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復興の

蒼から、ヴァリーが目覚めて、自分が王として立って、城を再興すると言って出て行ったと連絡が来たのは、あの時から七日が経った日の朝だった。

維心は、まだ戻らない維月にイライラしていたのだが、しかし無事なのだからと自分に言い聞かせて日々を過ごしていたところだったので、ヴァリーがあちらを立て直そうという気になってくれたのは1つ片付いて良い知らせだとそこにはホッとした。

義心の結界は、ヴァリーが戻ってすぐにヴァリーが張り直してお役御免となり、やっと解放されて戻って来られるようになった。

あれから、周辺の宮の様子を調べて戻った義心は、維心に非番を申し付けられる前にドラゴン城へ行きたいと申し出て、そのまままたそちらへ向かってこれまで、結局休みなく働き続けていたのだ。

ヴァリーは、その愛称ではなくあれだけ嫌がって避けていた本当の名のヴァルラムという名を使い、そうしてザハール達軍神の前で自分が王となりこの地を守ると宣言したのだと言う。

突然に戻って来たヴァルラムの気は、あのかつての王が生きてその場に現れたのかと思わせるほどに大きく、そっくりな様で、ザハールも涙を流してそれを受け入れたのを、義心は目の当たりにしたらしい。

確かにあれは、これがヴァルラムだと言われたらそうだと言ってしまいそうなほどに似ている気だったと義心から報告を受けて、維心はふと、思った。

…もしかして、ヴァルラムは記憶を戻したのではないのか?

そう、だから霧に憑かれることになってしまったのではと、維心は思ったのだ。

だが、それをヴァルラム本人の口から聞くことも出来なかったので、真相は誰にも分からない。

碧黎は知っているのだろうが、教えてはくれないだろう。

なので、維心はあちらを平常に回してくれるのなら、別に何でも構わないと詮索せぬことにした。

どうせ、また七年後の大会合には会う事になるのだ。

その時に、酒の席で聞いてみたら、もしかしたら答えてくれるかもしれない。

長く黙っていた、箔炎のように…。

そんなことを思いながら、今は十六夜の目が早く見えるようになるように、維月が早く帰って来られるようにと、それだけを願っていた。


一方、維月は地からまた月へと上がり、十六夜の横で光を降ろす場所を見て教えていた。

地上はもう、未だかつてないほど綺麗さっぱりとしていて、霧の気配を探る方が難しいほどになっていたのだが、それでも十六夜は、霧に付け入る隙など与えるものかと、見えない今は神経を尖らせて必要以上に地上を浄化していた。

《もうちょい右!》維月は言った。《もっと上、そこ!》

十六夜の光が、今発生したばかりの霧を消し去って行く。

維月は、息をついた。

《オッケーよ。》と、目を閉じたまま胡座をかいて座っている、十六夜を見た。《ねえ、もういいんじゃない?めっちゃ綺麗よ、ピカピカ。粘土遊びする霧も残ってないわ。綺麗過ぎて人なんか、何か悟ったみたいな顔をしてるわ。いいんだけど、何かしら、面白みがないって言うか?》

十六夜は、顔をしかめた。

《何が悪いんでぇ。面白みって、悪い方が良いってのか。》

維月は、うーんと首を傾げた。

《違うのよ、何かね、欲がないって感じ。ガツガツしてないのよ、何に対しても。無気力にも見えなくはないわね。》

そこへ、碧黎の声が割り込んだ。

《もう良い、それぐらいにしておけ、十六夜。》二人が黙ると、碧黎は続けた。《維月も言うたように、人の発展は欲によるものが多かったのだ。楽をしたい、稼ぎたい、そんなものがあれらを思ってもみない物を生み出す存在へと変えていた。今はそれが無いのよ。維月の存在意味が無くなるぞ?そも、主だけではならぬから維月を陰の月に戻したのではなかったか。陰陽揃わねば不具合出るのは、地と同じぞ。やり過ぎは禁物なのだ。》

十六夜は、目を閉じたまま答えた。

《でもよーこれまで目に余る時だけ消して来てたけど、今は見えねぇんだもんよ。また闇でも出来たらって、怖いんだから仕方がねぇよ。》

碧黎はため息をついた。

《闇が出来たら維月は地へ引き込むゆえ問題ないわ。地であったら主の力を相殺など出来ぬから、例え取り込まれても大事にはならぬ。とにかくは一旦落ち着いて、良い機会であるから己を省みよ。地上の何も見えぬ、聞こえぬ中で、己と向き合うのだ。我は、その機会を与えられておるのだと思うておる。》

維月は、驚いた顔をした。

《え、これはあの大きな誰かの意思だと?》

碧黎の声は答えた。

《我はそう思う。十六夜は、力の割には軽すぎるのだ。我ら、確かに根本的な命は同じだが、神とは世を異にしており、本来は交わらぬもの。それがこうして交流しておるその意味を、その何かを心の底から悟らねばならぬのだ。それを考える時間を与えられておるのだと思うぞ。現に主、今我らの声以外は聴こえぬだろうが。》

