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続・迷ったら月に聞け13~大陸の神  作者:
様々な想いと形
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ヴァルラムの訪問

ヴァルラムは、昼前ぐらいに蒼に伴われて維心の対を訪れた。

話してあった通りに、蒼はヴァルラムを誘導してでは挨拶を、と言わせたらしい。

維月は、何かあってはならぬので、と言い置いて、その場を離れて自分の部屋へ戻っていた。

確かに、碧黎と十六夜とこんなゴタゴタがあった後に、またヴァルラムが懸想しただのなんだのあってはたまらないので、維心も二つ返事で維月を出て行かせていた。

入って来たヴァルラムを見て、維心は眉を跳ね上げた…以前のヴァルラムより、前世のヴァルラムそっくりの気をしていたのだ。

とはいえ、これが生まれ変わりなのかどうかは、まだ分からなかった。それに、生まれ変わりであろうとなかろうと、このヴァルラムは王としてこれまでの誰よりも上手くあちらを治めている。

なので、表面には何も出さずに維心は言った。

「主があちらのドラゴンの今の王であるヴァルラムか。主の事は噂に聞いておる。我が龍王、維心ぞ。」

ヴァルラムは、軽く会釈した。

「この度は時間を戴いて感謝する、維心殿。蒼が、こちらに妃と共に来ておると言うので、ならば一度ご挨拶をと思うての。霧の大発生の際には、ヴェネジクトが大変に迷惑を掛けた。謝罪をせねばと思うておったのだ。」

なかなか、最早老たけた王のようぞ。

維心は、その堂々とした様に感心した。まだ若いのに、この醸し出す重みは何だろう。

「我は特に何も。蒼に謝罪しておるなら良いであろう。」と、椅子を進めた。「座るがよい。」

ヴァルラムは、マントを跳ね揚げて椅子へと座った。蒼が、その隣りに座って言った。

「ヴェネジクトが回復しているのを喜んでくれて。ヴァルラム殿は城へと帰る事を勧めていたんですが、ヴェネジクトはこちらに残ると言っておりました。ヴァルラム殿も、それを許してくれたので、ヴェネジクトはこちらで世話をすることにしました。」

ヴァルラムは、頷いた。

「蒼には感謝してもし足りぬぐらいぞ。あれはもうダメだろうとあきらめておったのに、あそこまで回復するとはの。こちらは穏やかで、あれが居たいというのも分かる。ゆえ、任せようと思うて。」

維心は、頷いた。

「それが良い。こちらは傷付いた神には良い環境であるしな。」

ヴァルラムは、頷き返して懐に手を入れ、四角い黒い箱を取り出した。そして、維心にそれを差し出す。

「実は蒼に感謝の品を持って参っていたのだが、ここが主の妃の里だと申すので。主への詫びにと、こちらへ預けるつもりであったのだ。だが、来ておると申すので。ならば直接に渡そうと持って参った。」

維心は、それを受け取った。

その黒い箱を開くと、中にはこれでもかとダイアモンドが並んだ、ネックレスが光り輝いていた。

「…これを我が妃に?」

維心が言うと、ヴァルラムは頷いた。

「主にと思うたが、主は何でも持っておると聞いておったので、ならば主の大切にしているという妃に、と思うての。なかなか産出せぬ、桜色のダイヤばかりを使わせた。主の妃をこれで飾ってもらえればと思う。」

維心は、それに見覚えがあった。

かつてのヴァルラムも、維月の誕生日が近付くと、金剛石の飾り物を毎年のように贈ってきたものだった。

中でも桜色の物は、維月も珍しいと喜んでいたのを思い出す。

そして、最初ヴァルラムはピンクダイヤモンドと言っていたのに、維月が桜色と言うと、それを覚えて桜色と言うようになった。今、それを教えていないのに、このヴァルラムは桜色という言葉を使ったのだ。

…まさか…?

