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対策

「え…それは、つまりは陰の地を早急に産まねばならぬという事ですか?」

維月が驚いて言うと、碧黎は頷いた。

「その通りよ。」

維心が、割り込んだ。

「なぜに主と維月が子を成す話になるのだ!十六夜と維月の子を陰の地にするという方法もあろうが!」

それには、碧黎は真面目な顔で首を振った。

「十六夜ともそれは話し合ったのだ。だが、十六夜と我の命は違う。あれは同族であって我の子。我とは違う。維心と維明が同族であって違うのと同じぞ。維心の子と維明の子では変わって参ろう。維心は特別な命で、いくらその子の維明でも生む子は維心とは遠くなる。我も同じ。我は特別な命で、十六夜の子では地にはなれぬのだ。十六夜自身と、維月ならば我の子であるから地になれるがの。十六夜と維月の子は、月にはなれても地にはなれぬのだ。ゆえ、今言うたように、十六夜と維月の子に陰の月を任せるか、我と維月の子に陰の地を任せるかの二択になるのよ。」

すると、月から声が割り込んだ。

《結局、維織に陰の月を任せて維月を地にするか、親父と維月の間の子を地にするかって二択だろ。維織は鷲の宮で燐に嫁いでるが不死だ。月になっても維月が維心に嫁いでるようにあいつも燐の嫁のままでいいってことだ。》

「ただ、今度は維織が陰の月を扱えるかどうか疑問であるがな。」碧黎は答える。「主らが新たに子を産めば、幼い頃から月に昇るゆえ、前の維月のように息をするように簡単に扱えるようになろう。」

《維織が陰の地になれたら一番いいのによ。》十六夜の声が、苦々し気に言った。《陰の月みたいに面倒がなくて、ただ存在してるだけでいいんだろ?おふくろは暇そうだったもんな。親父ばっか忙しくてよ。》

碧黎は、苦笑して月を見上げた。

「それは維月も同じであろう。存在しておれば別に力を使わずでも良い。ただ、陰の地は月のように面倒な力はない。誠穏やかに地の気を抑えて流す役割だけで、生きておったらそれで事足りる。」

維心が、勝手に決められた困ると思ったのか、口を出した。

「ならば維月を陰の地にしたら良いではないか。静かに暮らしていけるし、新しい命が問題なく陰の月を扱えるなら厄介なことも起こらずで済む!」

当の維月は、困ったように言い合う皆を見ている。十六夜の声が、言った。

《お前は親父と維月がそういう仲になるのが嫌なんだろうが、オレは迷ってるんでぇ。維月を月から下すか、親父と子供を作るのを許すかどっちかなんだぞ。オレはどっちかってぇともう、親父と子供作ってくれた方がいいんだけどよ。》

維月は、特に驚いた風でもなく、ただ困ったように空を見上げる。

維心は、そういえば、と思っていた。十六夜は最近、特に維月と一緒に寝ていたからと、体の関係などもたないことも多いと維月が言っていた。もともと月の眷属達はそういった体の繋がりにあまり重きを置いていないのだ。だから、維月が月でなくなるぐらいなら、子供ぐらい作ってくれという事なのだろう。

だが、維心は納得しなかった。

「なぜにそうなるのよ!維月と碧黎にそういう仲になるのを許せと申すか!」

碧黎は、維心をじっと睨むように見た。

「主の許しなど必要ない。我はこうした方が良いと思うたらそうする。そもそも我だって、別にどっちでも良いと申したではないか。体の繋がりなど我らにはそう、意味がないのだ。主が騒いでおるだけぞ。子だけ出来たら、別にそれからせずでも良いしな。」

それを黙って聞いていた、炎嘉が気遣わし気に維心を見る。この中で、本当に維心の気持ちを理解できるとしたら、炎嘉だけだろう。

その炎嘉が、言った。

「我は炎月を産んでもろうておってこんなことを言う権利はないのだろうが、維心にこれ以上心の負担を掛けずにおって欲しいのだがの。主らの意識と維心の意識は違うのだ。それでなくともこれまで、いろいろ軋轢があったのではないのか。そろそろ平穏にしてやれぬか。」

維心は、炎嘉を見た。炎嘉が居て良かった、恐らく炎嘉だけしか今、我の気持ちを理解出来る者は居ない。

そう思っていると、維月が言った。

「…私はお父様のことが嫌ではありませぬが、維心様はこれまでも、いろいろなことを我慢してくださいました。地上の乱れのことが関わっておりますので、それどころではないかも知れませぬが、出来ましたら、私が月を降りる事なく、地の命を何とかできる方法はございませんでしょうか。」

