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霧の中では

レオニートは、続々と逃れて来る周辺の城からの神達を、皆受け入れて自分の結界の中で守っていた。

レオニートはあまり自覚していなかったが、自分の結界は強く、周辺の城が霧に浸潤されて来ても、まだ一切の霧を遮断してもっていた。

出入りする軍神達に霧がついて来たりすることはあったが、すぐに払って封じた。

炎耀は、これしかないがと月の襦袢を残して行ってくれていて、霧に憑かれた者でもそれで覆って命じれば、霧は体から簡単に出て来た。

とはいえ、外から逃れて来るもの達が多いので、それも段々に効力が弱くなって来ているように見えた。

「これ以上は…!」治癒の女神が言った。「王、霧に憑かれた者が多すぎまする。外の軍神の結界の中には、まだまだ多くが居るのだとか。外からの流入を止めてくださいませ!」

レオニートは、歯ぎしりした。まだ憑かれて居ない者も共に見捨てよと申すか。

「憑かれて居ない者はどうするのだ。外で憑かれるのを待つばかりになるのだぞ?」

しかし、筆頭軍神のヴィタリーが進み出た。

「王、ですがこのままでは共倒れでございます!今は我らの結界で留めておりますが、中は阿鼻叫喚の有り様で。民が皆あの状態になってしまいまする!」

コンドルの民に伝染すると。

レオニートは、歯を食い縛った。確かに軍神の結界も揺らいでいて、いつそうなるのか分からない。

レオニートは、決断して立ち上がった。

「…我の結界を内側に張る!」と、歩き出した。「憑かれているものは皆そこへ!そうでない者だけこちらへ通す形にする!」

レオニートは、軍神が憑かれたもの達を隔離している場所へと向かった。

早く月に浄化してもらわねば、どちらにしろ我らはもたぬ…!


維月は、維心からヴァリーがヴェネジクトを連れ出すこと、それから霧を引き離して欲しいことを知らされた。

十六夜は、寝返りを打つようになって来ていて、形は成さないものの、こちらの呼び掛けに答えるような素振りをするようになった。

これまで微動だにせずに寝ていたのだが、段々に眠りが浅くなって来ているように見えた。

なので維月は、十六夜が目を覚ます気力を奮い起こさせるために、地上の状態を逐一話した。

十六夜は聴こえているようだったが、眉を寄せて唸るような反応をした。

だが、それだけで目を開く事はなかった。

内容は分かっているのか、時々苦しげに息を上げる仕草をするのだが、どうにも覚醒出来ないようだった。

十六夜も、もしかしたら戦って居るのかもしれない。

維月は思いながら、今の状況を話して聞かせた。

《…ヴァリーが霧の中にヴェネジクト様を連れ出すために入るのですって。私の縫った衣で。まさかこんなことに役に立つなんて、それなら死ぬほど縫ったのに…。あなたにも縫ってもらっておいたら良かったわ。あなたの衣なら、きっと霧は勝手に避けたと思うのよ。私の衣だから、命じなければダメなの。義心も一緒に行くみたいで…とても心配よ。あなたの力でないと、霧を一気に消せないんだもの。もうドラゴン城の結界回りは真っ黒…そんなに力の無い王の結界は霧が抜けて、みんなコンドルの結界に向かってるの。でも、コンドルの結界の中に霧を持って入っちゃうから、大変みたい。早く何とかしないと…。》

十六夜は、う、と唸った。

維月は、ハッとして十六夜を思い切り揺さぶった。

《十六夜?!聴こえてる?!起きて!頑張って!》

《うううう~…。》

十六夜は、眉を寄せて顔をしかめ、必死に見えない何かと抗うように寝返りを打って唸る。

維月は、もうひと押しだと必死に十六夜を揺すりまくった。

《十六夜!十六夜頑張れ!目を開くのよ!》と、瞼をグイグイ引っ張った。《ほら見える?月の中よ!私居るでしょ?起きてってば!》

だが、十六夜の瞼の下は白目を向いていて、どうも眼球を動かせないようだった。

それでも維月は期待していた。本来、自分達は月に居る時はいつも、光のままで漂うばかりなのだが、一人一人の意思をしっかり持ちたい時は、月の中でも人型だ。ここへ来た時、十六夜は人型で転がって寝ていた。起きていたいのに、寝てしまった状態だということだった。

だから維月も人型で十六夜の隣りに居たのだが、この姿で居ると、こうやって物理的に接触することが出来るので、刺激を与えて起こす事が出来やすいのだ。

《維月…引っ張られるんだ。》十六夜が、呟くように唸り声の中で言った。《オレは起きてぇのに…。》

まるで無理やり口を動かしているような、おかしな動きだった。

十六夜は必死に抗い続けているのだ。

《十六夜…》維月は、地上を見た。そうだ、あっちの方を放って置けない。《…あ、義心が…ヴァリーと一緒にドラゴン城回りの黒い霧に突っ込んで行く…!フォローしなきゃ!》

