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始末

高瑞は、大伊という次席軍神ただ一人を連れて、龍の宮へとやって来た。

さぞかし臣下には反対されただろうが、こうしてやって来たということは、臣下を押さえつけるだけの力はあるということだ。

大伊は大柄の軍神だったが、ぴったりと高瑞の後ろについて、何があっても命がけで守ろうとしている様子が見てとれる。

ここで本当に高瑞を殺しに来たのなら、軍神一人の命ぐらいでは到底守り切れないのは分かっている事なので、その背からは悲痛な思いが見え隠れした。

対して高瑞は、全く構えている様子もなく、気を読んでも乱れている様子もなく、穏やかだ。

とても、処刑を待つ父親に会いに来た皇子には見えなかった。

まずは謁見の間へと通された高瑞は、深々と壇上に座る、維心と炎嘉に頭を下げた。維心は、やはり姿は若いな、と思いながら、口を開いた。

「父に会いたいとか。あれは大罪人ぞ。主はその理由が分かるか。」

高瑞は、頷いた。

「は。我が父のしたことは到底許される事では無く、妃などにかまけて神世の常識を忘れてしもうた愚か者だと思うておりまする。」

維心は、眉を上げた。わざわざ父を罵倒して文句を言うために来たのか。

「ほう?まあ、分かっておるなら良いがの。して?」

高瑞は、続けた。

「は。あの罪人の女は我が処刑し、その女の実家の父親も投獄して家屋敷、財産は没収致しました。全ては父が与えていたものを、我が返させた形でありまする。それを、父にも知らせておこうと思いました。」

炎嘉が、横で眉を上げている。徹底的に叩いているからだ。

「…そうか。主が女とその実家を罰したことを高晶にの。」と、脇に控える帝羽を見た。「これへ。」

帝羽は頭を下げ、そこを出て行った。

炎嘉は、言った。

「それで、主はこれからどうするつもりよ。高晶の助命嘆願に来たわけでは無いようよな。」

高瑞は、すぐに首を振った。

「違いまする。己がやったことの始末は己で付けねばなりませぬ。それが、命でしか出来ないなら、そうするのが父の務めであるかと。」

そう言いながらも、高瑞の表情は欠片も動じていない。何かの覚悟を感じるが、それが父との別れにか、それとも王となる自分にか、維心にも炎嘉にも判断がつかなかった。

いずれにしろ、維心と炎嘉に対しては、何の恨みも感じ取れなかった。

さすがの炎嘉も戸惑って維心と視線を合わせているところへ、帝羽が帰って来て膝をついた。

「王。連れて参りました。」

そこには、高晶が憔悴し切った顔で入って来ていた。後ろでに気で拘束され、ついこの朝まで王として君臨していたのに、見る影もない。

どう足掻いても抜け出せない命の危機に晒されて数時間、それだけで高晶はすっかり参っているようだった。

高瑞の目が、スッと鋭く細められた。

「父上。」

高晶は、ハッと顔を上げた。そしてそこに立つ、高瑞を見て、少しホッとした顔をした。

「高瑞。主、来てくれたのか。」

高瑞は頷いた。

「は。詩織は我が処刑しました。あれの実家の父を投獄し、家屋敷を没収し財産も全て引き上げさせました。それをお伝えしておかねばと。」

高晶が、目を見開いた。

「処刑と…?!我が帰ってからと申したであろう!」

高瑞は、フッと歪んだ笑みを口もとに浮かべる。

「父上は、戻ってなど来れませぬ。」その声は、驚くほど冷たかった。「宮をこのような立場に追いやっておいて、まだ生きて宮で君臨するおつもりか。もはや誰も父上を王だとは思うておりませぬ。父上にすれば気にしておられぬやもしれませぬが、母上と寧々殿の事は、王の母と、妹の母として我が世話を続けるつもりでありまする。しかし、あの女は処分しました。それだけ、知っておいて頂きたいものと。」