碧黎は、眉を寄せた。

「我はもう、主以外とは子を成す事はせぬと決めておる。なので必要であれば主の子しか要らぬ。」と、息をついた。「…が、一度約した事でもあるし、我も強くは言いたくないのだ。維月が今申した方法も、無いことはない。」

維心は、驚いた顔をして、身を乗り出した。

だが、先に口を挟んだのは、十六夜だった。

《何だ、何があるんだ?オレにはそれしか方法はねぇって言ったじゃねぇか。》

碧黎は、空を見上げた。

「上手く行くかも分からぬし、維月の負担が重うなるからいわなんだだけぞ。」と、維月を見た。「主が、月と地を行き来するのだ。もともと地上に居ることが多い主であるから、いけるのではないかとな。月とも地とも、繋がりを作るのだ。」

維月は口を袖で押さえた。私があっちもこっちもってこと?!

「そのような」維心が言った。「維月に何か問題が起こるのではないのか。」

碧黎は、首を振った。

「分からぬ。言うてみたら切り替えのスイッチのようなものを維月の中に作り、それを押す事で月と地を入れ換えて繋がりを入れ換える。これのメリットは維月が陰の月に飲まれそうになったら切り替えて地に変われることぞ。そうしたら月の影響は遮断され、飲まれることはない。そしてどちらも使えるので地上を見張る事も維月には出来るようになる。デメリットは、維月が上手くそれを使いこなせるかどうかぞ。地の陰は面倒が無いが大きいのには変わりない。精神的な負担も月と地で二倍ぞ。上手く扱えるのか、我には分からぬし、悪くすると維月の人格が無くなるやもしれぬ。出来る限り我が助けるが、やったことがないゆえ、どうなるか分からぬのだ。」

維心は、息を飲んだ。十六夜が、わめいた。

《維心の変なこだわりのせいで維月の人格が無くなったらどうするんでぇ!ちょっと我慢したらいいんだろうが!親父ならそう何回もしなくてもさっさと子供ぐらい作るっての!一年ぐらい我慢しろ、オレは月から降ろしちまったら未来永劫なんだぞ!》

維心は、唇を噛んだ。分かっているが、感情がついて行かないのだ。

そこへ、嘉張が駆け込んできた。

「王!」

炎嘉は、それどころではないと気のない返事をした。

「何ぞ、後にせぬか。」

しかし、嘉張は首を振った。

「王、彰炎様から急ぎの書状が参りまして、宮からこちらへ転送されて参りました!」

炎嘉は、振り返った。急ぎ?彰炎がか。

「これへ。」

嘉張は、手に持っていた書状を炎嘉に手渡す。

炎嘉は中を確認し、グッと眉を寄せた。

「…ちょっと行って参るわ。」

と、立ち上がった。

維心は、炎嘉を見た。

「何かあったか。」

炎嘉は、頷く。

「宇州の奴が駿を討つとか言うて兵を準備させ始めたらしい。蒼も来ぬしこちらが本気で謝るつもりはなく、馬鹿にしておると烈火の如く怒っておるそうな。大方蒼が取り成すためにあちらへ参る事を期待して言うておるのだろうが、あれに行かせるわけには行かぬ。我が行って話して来る。」

碧黎は、険しい顔で言った。

「あれはもともとそう強い気質でもないのに、我の気の影響で気が大きくなっておるのだ。抑え気味にしておったのだが、仕方がない。しばらくあの領地の気を絶つ。」

維月が驚いた顔をした。

「ですがそんなことをしたら、関係のない神が気を補充出来ずで困るのでは。」

赤子など居たら一溜りもない。

碧黎は、暗い顔で答えた。

「仕方がない。戦になれば駿だけでなくもっとたくさんの命が犠牲になるのだ。戦は起こしてはならぬ。」

維月は、焦って維心を見た。維心は、どう答えていいのか分からない。

炎嘉が、足を扉へ向けた。

「とにかく我は行く。蒼には絶対に行くなと伝えよ。碧黎が気を絶つならそれを使わせてもらう。あれをおとなしくさせるわ。その間に、主らはそっちの事を何とかすることを考えよ。こんなことがしょっちゅうあっては堪らぬからな。」

炎嘉は、そう言い置くと、嘉張を連れて足早にそこを出て行った。

いよいよまずいことになって来た、と、残された維心も維月も、気が気でなかった。

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