ってんだから、さっさと親父と今夜ぐらいに作ったら四年って言ってももっと早く生まれるかもしれねぇじゃねぇか!お前、人格が無くなるかもしれねぇんだぞ?!そんな危険に晒されるのに、なんでリスクのある方法を取ろうとするんでぇ!》

維心も、脇から維月の肩を抱いて言った。

「そうだぞ維月、我は己の感情だけで、主を危険に晒そうとは思わぬから。十六夜も言うたように碧黎ならすぐ作ろうし、そう我慢もせずで良いかと思う。この際、我の事は案ずるでない。」

維月は、首を振った。

「私はお父様と命を繋いでおるので、地の意識がどんなものなのか、ある程度は知っておって慣れておるのですわ。それに、お父様は私がそれで混乱しないようにと多くの記憶を封印して小出しにしてくれておりまする。ここ数百年で、かなり慣らされておるかと思うのです。きっと、皆が案じるような事にはなりませぬわ。」

碧黎も、それには頷く。

「確かにこの数百年は、維月に負担がないようにと少しずつ地の記憶というものを馴染ませて参ったな。維月が言うように、良かったのやもしれぬ。大きなリスク無く受け入れられるやもしれぬ。」

維月は、微笑んで頷いた。

「はい。それに急がねば、宇州様の宮の獅子達が気に掛かります。命の気がない状態では、あまり長くはもちませんでしょう。時が無いのですわ。」

碧黎は少し、考えたが、空を見上げた。

「主はどう思う。これから維月が両方を担うのは良いか。」

十六夜の声は、維心と同じように諦めたような色になった。

《それしかねぇなら仕方がねぇ。維月がそうしたいってんだろ。親父が重々気を付けてくれるなら、それでいい。》

碧黎は答えた。

「当然、我とて維月を失いとうないゆえ、力の限りサポートするわ。とはいえ、未知の事よ。」と、維月を見つめた。「覚悟はあるか。」

維月は、ごくりと唾を飲み込み、思いきったように頷いた。

「はい。お任せ致します、お父様。」

碧黎は、緊張した顔をした。

「ならば、そのように。」と、維心を見た。「しばらくは維月は地に戻るぞ。そこで馴染んでから、また人型になって出て参る。その後に、月に戻れるかどうか切り替えの練習ぞ。」

維心は、心配そうに言った。

「しばらくとはどれくらいぞ。」

碧黎は、眉を寄せたまま維月に手を差し出した。

「分からぬ。維月次第よ。数日やもしれぬし、一年やもしれぬ。だが、長引くようなら経過は知らせる。案ずるな。こうと決まったからには、我は命懸けで維月を守ろうぞ。我に任せよ。」

維心様と同じ事を言う。

維月は、やはりこの二人は似ている、と思った。

そうして碧黎の手を取ると、見る間に光の玉へと変化した。

「では、参る。」

碧黎も大きな眩しい光の玉へと変化すると、維月の玉を抱くようにして包み込み、スッとその場から消えて行った。

「…地へ潜ったか。」

維心が、もう心配でならなくなって十六夜に言うと、十六夜は答えた。

《…今、月との繋がりが切れた。》十六夜も心配そうに言った。《地の中に二人の意識を感じるぞ。オレにもどうなってるのか分からねぇ。親父を信じて、待つしかねぇ。》

維月は碧黎を信じている。

維心は、思った。ならば自分も信じなければ。維月は無事に、人型を取って戻って来られるのだと。


蒼は、宇州からの陳謝の書状を炎嘉から受け取っていた。

炎嘉から、なぜそんなことになったのか事の次第を聞いたが、聞くともっと落ち着かなくなった。

「そんな…碧黎様がお一人だったからこんなことに?獅子達は助かるのですか?」

炎嘉は、息をついた。

「先ほど十六夜に声を掛けてみたが、碧黎は今、それどころではないようよ。維月が地と月の陰、両方を担う事を決断し、今は地に潜っておるらしい。宇州の土地の気を戻してやれと一応、十六夜が言ったらしいが、聞こえているかも疑問だと言うておった。ゆえに碧黎は、今全神経を維月に向けて、何とか維月を地に馴染ませようとしておるようよ。」

蒼は、落ち着かない様子で体を揺らした。

「でも、それなら獅子がほったらかしに。あの土地が死んでしまうのでは。」

炎嘉は、困った事になった、と顔を険しくした。

「我が急いだ事が無駄になった。碧黎も今少し待ってくれたら良かったものを。我が話しておる間にも、赤子や老人が犠牲になり始めておったのに。」と、空を見上げた。「十六夜、あちらは今、どうなっておる?」

十六夜は、すんなりと答えた。

《とりあえず彰炎が自分の土地にあいつらを移動させてるよ。このままじゃ死に絶えてしまうと慌ててらあ。みんな息も絶え絶えで何とか彰炎の領地に入って無事だ。最初に犠牲になってた奴らは助からなかったがな。》

蒼は、心を痛めた。ちょっと血気盛んになって、強権的に動いただけで、こんなことに。

「…他は?確か十六夜、あっちの後宮が大変な事になってるとかなんとか言ってただろ。悠子殿が妃達に袋叩きに合ってたって。」

炎嘉が、驚いた顔をした。

「なんと申した?妃が正妃を袋叩きに?」

蒼は、頷く。

「はい。十六夜が見てて話してくれたんですけど、妃達があり得ないほど怒っていて。皆で結託して悠子殿を襲い、最後は池に沈めたとか。軍神が見付けて慌てて助け上げたらしいです。妃達は王しか手を触れられないから、宇州が何とかしてくれぬことにはどうにも出来ないと、別宮に籠めておると聞いています。宇州は、それも移動させたのでしょうか。」

炎嘉は、息をついた。急に妃達がそんなことをしたのも、恐らく碧黎の気の影響だろう。殺される事を考えると、女では強く出る心の強さはない。普通では考えられない事だからだ。

「…やはりあちこち綻びが出始めておったのだな。碧黎がどうにも出来ないようになって来たと言うておったが、正にそうよ。これまでの常識が通用せぬのだ。彰炎のように妃の優劣を付けずに毎日コツコツ順番に通う王ならいざ知らず、あやつは悠子以外をほったらかしであったのだろう。それはそうなろうな。」と、ぽんと肘おきを叩いた。「では、我は今一度あちらへ戻るわ。彰炎に経過を知らせておかねばならぬ。碧黎の事も、ついでに説明しておくわ。宇州には、しばらく反省しろと申す。蒼、主はもう駿の件は口出しするでない。こちらで何とかするわ。維心も我も放って置いたが、このままではならぬ。維月が落ち着けば、地の気も落ち着こうし、それまでの事よ。」

蒼は、頷いた。

十六夜が言った。

《だったらついでに彰炎に、別宮の妃のことを知らせてやってくれ。まだ生きるが、ほったらかしだ。意識が無い者も多い。このままじゃ死ぬ。》

炎嘉は、ため息をついた。

「わかった。」

そうして、炎嘉は月の宮を飛び立ち、再び北西へと向かった。

地は微かに振動し、何かが変わろうとしていた。

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