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変動

維心は、例によって押し掛けて来た炎嘉に足止めを食らっていた。

というのも、今日は大会合の日で、皆が続々と会合の宮へと移動している中、様子を見るために早めに行こうとしていた維心だったので、炎嘉が来て居間から出られなかったのだ。

「あのな」維心は言った。「主がサイラスがレオニートと共に来るらしいとか申すから、先に言って話を聞いておこうと思うたのだぞ?炎耀から報告がとか言うておったのではないのか。」

炎嘉は、鬱陶しそうに手を振った。

「だからヴェネジクトも居るのにどうやって聞くのだ。主はいろいろ直球であるから、あれの目の前でサイラスとレオニートにハッキリどうして共に来たとか聞くのではないのか。それは今少し待てと申しておるのだ。今はドラゴンを刺激してはまずい。あれらはあれらで勝手にやりおるから待て。」

維心は、鼻で息をついた。

「我でもそこまで考え無しではないわ。あれらが対面してどんな様子なのか見たいと思うたからもう参ろうとしておったのに。」

炎嘉は、維心を軽く睨んで言った。

「結界内は全て見えておろうが。ここで座っておっても見えるわ。とにかく、座れ。まだ皆が揃うまで時があろうが。」

維心は、イライラしながら自分の定位置に座った。炎嘉は、それを見て言った。

「申したではないか、サイラスはレオニートと話してあれにつく事にしたのだ。イゴールの事も、ヴァルラムとヴェネジクトの違いなどで何やら悟ったようであったと炎耀が言うておったと。あれが決めたことであるし、我らが口を出してもしようがないわ。」

維心は、はあと息をついた。

「…普通なら放って置くわ。だがの、今は自分がコンドルにつくのだとあからさまにせぬ方が良い。ヴェネジクトを刺激して、あれが暴走したらどうするのだ。ヴァルラムとはいえ、あれはまだ若いヴァルラムなのだぞ。我らが会った時の臈長けた男ではない。悪くしたらドラゴンを破滅に導いてしまうのだ。我はそれを懸念しておるのだ。」

炎嘉は、それを聞いて深刻な顔をした。

「…まあ、それは確かにそうよ。だからこそ、我も炎耀から聞いた時、共に行くのだけはやめよと申したのだ。サイラスにも書状を送った。ゆえ、共に来てはおらぬはず。まだ公にレオニートにつくとは申すなと我が言うておいたから案ずるな。」

維心は、じっと結界内を見つめた。炎嘉が言うように、先にレオニートが来てから、しばらくしてからサイラスが到着し、そしてドラゴンが到着するという恰好のようだ。

だが、龍の宮の到着口は大きいので、到着出来る列が7列ある。

こういう大きな催しの時には、そこへ次から次へと並んで到着して来るので、結果的にかなりの数の輿の列が隣り合い、対面することになるのだ。

つまりは、コンドルもヴァンパイアもドラゴンも、違う列ではあるが、そこで顔を合わせる事になっていた。

サイラスが来ているのにはヴェネジクトも驚いた顔をしていたが、レオニートには薄っすらと笑みすら浮かべて己から会釈して、そして、サイラスの方へと足を進めた。

ドラゴンとヴァンパイアは長く共に歩んで来たので、そこは自然に見えた。

「サイラス殿。こちらからの連絡にも返事も無かったので案じておったのだ。壮健であったのだな。」

サイラスは、ヴェネジクトに機嫌よく答えた。

「気が向かぬでな。だが、此度は出てみるかと思うた。炎嘉にも長く会っておらぬから、顔ぐらい見るかとな。主が王座に就いておるのは知っておった。上手く回しておるようよ。」

ヴェネジクトは、薄っすら笑みを浮かべて答えた。

「どうであろうかの。ヴィランに引っ掻き回されておったゆえ。数が減っておって今はそれを取り返すのに内向きの事にばかり必死になっておる。血が近くなり過ぎるし臣下達には出来るだけ回りの城から妻を迎えて数を増やせと申して…あちこち付き合いが増えてしもうて、面倒に思うておる。」

サイラスは、片眉を上げた。確かにあれだけ数が減ったら、増やさねばならない。だが、身内だけでは次の世代で血が近くなり過ぎる可能性が上がるので、外から迎え入れることが基本だ。

何やら回りの城に媚びを売っているとは思っていたが、もしかしたらそのせいか…?

