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軍神達2

訓練場へとたどり着くと、まずは炎嘉と二人でそっと大窓の前に立って、皆が立ち合う様を何気なく見ているふりをした。

広い訓練場のあちこちに、軍神達が集まってはその班で何をするのか決めて、鍛錬をしている。

入ったばかりの幼い軍神達が端の方で集まって刀を振っている場所もあれば、下士官たちばかり集まって、同じレベルの者同士で立ち合う者、上がったり下がったりしながら自分の弱い所を淡々と一人で直している者と、いろいろな者達がバラバラに散って、励んでいた。

そんな中、恐らく義心も見ると言っていたので、義心を見つけたら居るはずだと気を探って見ると、向かって右側の奥の辺りに、人垣ができていて、その中心では義心が誰かと立ち合っているような気配が感じ取れた。

そちらか、と目を凝らして見ると、義心がヴァリー相手に、軽く指導するように立ち合っているのが見えた。

「豆粒のようよ。」炎嘉は言った。「主は己の結界の中であるからどこでも見えるであろうが、我は違う。観覧席でも良いから回り込んで近くで見ようぞ。」

維心は、炎嘉を見た。

「我らが二人並んで観覧席になど現れたら、あちらは構えようぞ。地下に座敷牢のようなものがあって、そこの明り取りの窓が細くあっての。そこが地上で、立ち合っている様がとりあえずは見える。そこならどうか。」

炎嘉は、頷いてさっさと回廊を回り込んで歩き出した。

「ああ、あそこか。知っておる。ならば参ろう。気になって仕方がないではないか。」

この宮の事なら何でも知っている炎嘉は、維心が答えるのも聞かずにどんどん歩いて行く。

維心は仕方なくその背を追って歩いた。


そこは、大罪を犯したのではなく、ただ疑惑のある程度の者とか、よく分からない者をとりあえず収容しておく場所で、まずは軍神達がここで吟味し、それでも分からなければ維明や維斗が来て更に吟味する、そんな場所だった。

なので、簡易の寝台も綺麗で、家具も文机や椅子なども設置され、牢とはまた違った様子の場所だ。

普通の部屋と違うのは、こちら側の壁が全て格子になっていること、窓がないことぐらいだった。

窓は、3メートルほど上の天井近くに、横に細長いものがついているのだが、ここは地下なので、そこがギリギリ地上といった様子で、そこから覗くと、目の前に軍神達の足が複数見えるような状態だった。

維心と炎嘉が浮き上がってそこから覗くと、目の前にあった誰かの足がすいっと横へと移動した。

軍神達はその階級によってそれぞれ違う甲冑を着けているのだが、基本パッと見皆一緒なので、まして靴など見分けが付かないので、誰の足なのか炎嘉には分からなかった。

だが、維心にはそれが、明蓮の足だったのは分かった。靴は同じだが、戦場で討たれた時や、足を失った時に誰のものかすぐに分かるように、踵に名前が刻まれているのだ。

維心はそれを見逃さなかった。恐らく明蓮は、維心の気配を足元に感じて咄嗟に下に居ると判断し、見えるように避けたのだと思った。

思った通り、他の足もさっさとその前から綺麗に消えて、視界は良くなった。

「ほほう、あれか。」

炎嘉が、興味深く見つめながら言う。

そこには、義心に簡単にいなされて悔しげにしている、ドラゴンの甲冑を身に着けた男がいた。

目は真っ赤で、恐らく感情が昂っているのだろうと思われた。

「目が赤い。ヴァルラムも確か時に赤だったか。」

維心は、頷いた。

「だが、あれは常はブルーグレイだと聞いている。感情が昂っておるのだ。義心に全く敵わぬ己が不甲斐ないのだろうの。」

炎嘉は、ハッと小さく言った。

「あれに敵う軍神など居るものか。我でも三回に一回は取られる。全く油断出来ぬ男よ。」

維心はクックと笑った。

「匡儀は三回やって一回負けたらしい。あれの対応力は大したものだし、我もあれが背に居ると戦場では心置きなく戦えるゆえ、必ず共に連れて参る。我の動きを知っておるから何の心配もなくてな。」