維心は思ったが、目の前のヴァルラムからは他意は感じられない。

なので、維心は慎重に頷いてそれを閉じ、自分の懐へと入れた。

「喜ぶであろう。感謝する、ヴァルラム殿。」

ヴァルラムは頷いた。蒼は、言った。

「そういえば維月はどこに?維心様のお側に居るのだと思っていたのですが。」

維心は、首を振った。

「あれは、十六夜と碧黎のもとに。里帰りであるからの。我はついて参っただけで、本日夕刻には龍の宮へと帰らねばならぬ。送って参っただけなのだ。しかし、蒼からヴァルラムが来ると聞いていたので、ならば挨拶ぐらいはと思うただけよ。」

蒼は、いつもなら帰るまで側を離さないのに、とは思ったが、頷いた。

「そうですか。では、また後で知らせておきます。」

居るのなら礼ぐらいは言わせるのが筋であるものな。

維心は思ったが、ゴタゴタは今は避けたいのだ。

なので、言った。

「何やら十六夜が、温泉がどうのと申しておったゆえ、もしかしたら宮に居らぬやもしれぬがの。あれもやっと降りて来る事が出来て、はしゃいでおるのだ。」

蒼は、部屋に維月の気がするのでそんなはずはないとは思ったが、維心がこう言うからには何かあるのだと、頷いた。

「確かに。帰って来たら三人でよく出掛けますものね。」

ヴァルラムは、眉を上げた。

「十六夜は、目が開いたのか?」

蒼は、頷いた。

「つい昨日のことなんだが。なので、久しぶりに降りて来られるようになって、遊び回っていてもおかしくないから。」

ヴァルラムは、苦笑した。

「月が戻ったのは心強いが、遊び回っておるとはの。まあ、あれのお陰で大陸は助かったのだし、良いのかもしれぬ。」

王座に就いて数年で、もう王としての自分の立場で物が言えるのだな。

維心は、思っていた。

普通は慣れるまで時が掛かり、しばらくは変にへりくだってしまったり、敬語を使わなくて良い場面で使ってしまったりするものなのだ。

まして、下士官であったヴァルラムから見て、月など高い地位の存在であるだろう。

そして龍王である維心相手に、このように立ち回れるようになるまでは、かなりの時を要する。

維心の気は、そこに居るだけで相手を威圧するからだ。

それなのにヴァルラムは、こうして寛いで話している。

まるで長く王座に座っているかのようだった。

「十六夜は、居るだけで助かるんだと今回の事で分かったので。」蒼が、ヴァルラムに言った。「いつもは遊んでるように見えても存在してるだけで回りの世話をしているし、ここぞと言う時だけ何とかしてくれたら、いいかなって最近は思ってるんだ。」

ヴァルラムは、クックと笑った。

「主が良いようにしてくれるだろうから、別に案じておらぬ。月と地は扱いが難しいと聞いておるしの。我には全く知らぬ世界ぞ。」

維心は、言った。

「我も好きで知ったわけでもないのだがの。確かに難しいことこの上ないゆえ…たまに諍いが起こった時には解決に疲れ切る事になるのだ。それでも、妃の里の事であるししようないがの。」

蒼は、確かに、と困ったように笑った。ヴァルラムは、微笑んで言った。

「苦労をしてでも傍に置きたい妃を、見つけた主が羨ましいことよ。」

蒼が、脇から言った。

「まだ若いんだし、いくらでも見つかるだろう。きっとその気の大きさなら寿命は長いだろうしね。おっとり構えていたら、そのうちにな。」

ヴァルラムは少し、寂し気に笑った。

「そう簡単でないのは、もう知っておるよ。」

蒼は、何かを知っているように案じる顔をしたが、それでも笑った。

「まだまだ先が長いのに、年寄りのようなことを。」

二人は笑っているが、維心は笑えなかった。何かが、気になるのだ。だが、これという事が出来ない。

今、碧黎たちのごたごたが解決しようとしているところなので、頼むからしばらくは、おかしなことは起こってくれるなと、維心は心の底から祈っていた。

だが、その祈りがどこへ届くかなど、自分が神なのだから分からなかった。

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