表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/183

子達2

維斗は、その様子を見ていた。

夕貴と、そろそろ帰らねばと二人の方を見たら、黎貴が何やら弓維の手を握り締めて、必死に訴えているところだったのだ。

…なるほど、慣れぬからこのように性急に。

維斗は、大丈夫だろうかと心配になった。黎貴は、女神の扱いに慣れていない。だからこそ、兄弟が居るこんな所で、つい必死になってしまって回りが見えていないのだろう。

しかし、弓維は案外に冷静にそれを聞いていて、そうして、ハッキリと自分の考えを黎貴に言っていた。

弓維、いつの間にそのようにハッキリ申せるようになったのだ。

やはり母の子、と維斗は思った。完璧に嗜み深い女神を装えても、根本的な考え方などはやはり母の影響を受けているのだ。

夕貴が、小さな声で言った。

「…あの…お兄様には、このような所で。どう致しましょう。お止めした方が良いでしょうか。」

夕貴が言うと、維斗は首を振った。

「良い。水を差すのもの。あれで弓維は話が分かる女神。黎貴殿の性質は、ある程度見抜いておってあのように問うておるのだ。元より、否なら最初からにべも無く断っておるはずよ。見守っておろう。」

夕貴は、赤い顔をしながらも、頷く。

維斗は、そんな夕貴に、言った。

「…我らも、いっそ婚姻するか?」夕貴が、仰天したような顔で維斗を見る。維斗は続けた。「百合もここに住んでおればすぐに見れようしの。父から話を聞いた時には、なんと面倒なと思うたのだが、主と話しておって、主なら毎日が楽しいやもと思うた。主は、我に嫁ぐのはどう思う。」

夕貴は、驚き過ぎてしばらく声が出なかったが、慌てて言った。

「そのような…我は、その、このようですし、維斗様が、我をなど…父も呆れるほど淑やかでないと言われるのですわ。楽しいのは我もですが、我のような妃で、誠によろしいのでしょうか…。」

維斗は、あっさり頷いた。

「良い。主は母に似ておって慕わしい性質だと申したではないか。礼儀など、公の場でしっかり出来たら良いのよ。普段は母とて奥で自由にしておるわ。父はそこまでうるさい神では無いから、母は父が許す範囲で伸び伸びしておるよ。主もそうしたら良いのだ。」

夕貴は、呆気にとられた。この龍の宮の雰囲気を考えても、絶対に厳しいのだと思っていたのに、内情は案外に寛容なのだろうか。

「あの…では、維斗様が、お教えくださるのなら。我は、最低限しか教わっておらぬので、こちらでどう振る舞ったら良いのか分からずでおりました。我が恥をかかぬよう、お教えくださるのなら、あの…我などでよろしければ、よろしくお願い申し上げまする。」

維斗は、満足げに頷いた。

「決まったの。」と、黎貴たちを見た。「終わったようよ。あちらも月が間に入って良い具合に決まった。さて、ではめでたいことであるし、父上たちにご報告しに戻るかの。」

夕貴は、こうして話している最中でも、維斗があちらの会話を聞いていたのを知った。婚姻などという重要な話をしている時に、そんな片手間で決まってしまって良いのかしら。

少し不安はあったが、しかしもう良いと言ってしまった。

維斗がもう少し自分を慕わしいとか、そんな感じに振る舞ってくれたなら、安心できるのに、と夕貴は思いながらも、維斗に手を取られて、話が終わったらしい黎貴と弓維と合流したのだった。


バツが悪そうな黎貴であったが、それでも弓維との婚姻の約束を取り付けられたのが余程嬉しかったのか、帰りはうきうきと足取りも軽かった。

維斗はと言えば、変わらず落ち着いていて、こちらも婚姻を約したとは思えない差だったが、維斗はあの維心の子であって、婚姻にそこまで重きを置いていない。

なので、手を取って歩いているのだから、これは維斗にしたら前向きな方だった。

それぞれの思いのまま、東中広間へと足を踏み入れると、維明がちょうど、そこから出ようとしているところだった。後ろでは、向こう側の出入り口から臣下達が皇子皇女を案内しているのが見えた。

