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続・迷ったら月に聞け13~大陸の神  作者:
様々な想いと形
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桜色の金剛石

ヴァルラムが帰った後、維月は維心の部屋へと戻って来た。

維心は、維月を横へと座らせて、あの黒い箱を懐から取り出した。

「本日、ヴァルラムが主にと持って来た。」と、箱を開けて見せた。「霧の事で迷惑を掛けた詫びだと申して。」

維月は、それを見て袖で口を押えた。桜色の金剛石…なかなか出ないとイヤリングやペンダントなど、少なくて済むアクセサリーになるべく大きな物を使って贈ってくれたものだった。

それを、これほどの数を使って、ネックレスにしてある物を、贈ってくれたのだ。

恐らくは、大変に貴重な物だろう。

「…なんて稀少な物を。」と、そっとそれに触れた。「もったいなくて身に着けられませぬわ。」

維心は、じっと維月を見つめて言った。

「ヴァルラムは、桜色のダイヤばかりを使わせたと言うておった。」

維月は、ハッと顔を上げた。桜色のダイヤ…。

「…ヴァルラム様が、そのように?」

維心は、頷く。

「桜色という言葉を知っておったのだ。かつてのヴァルラムから聞いておるはずは無いし、なぜにとは思ったが…しかし、あちらではその言葉を使うようになっておるのかもしれぬし、我も深くは詮索せなんだが、もしかしてあれは誠のかつてのヴァルラムなのではと思わせるものよ。」

維心がそう思うのも仕方がないのだ。

何しろ、あれは本当にヴァルラムなのだ。

維月は、あの時闇になりかけた霧が言った事を覚えていた。ヴァリーは、あの瞬間思い出したのだ。そうして、闇になりかけた霧に憑かれ、霧にその記憶が戻っている事を明かされた。

だが、維心はそれを知らないのだ。

こうして勘繰っているという事は、未だに知らぬと言うことなのだ。

維月は、息をついた。

「どちらにせよ、ヴァルラム様が大変に優れた王であられることは確かであるのですから。維心様が仰るように、あまり詮索せぬ方が良いかと思いますわ。」

維心は、息をついて頷いた。

「そうであるな。今は、ごたごたするのは嫌なので、本来主にも礼を言わせねばならぬところであるが、十六夜と出掛けておるだの言うて避けたのだ。早く我らの間の軋轢を取り除いて、それからまた、考えることにしようぞ。」

維月は、維心ももう、穏やかに暮らしたいのでいろいろ面倒は一度に抱え込みたくないと思っているのだろうと思った。

なので、頭を下げた。

「はい。維心様にはいろいろとご心労をお掛けしてしまって、申し訳ありませぬ。あの、では維心様はこれから帰られるのですか?」

維心は、立ち上がって頷いた。

「あちらを放置しておるから帰る。主は、此度はすぐに帰るのだろう?」

本来は、里帰りというよりも、ヴァルラムに会って話すのが維心の目的だったのだ。なので、維月は頷いた。

「はい。十六夜も、降りれるようになったのであちこちフラフラしておりますし、一週間ほどこちらに居りますが、帰りますわ。その間に、父との約定も済ませます。維心様は、それをお望みなのでしょう?」

維心は、大きなため息をついた。

「さっさと済ませて欲しいというのが本音よ。気が揉めるゆえな。そうして戻ったら、我と命を繋ぐとしようぞ。我とて初めての事であるし構えるが、まあ、どんなものかと気になっておったゆえ、良い機会かもしれぬ。」

維月は、少し赤くなって言った。

「まあ…でも、私はこの機会をとても嬉しく思うておりますわ。陰の月など待ち侘びてのたうち回っておるほど。何より愛しておる維心様と…このような機会があるなんて。父の手前、一生、出来ぬと思うておりましたものを。」

そんなにか。

維心は、いったいどんな事になるのか一瞬不安になったが、しかし維月なのだから、深く繋がれるのならなんでも良いかと思い直し、頷いた。

「大事に至らぬように、我も心構えをしておくゆえな。」

気を整えて体調は万全にしておこう。

維心はそう心に留めおいて、そうして維月を置いて、夕暮れの月の宮を飛び立って行ったのだった。


その夜、十六夜は戻らないしで、維月は思いきって碧黎の部屋へと訪ねた。

維心はさっさと済ませて欲しいと言うし、維月もいつまでも待たせるのはと思ったからだ。

十六夜に話してからと思っていたが、十六夜はどこに居るのか月に話し掛けても返答がない。

いつでも答えるのにと気になったが、それでも不死の十六夜に何かあるはずもなく、恐らく何かに夢中になっていて、こちらに気付かないのだろうと、維月は碧黎を探した。

いつでも月の宮に居ると言っていた、碧黎は部屋には居なかった。

「碧黎様?」維月は、言った。「どちらに居られますか?」

すると、目の前にパッと碧黎が現れた。

「維月。すまぬな、十六夜と、瀬利の結界の中で大氣と話しておったのだ。あちらを煩わせてしまったし、詫びをせねばと二人であれらに事情を話しておったのよ。」

維月は、だから十六夜は答えなかったのか、と言った。

「まあ。あの、瀬利は…大丈夫でありましたか?」

昨夜、出来なかったと言っていた。着物が乱れていたということは、それなりに進んでいたのだろう。

碧黎は、答えた。

「我が悪いのだからの。心から詫びを申した。瀬利は我から誘ってもそれを成せなかった事に、本当にどうにもならぬのだと分かって逆に吹っ切れたと、笑って許してくれたのだ。誠に我は、あれの気持ちも考えず…あの時は、己の意地ばかりであった。良くなかったと思うておる。」