十六夜は、黙り込んだ。同じ眷族の蒼の声は聴こえるが、恒の声は聴こえない。維心にも話し掛けてみたが、答えているのかいないのか、全く聴こえなかった。維月が言うには、維心には声が届いていないようだった。

《…何かって、何なんでしょう。》維月は、言った。《難しいですわ。私は見えるし聴こえるのに…何も悟っておりませぬ。》

碧黎の声は、優しく諭すように言った。

《主は、補佐であるから。十六夜に従っておるのが役目。故にこれが悟るのが重要なのだ。その何かを、我が教えても駄目なのだ。これが己で悟らねば。これまで我の指示で言うなだの、やるなだの決めておったが、間に合わず此度のような事が起こるであろう?このままではならぬと、大きな誰かは思うておるのだと思うぞ。》

十六夜は、黙って考え込んでいた。

維月は、そんな十六夜が気がかりだったが、しかし長く月に居るわけにも行かない。

《…じゃあ、私は一度龍の宮へ戻るわ。》維月は言った。《私には聴こえるから、知りたい事があったら話し掛けて。私も毎日話し掛けるから。地上の気の流れは見えてるでしょ?》

十六夜は、頷いた。

《見えてるって言うか、感じるんだ。分かった、あれからどうなってるのか気になるしな。お前は一度戻って普通に生活してろ。オレはここで…考える。》

維月は頷いて、光となって月を出て行った。

十六夜は、取り残されて何を悟れば良いのかと考えていた。

だが、考えているうちは悟れないこともまた、十六夜には分かっていた。


維月は、龍の宮へと降り立った。

体が重い…よく考えたら、月では体が無いので幻のようなもので、物理的に十六夜に触れていると思っていたのも命が気を使って触れていたというだけで、実際は身などなかったのだ。

維月が寝る前の着物姿のまま庭から居間の方向へととぼとぼ歩いて行くと、居間の掃き出し窓がバンと開いて、維心が飛んで出て来た。

「維月!おお戻ったか!」

維月は、維心の何度見ても心が洗われるように美しい姿に、思わず笑顔になりながら手を伸ばした。

「維心様!」

維心は、維月の手をガッシリと掴んで引っ張り、抱き締めた。

「おお維月…!危ない目にあったと聞いた。碧黎が居るので大丈夫だろうとは思うていたが、此度は霧の事であったゆえ…。」

維心は、維月の頬にスリスリと頬を擦り寄せた。維月は、くすぐったそうに笑うと、言った。

「父が地に引き込んでくださったので問題ありませんでしたわ。あの…一瞬、動揺してしまって。」

維心は、維月を抱き上げて居間へと歩きながら、頷いた。

「分かるぞ。ヴァリー、いや、今はヴァルラムか、あれは生い立ちが不幸であるものな。」

維月は、驚いたように維心を見上げた。

「え?あの…維心様は、何かお聞きになっておられますか?」

維心は、頷いた。

「聞いておる。あの後ヴァルラムは嘉韻に回収されて月の宮へ行っていたのだが、蒼から連絡があってな。ヴェネジクトを置いて、王になる決心をしてあちらへ戻ったのだと。あちらの事は、あちらの神が決めるので案じるなと我に伝えよと申したとか。あれなら任せても良いかとホッとしたのだ。」

維月は、口を押さえた。

…維心は、あれこそがあのヴァルラムで、記憶が戻った事を知らないのだ。

碧黎からヴァルラムがその事を蒼に打ち明けていたと聞かされていたが、蒼はそれを、言わなかったのだ。

維月は、ならば私も言ってはいけない、と思い、頷いた。

「…そこまでお知りになっておられるのでしたら、私からは何も。ならばあちらは、ヴァルラム様が何とかなさるということですわね。」

居間の定位置の椅子へと維月を下ろした維心は、隣に座って頷いた。

「様子を見ようと思うておる。今は霧も地上にはあり得ないほど無いので、案じる事はないし、このまま回復を待とうかと思うておる。ただ、蒼に預けておるヴェネジクトが気になるがの。」

維月は、鶏ガラのようになってしまっていたヴェネジクトの姿を思い浮かべた。確かに、あそこからの回復はかなりの時間が掛かるだろう。

「…月の宮なら、きっと回復致しますわ。」維月は、答えた。「お体の回復がまず待たれますが、案じられる精神的な面も、月の宮なら大丈夫かと。」

維心は、苦笑して頷いた。

「蒼には頭が下がる。あれは面倒ばかりを引き受けてくれておるから…また労いに何か贈らせるゆえの。」

維月は頷いて、空を見上げて北の方角を窺った。

ヴァルラム様…また大変なところにお戻りになられたこと…。

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