サイラスは心の中でそう思った。

だが、遠く離れた奥宮でそれを見ていた維心も、同じようなことを考えていた。ヴェネジクトの真意は、どこにあるのか…?

難しい顔をしながらじっと一点を見つめる維心に、炎嘉が焦れたようにせっついた。

「こら、己だけ見てからに。説明せぬか。見ておるのだろう?」

維心は、チラと目だけで炎嘉を見た。

「…皆ほぼ同時に着いて、サイラスとヴェネジクトが話しておるわ。だが…ヴェネジクトが申しておることが、外に対する言い訳なのか、それとも誠にそうなのかが分からぬ。」

炎嘉が、顔をしかめた。

「どういう意味ぞ。」

維心は、ため息をついて答えた。

「ヴェネジクトは数が減っておってそれを増やすために、回りの城から妻を娶れと臣下達に申し渡して、血が濃くなり過ぎぬように調整しておるらしい。最近では、ドラゴンの数を増やすことに忙しいと申しておる。」

ということは、最近あちこちの城の世話をしたりとせっせと交流しているのは、自分の所へ女神を流入させるためか。

炎嘉は、そう思ったが、素直にそう信じられない状況でもあった。

そうやって縁故で繋がると、城同士の絆が臣下レベルでも深くなる。そうすると、自ずとその城の王は臣下の意見に押されてそちらへ付くという流れになるのだ。

回りの城を、そうやってじわじわと抱き込んで行こうとしているのだと言われたら、そうではないかとも思えるのだ。

「…どうであろうか。しかしコンドルが長い年月回りと築いて来た繋がりの事を考えると、今から始めても途方もない時が掛かろう。ヴェネジクトは、その数百年を待つつもりということか?」

炎嘉は言って、ハッとした。そうだ、待てる…ヴェネジクトが、あのヴァルラムの生まれ変わりというのなら、また長い寿命があるはずだ。そうなると、数百年先を見越して、コンドルとドラゴンの立場が逆転するその時を、じっと待つことが出来るはず。

維心が、炎嘉の表情を見て、頷く。

「恐らくは、それが答えか。蒼は不死であるが、そこへ嫁いだ杏奈は一般の神と寿命は変わらぬだろう。という事は、月との繋がりも、数百年のこと。それが過ぎれば、またコンドルとドラゴンの力は拮抗するだろう。その時に有利であるために、回りから固めておこうとしておると考えるのが恐らく正しい。今は、ただ時を待ちながら味方を増やそうと思うておるのだろう。」

炎嘉は、若いヴェネジクトがそれほどに気が長い戦術を取ろうとしている事実に、愕然とした。確かにあれはヴァルラムの生まれ変わりなのだろう。とはいえ、その前世の記憶無しに、こんなに根気強い戦法を取ろうとするだろうか。

炎嘉は、真剣な顔で維心を見つめて、言った。

「誠、あれはヴァルラムの記憶を持って来ておらぬのか?」段々に眉が寄り、険しい顔になっている。「そんな気の長い戦法を、うちの炎耀でも考えぬと思うのに。この戦法には、年月を感じる。まるで己が長い寿命を持っておることを、知っておるような。」

維心は、同じように険しい顔をしながらも、立ち上がった。

「…探ってみて良いやもしれぬな。とにかくは、今はこれまで。皆が会合の場に揃った。我らが参らねば、始まるまい。参るぞ、炎嘉。」

炎嘉は頷いて、維心の隣りに並んだ。

そうして、二人は会合の宮へと、回廊を抜けて歩き抜けて行ったのだった。

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