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匡儀と共に居間へと帰って来ると、維月が着替えて居間で待っていた。

そして、維心が入って来るのを見て、頭を下げた。

「おかえりなさいませ。」

維心は維月に手を差し出した。

「目覚めたか。疲れておるようだったし起こさず出たが、匡儀が来ての。弓維の婚姻を決めて参った。」

維月は、その手を取りながら驚いた顔をした。

「まあ。黎貴様には、弓維を娶ってくださると?」

それには維心が答えるより先に、匡儀が答えた。

「あれは元より二つ返事で娶ると言うておった。だが、弓維の状態が分からぬと臣下が申すゆえ、こうして参ったのよ。黎貴は、こちらで厄介者だと思われておるようなら、己が面倒を見ると臣下に申しておったがな。」

維月は、口を袖で押さえた。ということは、本当に黎貴は弓維を愛しているのだ。

「まあ…。」

維心は、維月を促して椅子へと座り、匡儀にも目の前の椅子を進めた。

「座るが良い。それで、臣下も納得したしそれは解決したとして、コンドルとドラゴンの事なのだ。」

匡儀は、椅子へと座りながら途端に険しい顔になった。

「…主には言うておらなんだが、ヴェネジクトはレオニートに何か恨みでもあるのか。」

維心は、片眉を上げた。

「何か知っておるのか。」

匡儀は、頷いた。

「我らは北とは陸続きであるし、内情を調べるために臣下レベルの交流を活発にさせておる。旧アマゾネスの城にもよく、軍神達は立ち合いの指南と称して出入りし、内情は見ておるのだ。同じように、ドラゴン城にもコンドル城にも参っておるのだが、この間交流試合をさせようと、我の宮へ両方の城から軍神を呼んだ。ついでに王も来いと言うたら、レオニートは快く来ると返事をくれたが、ヴェネジクトはコンドルと同席など、会合でもない限り我慢がならぬと。気を遣ったザハールが来ておったが、バツが悪そうにしておったわ。レオニートは気にしておらぬようで、ザハールとも気軽に話しておったが、ザハール自身はレオニートと懇意にしておきたいようで、恐縮しながら話しておった。」

公にそんなことを言うて来るのか。

維心は、眉を寄せた。酒の席の事と、あれから普通にしていれば、レオニートがあんな性質なのだから、亀裂は入らないのが分かっているのに、まだそんなことをしているのだ。

気に入らぬならそれでも、とにかくは予定が合わぬのでザハールを行かせるとか、言いようはあるのだ。

維心は、もしかしたら匡儀は知っているかもと、言った。

「交流させておるなら、下士官は知っておるか。コンドルの城に来ているドラゴン達ぞ。」

匡儀は、顔をしかめた。

「ドラゴンがあの城にか?いいや、我の軍神達はそれぞれの城に出向いて非公式に交流しておるが、下士官までは知らぬな。そもそもドラゴンがコンドルの城になど、来たいとは思わぬのでは。王のヴェネジクトが嫌っておるのだぞ?」

維心は、答えた。

「うちの帝羽が会ったのだ。もちろん非公式であろうが、仲が良ければ相手の王が良いと言えば気軽に訓練場を使えるであろう。レオニートが否とは言わぬし、下士官の数人があちらで交流しておるのに行き合ったらしい。それは友好的な様であったとか。」

匡儀は、ますます眉を寄せて首を振った。

「知らぬ。こちらはいつも、上位の軍神達と立ち合っておるようだしな。ヴェネジクトは知っておるのか。」

維心は、頷いた。

「耳に入ったようで、内情も探れぬならもう行くなと嗜めておったらしい。下士官では城のメンツもあろうし、何も探れぬし無駄だと思うておるのだろうの。」

匡儀は、うむ、と顎に触れた。

「どちらにしろ厄介なのはヴェネジクトぞ。何かあるとしたらあちらから何か仕掛けて来た時しかあるまい。何しろレオニートは、善良過ぎるほど善良なやつで、こちらが心配になったわ。炎嘉が案じる心地も分かる。」