維月は、頷いた。

「相手の事を思いやる気持ちは大切ですわ。己すらそれで傷付けてしまいます。お互いに後悔しないためにも、こういった事は慎重になさる方がよろしいかと。」

碧黎も、それには頷いた。

「誠に。今は身に沁みて分かろうほどに。」と、維月の手を取った。「主は今夜とこちらへ参ってくれたのか。」

維月は、躊躇いながらも頷いた。

「はい…。維心様も帰られましたし、十六夜も…あの、今は地の陰になっておりますので、気取る事はないでしょうから。」

碧黎は、奥へと維月を伴って歩きながら言った。

「月であれば気の乱れを感じ取るしの。だが、主がここに来た事は十六夜も知っておる。共に居たゆえな。あれは本日、大氣と語り明かすから良いと言うておった。さっさと済ませてくれと。」

維心様と同じ事を。

維月は思った。とにかくは皆、早く元の生活に戻りたいのだろう。

袿を脱いで共に寝台へと入ると、さすがに維月は緊張した。しかし、驚いた事に碧黎も、緊張した顔をした。そしてその手は、微かに震えていた。

維月が問うように碧黎を見ると、碧黎は維月の上に移りながら、苦笑した。

「どうしたことか、このような事には慣れたつもりでおったのに、陽蘭には感じなかった感情が湧いて参るのだ。焦燥感のような、期待感のような…それに僅かに、恐怖心のような。しかし心が沸いておって、武者震いのように体が震えて参る。不思議なことよ。」

維月は、驚いた。何に対しても動揺しない碧黎が。

「…何事もよろしいように。私は逃げませぬわ。」

碧黎は、頷いて維月に唇を寄せた。

「誠にこのような事は、我には意味のないことであるはずなのにの…。」

そうして、その夜を初めて二人で過ごし、約定は守られたのだった。


次の日の朝、目が覚めると碧黎はもう、居なかった。

これまで、体の関係などなく共に休んでいても、いつでも目が覚めるまで碧黎は側に居たものだった。

それなのに、もう日が高くなっていたのもあるが、碧黎は既に、どこかに出掛けたようで月の宮の中に気配はなかった。

維月は一人で起き出して、着物を着ると自分の部屋へと向かった。

昨夜は、自分でも驚いたのだが、まるで維心に抱かれているようだった。

二人は似ていたし、碧黎自身が維心を自分に似せて作ったと言っていたのでそうなのだろうが、随所に維心を思い出し、驚いた。

なので維月は、何の違和感もなく、受け入れる事が出来たのだ。

そう思うと堪らなく維心に会いたくなったが、碧黎の気が残る状態で戻りたくはない。

なので、維月は自分の部屋へと戻り、ヴァルラムにネックレスの礼の品を準備しようと考えていた。

すると、蒼が訪ねて来て、言った。

「…あのさあ、びっくりしたんだけど。」

維月は、目を丸くした。そういえば、蒼は自分達の間のゴタゴタを知っていたんだろうか。

「…知らなかったの?」

蒼は、何の事か分かっているようで、頷いた。

「月の宮の結界の中なんだから、オレに言ってからにしてくれないと焦るじゃないか。それでなくても碧黎様の気は大きいんだから、それが乱れたら何事かって思うんだからね。気を探って知って、びっくりして十六夜を死ぬほど呼んだらやっと答えて大氣と居るとか言うし、そこで初めて事情を聞いたんだよ。これまで何もなかったのにって、めっちゃ焦ったんだからな。オレじゃあ碧黎様を止められないし。」

維月は、苦笑して言った。

「ごめんね、だって十六夜の事だから話したんだと思ってたのよ。維心様もご存知で、だから早く帰られたのよ。私も七日ほどで龍の宮へ帰るつもりよ。」

蒼は、ため息をついた。

「ならいいんだけど。だから昨日、維心様はヴァルラム殿に、維月を会わせなかったんだなって思ったよ。」

維月は、頷いた。

「これ以上何かあってはと思われているのよ。そういえば、あなた維心様にヴァルラム様があのヴァルラム様だって言ってないでしょう。」

蒼は、神妙な顔をした。

「うん。必要なら自分で言うかなって思って。維月も言ってないだろう?」

維月は、また頷いた。

「ええ。あなたが話さなかったんだなって思ったから。だったら私も黙っていようと思ったのよ。」と、そこに置いてある、黒い箱を見た。「でも、こうして貴重なものを贈ってくださったんだし、お礼をしないとと思って。こちらに洋服の生地とかあるかしら?お召し物を、誂えて差し上げようかなと思って。」

維月は、今では結構な腕の仕立て人だ。何しろ龍の宮の職人に教わった月なのだ。

「着物の反物しかないけど、そういえば昨日、礼にってもらった中に洋服の生地があったよ。こちらでオレの洋服を仕立てられるようにって、型紙もあるんだ。それを使う?」

維月は、それは良かったと手をパンと叩いた。

「いいわね!良かった、それをもらえる?また龍の宮からこちらへ反物を返すわ。」

蒼は、笑って手を振った。

「いいよ、別に返さなくても。どうせ服を縫ってもオレ、着て行く所がないからさ。」

維月は、頷いてありがたくそれを使わせてもらうことにした。

これで、ここに滞在する間にやることが出来た。

維月は早速蒼に案内されて、ヴァルラムから贈られたという生地を見に行ったのだった。

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