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婚姻

高瑞は、維心と維月に、自分のこれまでの事を、包み隠さず話した。

そんな事まで話さなくて良いのに、と維月は思っていたが、本人の口から聞くそれは、本当に残酷な事で、守り切れなかった高晶には本当に腹が立った。

それでも、高瑞はしっかりと維心の目を見据え、淡々と全てを話し終えた。

維心は、知っていたので驚きも無かったが、言った。

「…誠高晶の宮の運営には疑問を感じずには居れぬわ。大切な皇子の側に置く侍女の人選を、しっかり出来ぬとは何事ぞ。そもそも、我が宮であったら長く我や維月の侍女であった者しか、皇子皇女の傍にはつけぬ。後は、乳母の子であるとかであるな。乳母も、高位の臣下の娘などしか選ばぬしな。とはいえ、もう居らぬ者のこと。主とてそれは過去の事であるし、わざわざ我に報告せずとも良かったのに。」

高瑞は、首を振った。

「話しておかねばなりませぬ。」と、姿勢を正して、維心に頭を下げた。「我には、妃は居りませぬ。まだ王座に就いたばかりの半人前ではありますが、そんな事情もあり、母は処刑されましたが我には既に、100になる皇子の、高湊が居りまする。これまで、女神と言う存在は、長く面倒で信じられぬ者として、長く遠ざけておった事でありましたが、思いもかけず、そちらにおわす弓維殿と知り合うことが出来、妹に頼んで文を送っておりました。どうか、弓維殿を、我の正妃に戴きたく、お願いに参りましてございます。」

ああああ私も維心様にこんな風に言われたかったなあ~。

維月は、まるでドラマのようだと己の事のように嬉しくて、胸が高鳴った。チラと弓維を見ると、赤い顔をしながらも、こちらを窺ってそれは固い表情をしている。

維心は、少し黙ったが、頷いた。

「…良い。」弓維も、高瑞もびっくりしたように維心を見た。維心は続けた。「主なら歳も釣り合うしの。若いのによう出来るヤツだと、他の王とも話しておった。何より、これが龍しか生まぬのに正妃にすると申すし。確かに、高湊という皇子が居るのなら、特に急いで他の妃をなどならぬだろう。ならば、良いではないか。とりあえず、その皇子は今、高晶の子ということになっておるのだろう?そのまま公表し、跡目にすればよいわ。ま、高湊が思うような神でなかったら、そこはまた主らが考えることぞ。」

高瑞は、あっさりと維心が許したので、目を丸くしていたが、ハッと我に返ったような顔をしたかと思うと、深々と頭を下げた。

「は!必ずや弓維殿を幸福にお世話させていただきまする!」と、顔を上げた。「結納の日取りなどは、また追って臣下に連絡をさせまする。」

維心は、また頷いた。

「ならばそのように。」と、弓維を見た。「主も、そのつもりでの。」

弓維は、呆気に取られていたが、維心に言われて、何度も頷いてから、頭を下げた。

「はい、お父様!」

と、高瑞を見て、それは嬉しそうに微笑んだ。高瑞も思わず微笑み返し、そして維心と維月が居た、とまた我に返って、立ち上がった。

「では、御前失礼致しまする。」

維心は、会釈を返した。

「よろしく頼むぞ。」

そうして、高瑞もまだ信じられないのか、ふわふわとした足取りで、そこを出て行った。恐らくは、何度も打診してやっと許されるのだろうと予測して、今日はまず断られると思っていたのだろう。

弓維もしばし茫然としていたが、維月が話し始めて、ハッと維月の方を見た。

「良かったこと。高瑞様ならば安心してお任せできますわ。弓維は目が高いこと。」

維心も、隣りで頷いた。

「誠にの。あれは若いのに先を見通して宮を守ることが出来る、良い王よ。頼りになるのではないかの。まあ、子が出来たらこちらへ預ける事になるだろうが、維月が喜んで育てよるわ。案ずるでない。」

維月は、微笑んで頷いた。

「はい。待ち遠しいこと。」

孫育ても楽しいだろうなあ。

維月は、そんなことを思ってワクワクしていると、弓維は恐縮したように頭を下げた。

「はい…ありがとうございます、お父様、お母様。」

こんなにあっさりと…文のことも、叱られると思っていたのに。

弓維は、まだ笑い合って嬉しそうに立ち上がり、出発口へと足を進める両親の背を追いながら、肩透かしを食らったような気持になりながら、しかし、高瑞に本当に嫁ぐことが出来るのだと、段々に心が沸き立って来るのを感じていた。