炎嘉は、ブスッとして言った。

「全く、我もあやつのような軍神が欲しい。なぜに龍なのかの。次辺りは鳥ではどうかと説得してみようぞ。」

あれは何度生まれ変わっても我の側に来る。維月が居るから…。

維心は、心の中で思った。あれの気持ちは嬉しいが、維月だけは譲れないし、ならば希望通り維月を守って幸福に過ごさせるのが、義心の忠節に対する何よりの労いになるだろう。

二人がそんなことを思いながら見ているとは知らず、訓練場では義心が地上へと降り立って、ゼエゼエと息を上げるヴァリーを、見下ろした。

「筋は良い。だが、力任せな所があるの。だから我相手だと息が上がって来るのだ。力を逃がす方法を考えよ。体力を温存させねば戦場ではもたぬ。」

ヴァリーは、悔しげだが、頷いた。

「誤魔化しなど利かぬ相手が居るのを知った。今は太刀だけであるが、気弾など使い出したらもっと長くは立ち合えなかっただろう。腕を上げる方向性が分かった事に、感謝し申す。」

義心は、頷いて刀を鞘に戻した。

「主は気を隠しておるな?ここでは抑える事はない。誰も見ておらぬし、一度そんな変な気を遣わずに立ち合ってみたらどうか?」と、帝羽を見た。「帝羽にも敵わなかったらしいが、勝てないとは思わなかったと言うておったろう。試してみよ。」

ヴァリーは、戸惑う顔をした。

「だが…確かに主も気が大きいが、我の気はそれだけで相手を威嚇してしまうのだ。ゆえ、まともに立ち合えた試しがなくて。」

義心は、ハッハと笑った。

「ここには気の大きさに怯えて太刀を控える軍神など居らぬよ。我が王の気の圧力に慣れておるから、他など大したことはないのだ。気兼ねなどするでない。」

ヴァリーは、ゲラシム他ドラゴンの軍神達を見た。

皆が頷くので、ヴァリーは義心に頷いた。

「…ならばそれで。」

途端に、ヴァリーは気を押さえ付けていた力を抜いた。

そこに居る軍神達が、ハッと息を飲む。

ヴァリーの気は、恐らくは炎嘉に匹敵するのではないかというほど、大きいものだったのだ。

帝羽が、ニヤリと笑って刀を抜いた。

「なかなかに大きな気を持っておるではないか。だが立ち合いは技術であるからな。さあ参れ。」

ヴァリーは、頷いて刀を手にした。

「参る。」

そうして、飛び上がって空中で帝羽と立ち合い始めた。


「…なんとの。我ぐらいはあるぞ。あんなものがその辺で生まれるのならあちらは下克上になるはずよ。」

炎嘉は、じっとそれを見つめながら言った。

維心は、その気を読みながら答えた。

「あれでは下士官の中では怖がられて腕を上げる事も出来なんだだろうの。」と、気の色に目を細めた。「…全く違う筋から生まれておるのに。なんとヴァルラムにそっくり…いや、そのものではないかと思わせる。あれが死んでから時が経っておるから、似ておったらヴァルラムだと思うておったが、ヴェネジクトは僅かに違うような。こやつの方が何やら懐かしい…最初から二人並べておったら、こちらと選んだほどこちらは似ておる。」

炎嘉も、目を凝らしてヴァリーを見つめた。

「…確かに。ただ、何しろ他神であるし親族ではないから区別が付かぬのだ。主もそうではないか?」

維心は、顔をしかめて渋々頷いた。

「そうよな。」と、窓から離れて降りて行った。「立ち合ってみたら分かるかの。義心に聞くか。あやつはヴァルラムを知っておるから、恐らく判断が付いておるのでは。」

炎嘉は、まだ窓から見たまま頷いた。

「ならば呼んでみよ。立ち合っておる様を見ておるだけでは分かりづらいわ。実際に立ち合ったやつに聞くのが一番よ。」

維心は、息をついて声をあげた。

「義心!来い。」

そう大きな声でもなかったが、念が込もっているので訓練場の義心はピクリと反応した。

そして、すぐにそこを離れて、地下へと降りて来たのだった。


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