高晶は、激昂して足を踏み出した。

「そのような…!主はまさか王座を狙ってこうなる事を望んでいたのではあるまいな!」

高瑞は、スッと呆れたように目を細めた。

「このように窮地に陥った宮の王座など、誰も要らぬのでは?」と、物凄い速さで高晶の胸を一突きにした。「我が責を負ってあなた様を殺しましょうほどに。」

そこに居た皆が気取っていたが、高瑞と高晶の距離が近過ぎて、止める間もなかった。

それに、今の太刀筋を見ただけでも分かる。高瑞は、相当の手練れだ。

維心は、じっとそれを見つめた。高晶は、自分の胸に刺さった刀を見て、ガクガクと震えている。高瑞は、それをぐいっと引き抜くと、サッと鞘へと納めて、倒れる高晶には目もくれず、維心と炎嘉に膝を付いた。

「誠にお見苦しいところを。我が責任を持って反逆者の父王は処刑致しました。これからは、このようなことが二度とないように、我がしっかりと宮を引き締め、治めて参ります。」

…そう来たか。

維心も炎嘉も、そう思って見ていた。箔炎がやったのと同じ、不甲斐ない父王を皇子が殺し、謝れば、宮にその責は行かない。

皇子が自らの手を汚して王の命を差し出し、詫びる事で宮を守ったのだ。

そのために、会いたいと申したのか。

維心は、そう思っていた。感じていた覚悟は、これだったのだ。

高晶は、まだ息があった。だが、もう声を出すことも出来ず、そうしてゆっくりと瞳孔は開こうとしていた。

「…あい分かった。」維心は、言った。「主に免じて、宮の責はもう問わぬ。高晶の体は持ち帰ることを許そう。これからはこのような事が無いよう、宮をよう見ておくが良いぞ、高瑞。」

高瑞は、さすがにホッとしたような仕草をした。そうして、もう一度頭を下げて、大伊に命じて高晶を連れ帰るための準備をさせる。

高晶は、その時やっと事切れて、気が抜け去って行くのが分かった。

義心と帝羽が、大きな布を持って来てそれを手伝っている中、維心は炎嘉に頷き掛けて、そうして居間へと、引き上げて行ったのだった。


居間へと帰ると、待っていた焔、箔炎、志心からの返事が来ていた。

だが、事はもう終わった。

思っていたより、簡単にあの、高瑞が終わらせたのだ。

「また書状を書かねばならぬわ。」炎嘉が、面倒そうにそれらを眺めて言った。「思うた以上であったな。あやつ、これまで表に出てこなんだが、それが何ゆえが知っておるか。」

維心は、興味も無さげに首を振った。

「いや。いろいろあったからではないのか。」

炎嘉は、そんな維心を咎めるように見てから、答えた。

「違う。最初は確かに心労もあって、表に出さなんだ。だが、最近は詩織よ。あやつが己が生んだ皇子を跡目にと画策しておって、高晶に高瑞を跡目にと、公表させなかった。だが、幸い皇子は生まれず子は千夜一人だけ。あやつがあまりによう出来る神であるから、最近では高晶より高瑞にまで色目を使おうとしておったそうな。だが高瑞には逆効果よな。そういった女は何より嫌うからの。」

維心は、もう聞きたくないと虫でも祓うように手を振った。

「もう良いと申すに。そんな女の話は聞きとうないわ。高晶も見る目の無い奴よ。女に惑うたら長生きできぬのだと申すに。箔翔も然り。高晶もぞ。ここは神世によう知らしめておかねばならぬわ。王はようよう気を付けて妃を選ぶようにとの。」と、ため息をついた。「…それより、問題はこれを維月に何と報告したものかぞ。あれはそれでなくとも己のせいだと思うておるのに…困ったものよ。だが、明子も寧々も宮へ留め置くとあれは言うておったし、不幸になる者は少なくて済んだと申したら少しはマシかの。」

炎嘉は、息をついてまずは焔にと返事を書きながら、維心をじとっとした目で見た。

「事実は事実として知らせるしかないではないか。大丈夫よ、維月も分かっておるのだ。それより、主も書かぬか。我一人にさせるでないわ。そら、志心の分。」

放って寄越されて、維心は顔をしかめた。

「臣下に書かせるわ。もう周知の事実であるし。」

炎嘉は、来た書状を振って言った。

「直筆で来ておるではないか。最低限の礼儀であるわ。今礼儀がどうのと騒いでおったのではないのか。己が守らぬと信ぴょう性がないぞ。ごちゃごちゃ言わずに、さっさと書け。」

維心は、仕方なく志心に対して、解決した旨を知らせる書状を書いた。

結局、炎嘉が二つ、維心が一つ返事を書いたのだった。

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