維月は、十六夜を目覚めさせるのも大事だが、それより今現在霧と戦っている者達を見ておかねばならないと意識をそちらへ向けた。

十六夜は、まだ維月の後ろで唸っていた。


義心とヴァリーは、鎧下着と袴を新しい物に着替えて、すぐに龍の宮を飛び立った。

そうして、北へと進路を取って飛ぶと、北の大陸などすぐだ。

義心は、自分と同じスピードで飛ぶヴァリーを見ながら、言った。

「主はかなりの力を持っているのに。我より飛ぶのが速いであろう。」

ヴァリーは、驚いた顔をして、首を振った。

「いや、我はこれが精いっぱいぞ。主があまりに速いので、本当に軍神なのかと驚いておったところ。」

義心は、こちらに合わせているのではなく、技術を知らないのだとそれで分かった。なので、言った

「主は我より遥かに速く飛べるはずぞ。王並みの力を持っておるのだから、コツさえ掴めば格段に出来ることが増える。全てが収まったら、もっとこちらの宮へ参るが良い。我でなくとも帝羽や明蓮が、もっと技術を教えてくれよう。主は誠に、何も知らぬのだな。」

ヴァリーは、頷いた。

「これまで、教えてくれる者もおらずで。我らは軍神家系の者とは違い、自己流で何とかするより無かったのだ。最近になって、警備の任務の時にコンドルの軍神達と知り合い、レオニート様が立ち合いすることを許してくだされて、あのような晴れがましい場所で鍛錬することが出来ておったが、我らは基本、城の訓練場にも入る事は無くて、外で下士官同士剣を振るしかなかったのだ。」

ドラゴン城ではそうなのか、と義心は思っていた。龍の宮では全ての軍神が訓練場へ来ることが出来、そこへ来れば誰か上位の者が居るので、それらが教えて皆、それなりの事が出来るようになる。

そもそもこちらでは、軍神家系以外でいきなりに気の大きな神が生まれる事がないので、下位の者達だからと放置されるような事は絶対になかった。

そんな事を話していたら、目の前に黒い霧が増え始めた。

ドラゴン城が向こうに見えているが、この距離でももう、かなりの上空まで霧が溜まって来ているようだ。

そして、そのドラゴン城の結界は、まだ辛うじて残っていた。

「…我はザハールを探す。主は己のタイミングでヴェネジクト様を連れ出してくれて良いから。こちらの結界とか考えず、己の責務だけを考えよ。無事にここから連れ出すのだ。」

迫って来る黒霧に覆われた結界を前に、ヴァリーは頷いた。

「分かった。我の宿舎に、まだ維月様が下さった月の衣が残っておる。下士官の部屋の、第126号舎ぞ。ゲラシムと同じ部屋であるから、あれの衣も同じところにあるはず。もし必要なら、それを。」

義心は、頷く。もう結界は目の前だ。

まるで、霧の塊の中へ突っ込むようだった。

「…参るぞ!主も励め!」

義心が言うのを最後に、二人の姿は霧の中へと突っ込んで行った。


結界の中は、霧は少なかったが、霞む程度には霧が舞っていて、シンと静まり返っていた。

周辺の力の少ない神達は、地面に倒れて唸り声を上げている。恐らくは、少ない霧にでも憑かれて身動き取れなくなっているのだろう。

そんな神達を眼下に見下ろしながら、助けている余裕は無かった。今は、大元の神を何とかしなければならない。

二人が、城の方へと向かうと、城の上の方へと細かい霧が入って行くのが見えた。結界内へと入った僅かな霧は、周辺の神達へも憑りつきながら、そうして生み出された霧と共に全てヴェネジクトが居る場所へと向かっているようだった。

…上は大変な様であろうな。

義心は、ザハールの気配を探りながら思った。ヴァリーは、そこから真っ直ぐにヴェネジクトが居る場所へと飛んで行く。

それを遠目に見送ると、細い光の柱がそのヴァリーの通る場所を薙ぐように走っているのが見えた。

…維月様か?

義心は、ハッとした。よく見ると、自分が飛んでいる場所にも光が降り注いでいる。

維月が空から自分を守ってくれているのだと思うと、義心は力がみなぎるような気がした。

義心が気持ちを奮い立たせてザハールの気配を探って城の中を飛んで行くと、少し上階の辺りにそれを感じた。

…そこか。

義心は、急がねばと捉えたザハールの気配を辿って飛んだ。

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