維心は、ため息をついた。やはりまだまだ見張っておかねばならぬか。

「…そうか。では引き続き、主もドラゴンの動きは見ておいて欲しい。幸いザハールが賢く立ち回って何とか押さえられておるようだし、すぐには何か無いであろうが、分からぬからの。」

匡儀は、頷いて言った。

「せっかくに落ち着いておるのに、乱すなど言語道断ぞ。いつまで経っても、神世は落ち着かぬではないか。人が迷惑するのにの。」

言われて維心は、頷いた。こちらでもあの戦の時には、地震もあったし気候も荒れた。気を整える神がそれを乱しているのだから、そんなことになっても仕方がない状況だったのだ。何とか抑えようとしたが、人の数は多いので、手から溢れるように犠牲が出た。もうそんなことは避けたかった。

「…本来守るべき人に迷惑を掛けてまで、乱して良い世ではない。ただでさえ短い命、人が学ぶ時を邪魔せぬためにも、我らは地上の平穏を守らねばならぬ。お互い尽力しようぞ。」

匡儀は、頷いた。

「分かっておる。己の土地だけでも平穏にと回りとは交流せずで居たが、こうなって来ると知らぬで巻き込まれることを思うと、やはり交流して知り合っておらねばならなかったの。広い世界を知って、良かったと思うておる。その分面倒だがの。」

維心は、苦笑して頷いた。

「面倒ばかりであるが、己の土地を守るためには致し方あるまいの。」

そうして、そこからは維月が自分の部屋へと退出して行くのを見送って、二人は鵬達が連絡が来るまでの間、それぞれの一族のこれまでの事を語り合ったのだった。


それから、鵬達と伏師が、書状を作って持って来て、匡儀と維心の前に全く同じ内容の巻物を二つ、並べて置いた。

維心と匡儀が、二つ共間違いなく同じ内容であるのを交互に確認し、お互いに納得して、それに署名した。

維心は、その内容の中に約定として、維心が言っておいた弓維以外の妃を娶らない事の他に、里帰りは少なくとも一年に一度はさせること、出来ない時はその理由を里へ知らせて判断を仰ぎ、絶対に戻すと判断されたらそれに従うこと、以上が守られぬ場合は婚姻関係を解消すること、が付け加えられていた。

どうやら、鵬と祥加が弓維のためにと高瑞の二の舞にならないように、考えて加えさせたようだった。

維心は強く出たなと思ったが、匡儀はそれにも特に言及することなく、すんなりとその内容のまま書状にサインをして、そうしてひと月後に結納が、そのまたひと月後に婚儀を白龍の宮で行う、と定められ、満足そうに青龍の宮を飛び立って行った。

あまりにあっさりと決まったので、維心も維月も肩透かしを食らわされた気持ちであったが、何より弓維自身が穏やかに素直に黎貴との再会を楽しみにしているようなので、これで良かったのだと思うことにしていた。


黎貴は、正式な婚約が決まって舞い上がり、しばらくは何も手に付かぬ様子で身を美しく整えることにばかり気を遣っていたが、不意に我に返り、あの義心が居る宮から来るのにと毎日訓練場に朝から晩まで詰めては、弓維が来るまでには、せめて無様には見えぬようにと必死に鍛練していた。

それでもその間には、弓維に向けて見舞いの文を書き、返事が来てはまた返事を返すと繰り返し、いい加減にしろと匡儀に嗜められていた。

確かにあちらの龍王は、大変に落ち着いていて取り乱す様など見たこともない。

それは皇子達の維明や維斗も同じで、それを見慣れて当然と育った弓維のためにも、もっと落ち着かねばと、冷静になってきていた。

そして、己の内面を整えなければならないと、父の匡儀の政務について、気を入れて王座に就いた時の学びをするようになった。

臣下達も、黎貴は軍神達と楽しげに遊んでばかりいると案じていたので、その様子には歓迎ムードだった。

弓維との婚儀まで、後一月を切っていた。

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