獅子の宮では、騮が父の帰りを待ちながら、ここ丸一日のことを思って首を傾げていた。

最初、あまりに機嫌良く父と瑤子を送り出すので、これはもしやあちらで何かするつもりでは、と警戒した。

現に、椿は騮と騅の二人が奥宮に詰めて、全く外に出ないので、見回りにでも行きなさいよ、と不機嫌に言って追い出そうとしたからだ。

これは現場を抑えた方がいいか、と、軍神に命じて見張らせてから、騅と二人で見回りに出た。

だが、すぐに戻った宮では、母が慌てて琴を抱えてそれを片付けているところだった。

「母上…?(きん)には触れた事もないと申しておられませんでしたか?」

騮が問うと、椿は拗ねたように横を向いて、こう言った。

「そのようなもの。瑤子様が筝と胡弓をされるのに、我が何もとは行かぬでしょう?あちらも遠慮して弾けぬと思うし。最近にお母様にお教え頂いて、ならば十七弦をと練習しておるの。でも、王には内緒よ?上手く弾けるようになったなら、ご合奏などして聞かせて驚かせて差し上げようと思うて。あなた達にも聞かれたくなかったのに、すぐに戻って参るのだもの、全く。」

機嫌が良かったのは、二人が出掛けたら練習できるからだったのか。

騮は、もしかして誤解していたのか、と少し思った。だが、口では何とでも言える。

なので、引き続き警戒して見ていた。

だが、もうバレたしいいかと思ったのか、椿はひたすらに十七弦の練習をしていて、こちらには見向きもしない。

とうとう夜中になったが、今頃はあちらも楽の音が美しいのかしら、とか侍女達と楽し気に話していて、何の構えも無いようだった。

この、あっけらかんとした雰囲気は母の通常のもの。

騮は、本当にこの母が、あの数々の嫌がらせを指示しているのだろうか、と、段々に分からなくなった。


そんな折、次の日の朝になって、父から瑤子が襲撃された、という知らせが入った。

母は、まだ休んでいて、その事実を知らない。

腹の子も、庭へと落ちた時に強く腰を打ったのが原因で、亡くしてしまったのだということだった。

瑤子自身は大事はなかったようだったが、かなり衝撃を受けていて、しばらく月の宮に預けようと思っているとのこと。

確かのあの宮は、常に浄化の気が降っていて、療養にはもってこいの場所だ。

騮は、やはり母がと思い、反応を見るために、母の部屋へと向かった。


部屋へ入ると、母はもう起きていて、いつものようにサッサと朝の業務の指示を出していた。そこへ入って行った騮に、椿は言った。

「あら騮。珍しいこと、あなたがこの時間にこちらへ来るなんて。どうしたの?」

全く警戒していない顔だ。

騮は、言った。

「は。父上から、ご連絡がありまして。」

椿は、分かっているという風に頷く。

「お帰りになるのね。良いのよ、もう準備は出来ておるから。そういえば、お祖父様から連絡があったわ。帰りに寄られるって。」

祖父の翠明がここに来るのか。

騮は頷いたが、言った。

「母上、違うのです。」椿は、問うように眉を上げた。騮は続けた。「瑤子殿が、襲撃を受けたと。」

椿は、手に持っていた扇をパタリと落とした。

「え…?鳥の宮で?」

騮は、じっと椿を見つめながら頷く。

「はい。どういう訳か、北の回廊へと歩いて行っていたようで。」

椿は、宙を睨むようにして考えた。

「…北は客間の方角ではないわね。なぜにそのような場所に。」

騮は、首を振った。

「詳しい事は書いておりませんでした。ただ、腹の子をそれで失い、心労が酷いので月の宮へお連れになって療養させることになさったのだと。」

椿は、騮を睨むように見た。

「侍女は何をしておったの?あちらには、我の所から熟練の侍女を配属させて、連れて行かせておったはず。あの宮の北などに何もないことは、あれらが知っておるはずよ。」

騮は、母の剣幕に驚いたが、それにも首を振った。

「我には分かりませぬ。父上が帰って来られぬことには…。」

椿は、侍女が拾って渡して来た、扇を手にして言った。

「良いわ。お祖父様が来ると申したでしょう。そちらに聞くわ。あなたも、悠長なことを申しておってはなりませぬよ。この宮の何かを狙ってそのようなことをした輩が居るのやもしれぬのに。王は今、瑤子様に付きっ切りでそんなお暇はないでしょう。ならばあなたがしっかりせねば。我も調べるわ。まずは、お父様にこちらへ侍女達を帰すように申して。瑤子様は月の宮なら、三条だけ居ったら大丈夫でしょうし。元々は我の侍女なのだから、我が何があったのか状況を聞いて、それを王にお知らせせねば。まだ犯人は捕まっておらぬのでしょう?」

騮は、戸惑いながら頷いた。

「は。そのようです。では…急ぎ、父上にご連絡を。」

「よろしくね。」

そう言って、椿は奥へと入って行った。

騮は、何がどうなっているのか、分からなくなっていた。

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