「維斗か。」

維明がそれに気付いて言う。維斗は、維明に頭を下げた。

「は、兄上。もう宴は終いでございますか?」

維明は、頷いた。

「今皆に部屋へ戻れば良いと申した所。王と違って、酒が飲めぬ者もおるしな。潮時だと思うたのだ。して、主らは?」

維斗は、頷いた。

「は。我は夕貴殿を妃に迎えようと決めまして、黎貴殿も弓維を望まれるようで、弓維はその話を受けた次第で。父上と母上にご報告をと思うておりまするが、隣りはまだ宴が続いておるようですな。」

維明は、それを聞いて顔をしかめた。

「それが、父上が突然に立ち合いがどうのと言い出したようで。義心が慌てて結界を張って音を遮断して混乱せぬようにしておるが、そうでなければこの人数が押し掛けて大変な事になっておったところよ。」

維斗は、驚いて維明を見た。

「何と申されました?立ち合い?」

維明は、渋い顔で頷いた。

「詳しくは我も聞いておらぬで、これから見に参ろうと思うておったところ。何やら母上をお連れになって大騒ぎしておったので、何かあったのだとは思うのだが、まだ宴も序の口の内に出て参ったので、もしかしたら終わっておるやもしれぬ。主も参るか?」

維斗は、頭を下げて言った。

「は。」と、黎貴を見た。「では、此度はここで。夕貴殿を頼む。我は弓維を連れて参るゆえ。我から父上には申しておくが、主も父王に報告をしておくが良い。話はまた、明日のことになろう。」

黎貴は、さっさと弓維の手を取って自分の方へと引き寄せる維斗にがっかりした気持ちだったが、しかし婚姻まで急いではいけない。

なので、自分も維斗が離れた夕貴の手を取った。

「では、我はこれで。」と、維明を見た。「維明殿も、本日は世話になり申した。」

維明は、首を振った。

「良い。弓維を娶るなら義兄弟になるのだしの。ようようこれを頼んだぞ。」

黎貴は、顔を紅潮させて弓維を見てから、頷いた。

「は。」

そして、こちらを振り返り振り返り、部屋へと引き上げて行った。

残された維明は、維斗に言った。

「では参ろう。弓維、立ち合いの場であるから怪我をしておる者も居るやもしれぬが、気を強く持ってついて参るのだぞ。」

弓維は、維明に深く頭を下げた。

「はい、お兄様。」

実は弓維は、維斗とは気安いが、いつも忙しくしていてあまり話すことが無い維明とは、あまり気安くはない。宮での立場も、王位を継ぐ維明と、臣下となる維斗では、全く違っていた。

維明は、いつでも父の名代として立ち、臣下にも王に対するように扱われているが、維斗と弓維はそこまでではなかったし、いくら見られていると言って、維明ほど多くの侍女侍従が付いて回って世話をされているわけでもなかったので、自然、仕草も動きも違っていた。

それに、維明は弓維に無関心では無かったが、それでも維斗ほど常話しかけて気にかけてくれるという案じではなく、普段は父のように、必要な時しか口を利いたこともない。

そんな上の兄に対して、緊張気味にしていたが、そんな弓維を気にする様子もなく、維明は先に立って歩き出した。

これも、維明は第一皇子で父以外は自分の前を歩くことが出来ないのを知っているので、身に着いた習慣で、別に二人を気遣っていないわけでも、蔑ろにしている訳でもなく、普通の動きだった。

維斗は、弓維の手を取って、せっかくに緩んでいた様子がすっかり緊張して固まってしまった様子に川ってしまったのを気遣いながら、父が居るという、訓練場へと向かったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