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友と友

話しを聞き終わっても、彰炎は眉を寄せたまま、じっと黙っている。

匡儀は、焦れて言った。

「…主はどう思う。炎嘉となれ合っておるが、あちらもいつか本性を現すのではないのか。」

しかし、彰炎はそれを聞いてキッと匡儀を睨んだ。

「我らはそんな仲ではないわ。そもそも、同族であるしお互いの考えておることは手に取るように分かる。炎嘉は、我より力も格段に上であるが、我にいろいろ指南してくれる上、やる気を失くさぬようにと三回に一回は手を抜いてくれておる。炎嘉にしたら隠しておるつもりだろうが、我には分かる。そういった気遣いが嬉しいし、あれの期待に応えたいから更に頑張るのよ。主が維心が上だからどうの、意味が分からぬ。なぜに争うのだ。維心は、主らの種族を侵略でもしようとしておったのか?ここ百年ほど見ておったが、あちらの方が明らかに力があって優位であるのに、対等に接しておったと思うがの。復興の手伝いも、どれほどにしてもらったのだ。それなのに、主は己があちらに王と崇められたいと?」

言われてみると、自分が愚かな行動をしているように思えて来て、腹が立った。

「あれは、我を下した後、己が龍族の王だと言いよったのだぞ?!我らを下に見ておるではないか!憤らずでおれるか!」

しかし、彰炎は冷静だった。

「主がそう思うてかかったからではないのか。」匡儀が、ぐ、と黙る。彰炎は続けた。「そもそも戦の折り、あれほど迅速に事が収まってこちらの被害が少なく済んだのも、あの圧倒的な神がこちらへ来て力を見せ付けたからではないのか。あれほどの力を身の内に持ち、一気に放てる神など見たこともない。叛乱分子はあれが主の背後に居るからあれほどあっさりと投降したのだと我は思うぞ。あれらが束になって来たら、さすがの我でも敵わなんだ。主だって己の種族を守るだけで精一杯であったろう。今頃はまた戦国で、まだ戦場であったやもしれぬ。これ程早く復興したのは、あちらの力添えがあったからであろう。それでも、あちらはこちらを支配しようとしたか?己の方が上だと主を見下しておったか?否であろうが。」

匡儀は、彰炎を睨んで黙り込んだ。彰炎の言う通りだったからだ。

そもそも、今回あちらに縁談を持ち掛けたのも、さっさと子達の身を固めさせて手を放したいと思った以上に、あちらとしっかり友好関係を築いておきたいと思ったからだ。維心の力は絶大で、いつこちらを治めると言い出すか分からない。そうなった時、抵抗する術など自分にはないと思った。

匡儀は、どこかで維心を恐れていたのだ。

しかし、王としての意地がある。どうあっても王座は譲れない。仮に王と言われても、同じ種族であるから皆、維心の方を向き、自分は飾りの王になるのではという恐怖があった。

彰炎は、じっと匡儀の目を見返していたが、言った。

「…図星であるな。匡儀、意地を張るでない。仲違いしても良い事などないぞ?此度は己が悪かったと頭を下げよ。あちらがこちらを支配しようと思うたら、とっくにそうなっておった。そうでないのだから、あちらはそんなつもりは無いということよ。大事にはなるまい。」

匡儀はじっとそれを聞いていたが、突然に立ち上がって首を振った。

「…頭を下げるなど!それならば討って出るわ!なぜに我が、同族に頭を下げねばならぬ!」

彰炎は、それでも冷静に座ったまま、匡儀を睨んだ。

「…それでも良いが、我は手を貸さぬぞ。」匡儀が目を見開くと、彰炎は続けた。「あれがこちらへ攻め入って来たならいざ知らず、こちらから攻め入るなど。主が島へ攻め入れば、炎嘉も島を守ろうと出て参るだろう。我はあれとは戦わぬ。絶対にの。龍の諍いでしかないものを、鳥の軍神の命を懸けさせようなど思わぬしな。」

匡儀はそれを聞いて言葉に詰まった。彰炎は、自分について戦わぬと言うか。

「…ならば主とはこれまで。」と、足を扉へ向けた。「どうせ主も島の神の飼い犬よ!」

そして、出て行った。

彰炎は、その後を追おうともせず、じっと椅子に座って険しい顔をした。

宇州や誓心の所へでも行くのだろうが、恐らく無駄足。匡儀は己の感情に振り回されて回りが見えなくなっている…。

彰炎は、急ぎ炎嘉に書状を書いて軍神に持たせた。

まだ不安もあるこの土地で、これ以上の諍いなど今、起こってはならぬのだ。


炎嘉は、彰炎からの急ぎの書状に目を通し、息をついた。

宮の方に来たらしいのだが、急ぎということで龍の宮にまだ居た炎嘉のもとへと転送されて来たのだ。

宴の次の日の朝ということで、ゆったりと帰り支度をしていた炎嘉だったが、こうなるとまだ帰る訳には行かぬ。

炎嘉は仕方なく、軍神に命じて他の神にも待つように言い、そうして維心の居間へと向かった。


維心は、先触れを受けてもう待っていた。維月は席を外しているようだ。

炎嘉は、居間へ入ってすぐ維心に書状を渡した。

「読んでみよ。」

維心は、黙ってそれを受け取った。

そして、内容に目を通すと、息をついて炎嘉にそれを返した。

「…座れ。」と、まだじっと立っていた炎嘉に言った。「予想はしておったし驚きはない。誠あやつが攻め入って来たら、残念ではあるが一族諸とも消すしかないと思うておる。」

炎嘉は、頷いた。

「これも予想通り彰炎は手助けを断った。あれの考えは手に取るように分かる。恐らく志心もそうであろう。ならば誓心は手を貸さぬ。主からあちらへ出て参らぬ限り、あちらは龍単独になるであろうよ。」

維心は、片眉を上げた。

「宇州は?」

炎嘉は言った。

「宇州は彰炎の友ぞ。宮も隣り合っていてまず敵対などしない。そもそもこれは龍族の中での諍いぞ。まず島へ軍を出そうなどとは考えぬ。」

維心は、頷く。

するとそこへ、志心、焔、箔炎、駿、蒼が入って来た。

「翠明と公明はもう帰ってしまっておってな。」と、焔は炎嘉の手の書状を見た。「何か言うて来たのか。」

炎嘉は、頷いて焔に書状を渡した。

「読んでみよ。」

焔は、それを手にとって戸惑い気味に椅子へと座る。志心も、その隣りに座って横から書状を覗き込んだ。

「…面倒な。」

志心が、先に眉を寄せて椅子の背に身をうずめた。焔も、書状を今度は反対側の隣りの駿へと押し付けながら、維心を見た。

「だから言うたのに。どうするのだ、彰炎は手を貸さぬと申しておるが、匡儀だけでも来よったら面倒ではないか。主らの種族は無駄に力があり過ぎるのだ!」

その隣りで、駿と箔炎が一緒に書状を見て、顔を見合わせている。

維心は、焔を呆れたように見た。

「無駄とは何ぞ。あやつが攻めて来たら、我一人でも全て消し去ってくれるわ。ゆえ、主らに迷惑は掛けぬ。主らに手を出すようなら討ってくれて良いが、手を出す暇も与えぬゆえ安心するが良い。」

一見軽口に聞こえるが、維心の場合は本気で言っている。炎嘉は、なので案じるような顔をして言った。

「海で迎え討つつもりか。己でとっととけりを付けようと?」

維心は、炎嘉に頷く。

「主らに面倒を掛けとうないからの。島には指一本触れさせぬから案じるな。我に任せよ。」

やっと自分まで書状が回って来た蒼が、急いで目を通しながら、言った。

「え、もう匡儀が来ると決まってるんですか?彰炎の書き方では、怒って出て行っただけで、すぐに出るような感じでもないし、感情的になって勢いで叫んでいるようみたいですけど…。」

維心は、そんな蒼に苦笑して、諭すように言った。

「来てからでは遅いのだ、蒼よ。こうして王が討って出ると口に出しただけでも、事は大事なのだぞ?我らはその可能性を追い、準備を進めておかねばならぬ。あれは冗談だったと後に言われたとしても構わぬのだ。全ては、もしやの時に備えておく。特に力が拮抗しておる相手となれば尚のこと。」

蒼は、黙った。拮抗って…維心の力の方が、何より上なのに。

箔炎が、言った。

「ならば我の領地に龍軍を駐屯させておけば良い。しばらくは、警戒しておく方が良いのだろう?海岸線に警備に立っておれば牽制にもなるのではないか。」

それには、志心が首を振った。

「それならば我の領地の方が良い。」箔炎と維心が、志心を見た。志心は維心を見て続けた。「箔炎の所では、無駄に刺激してしまおう。隣りの我の領地なら、箔炎の結界の影で龍軍が駐屯しておっても気取りにくい。しかも近い。しばらく龍軍を一万ほど寄越したらどうか。面倒を見るぞ。」

話しが具体的になって行く。

蒼が段々不安になって来ていると、維心は言った。

「念のため。」と、蒼を見て言ってから、志心を見た。「しばらく龍軍を一万、主に預けよう。箔炎の所には数人だけ見張りに立たせてもらう。あくまでも念のため。何も無いに越したことはないし、もし匡儀が折れて参ったら我も何も知らぬふりをしてそれを受け入れる。我は元々あちらになど興味はないのだ。匡儀と戦ってその領土を手にしてしもうたら、あちらまで面倒を見なければならぬではないか。また軍神があちこち散って、こちらの守りが手薄になる。なのでもし匡儀を討ったら、領土は彰炎に任せるわ。あやつは英鳳と頼煇を独立させたいと言うておるのだから、ちょうど良い場所であろう。あれらをやれば良いのよ。」

蒼は、目を丸くした。念のためと言っているが、かなり具体的な先まで維心は考えていて、道筋を立てている。それもこれも、事が起こった時に慌てないためなのは分かっているのだが、蒼には複雑だった。

そしてそれを当然のことのように聞きながら、頷いている王達にも複雑だった。

昨日、笑いながら酒を酌み交わしていても、少しの行動でこんな事になってしまうのだ。

蒼は、月の宮に帰って早く籠りたい気持ちだった。

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